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Side-S:短編02 rise


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   私は戦士
   つまり私は被告人であり裁判官
   火の両端に 私は立つ

rise


 目を向けるのが、いつの間にか習慣になってしまっていた。
 窓から見えるアテナ神像のその足元に、今は白い戦神が立つ。

 教皇宮に割り当てられた専用の執務室の窓から外を見て、カミュは溜息をついた。
 聖域は今日も暑い。季節は夏に差し掛かっていた。
 ギリシャで見る空の色は、長いこと暮らしてしまった東シベリアのそれとは明らかに違う。故郷でも、本来の彼の仕事の為に詰めていなければならない場所でもなかったそこを、時折懐かしく想うことがある――こんな日には、特に。
 黄金聖闘士の仕事はデスクワークが主なわけではない。多少の報告書を作成せねばならないだけなのだが、今日は何故かペンが進まなかった。
 おかげで朝からずっとここに籠もっているというのに、昼を過ぎてもカミュはここから出ることができないでいる。
 かたん。
 彼にしては珍しく乱暴にペンを投げ出す。最近は古式ゆかしい付けペンでも万年筆でもなく、普通のボールペンの使用が認められているからできる所業だ。これならインクが飛び散ることもない。
 しかしどうせならPCでの書類作成も認めてほしいとほとんどの聖闘士から声が上がって、先日正式に嘆願が出されたところだ。
 今見えているアテナ神像はカミュから見ると逆光になっていて、本来優美なはずのその造形は黒く影に沈んで全く見えない。だが足元の崖下が、まるでそこから発光しているかのようにぼんやり明るい。その下に立つものに陽光が当たり、反射しているのだろう。
 ――たぶん、PCの使用が許可される日は遠くないはずだ。
 聖域のもっとも神聖な最深部、要である神像の下にあんなもの(モビルスーツ)を置く許可を出してしまうような女神だ。
 そうしたらもっと簡単に書類を作成することができるだろうかとカミュは思い、しかし今作らねばならない報告書はやはり手書きで出すしかないのだと現実を見て、ついに椅子から立ち上がってしまった。
 時刻は午後の二時を過ぎている。これからいっそう暑さがきつくなってくる時間。
 冷房など当然あるはずもない歴史あるこの建物の中でもじりじりと気温が上がってきた。こんな日には涼を求めて水と氷の魔術師と異名をつけられている彼の元にやって来る者もいないわけではないが、さすがに執務室まで追ってくるほどの遠慮知らずはいない。
 自分ひとりの為にわざわざそんな手間をかける気にもなれず、カミュは大人しく自然な温度に身を任せることにした。
 とか何とか思いつつ、結局は何もやる気がおきないだけなのだとわかっている。
 長時間座り続けて硬くなってしまった背筋を少し逸らして、やはり目が行くのは窓の外。
 カミュはとうとう部屋を出た。
 ――シエスタにかこつけて少しくらい休憩をとっても、誰にも文句は言われまい。

 ますます暑くなる頃合いに、わざわざ外へ――しかもこの日差しを遮るもののほとんどない場所へ来るような物好きは自分くらいなものだろう。カミュはそう高を括っていたのだ。
 だからまさか、いるとは思わなかった。
 教皇宮を抜けアテナ神像前の広場へ出ると、意外と涼しい風に乗って何か音が流れてきた。それで気づいた。
 まっすぐ神像を目指す。だんだん音がはっきりしてきて、音楽に変わる。
 像の足元を通り抜け、背後の崖端に立てば、それほど大音量ではないが歌詞まで明瞭だった。
 見下す。01のコックピットが開いていた。カミュから見て数メートル下、タラップのようになっているそこに、 が腰掛けていた。足を宙に投げ出すようにぶらぶらさせている。長い髪が風に流されて、見た目には涼しそうだ。実際、強い日差しを01が遮ったところにいるのでそれほど暑さは感じていないのだろう。
  がふと顔を上げた。まだ声はかけていないが、カミュの気配に気づいたらしい。
 なかなか鋭い。カミュが思ったところで、声がかけられた。
「カミュ――でしたね? 何か御用ですか? カノンならいませんよ」
 やはり鋭い。数手読んだ受け答えをする。思えばこんな風に直接彼女のところに来たことがなかったので、そういう言葉が出るのだろう。
「いや、カノンに用があって来たわけではないのだ」
「では、私に?」
 いや、とカミュは苦笑した。なんと答えようか数瞬迷って、その間にも歌は聞こえ続けている。
「音楽が聞こえたので、来てみたのだ」
 あ、と は呟いて膝に乗せていたPCを脇へ置き、腰を上げかけた。
「すみません。うるさかったですか?」
「そこでは危ないだろう。そのままでいい」
 慌てて制する。風が吹く高い場所だ。彼女が聖闘士ではないことを思えば、いかにも危なげだった。
 しかし腑に落ちない表情で見上げられて、カミュは咄嗟に言い募る。
「いや、別に苦情を言いに来たわけではない。息抜きに出てみたら、音楽が聞こえてきたのでな。気になって立ち寄ってみたのだ。――そっちへ行っても構わないだろうか?」
「……どうぞ」
 座りなおした の後ろ、少し空いている場所めがけて飛び降りる。
「すまないな、邪魔をして」
「いいえ」
  はPCをまた膝に乗せ、画面に目を戻した。キーボードをカミュでさえ目を見張る速さで叩き始める。
 歌がよりいっそうはっきり聞こえる。同じ曲をリピートして聞いているらしい。ロシア語と英語の入り混じった不思議な曲だった。それが気になったから、来たのだ。
 聖域(ここ)では全く耳にしない、懐かしい言葉が歌う。

   ――私は戦士
   つまり私は被告人であり裁判官
   火の両端に 私は立つ

「なかなか興味深い歌詞だ」
 常々思ってはいたことを、そのまま謳っていた。
 そうだ。
 罪あるものを討つとき、カミュもまた罪を新たに背負う。しかしカミュが討たなくては、その者はまた罪を重ねるのだろう。だからそれを阻止しないことは、またカミュにとっての罪になる。
  はぴたりとキーボードを叩く手を止める。わざわざ振り向いてカミュを見上げた。
「ロシア語がわかるんですか?」
「ああ。長いこと、ロシアに住んでいたからな」
「……そうですか」
 今度は英語が歌いかける。

   痛みが遠く過ぎ去るまで
   涙は見せるな
   その足で立ち 共にあれ
   我々は戦士
   立たぬ者には 死のみが待つ

、これは君の世界の曲なのか?」
「ええ。大昔の曲ですが。興味がおありですか?」
 ああ、とだけ答えて、聞き入る。

   成すべきを成せ
   恐れは審判の日まで取っておけ
   私に続け
   その身を捧げる時は 今

「なかなか、身につまされる歌だな」
 カミュは遠くを見つめた。しかしその目に映っているのは空でも大地でもない。
 否応なしにまな裏に浮かぶのは、既に過ぎ去った時間。ついに本領を発揮することのできなかった聖戦。そして悔いと禍根ばかりが残ったその前哨戦。
 ――成すべきことはできたのだろうか。
 審判の日は、ついに来なかった。
 捧げた筈のこの身は、何故か今もここに在る。
「……そうですね」
 ぽつりと聞こえた同意の声。カミュは に視線を向ける。 は再び画面に目を戻してしまっていたが、指は全く動いていない。どんな表情をしているのかも、立っているカミュにうかがい知ることはできない。
 不意に胸を衝かれた。
 カミュに向けられたその背が、妙に小さく頼りなく見えたからかもしれない。呟いたその肯定の声が意外なほどに弱く、か細かったからかもしれない。
 思わず手を伸ばした。肩に触れる。
 青い瞳がカミュに向けられた。驚いていた。当然だ。

   私は戦士
   戦うために生まれた
   この燃え盛る 理解を超えた地獄の目撃者

 この青い瞳には、今までたくさんのものを映してきたに違いない。
 ――炎を、血を。宇宙の漆黒を、人の心の闇を。
 そしてカミュが今まで見てきたような、たくさんの哀しみも。
 触れた肩は、カミュから見ればやはり細くて、あまりにも頼りない。なのにそこには途轍もなく重いなにかを背負っているのだ。
 たとえそれが 自身で選んだことだったとしても、不憫だと感じずにはいられなかった。
「カミュ?」
 戸惑った声で が呼ぶ。優しい声だと、やっと気づいた。こちらが本来の なのだ。
 時折見せる激しさは、強くあろうとした結果なのだと、そう思った。
「辛くはないのか?」
 唐突な問いだとの自覚はある。これではカミュの思いは伝わらないだろう。
 それでも聞かずにはいられなかった。
 崖下から吹き上げた風が二人の間をすり抜ける。カミュの紅い髪と、 のダークブラウンの髪が透明な風に弄ばれて、それぞれの視界を一瞬奪った。
 風が過ぎ去り、巻き上げられていた髪が重力に従って落ちて、カミュは目を瞠る。
「辛くなんてないです」
 答える の柔らかな微笑。それでも瞳には、確かな光がある。その奥に強くつよく、たわめられたなにか。

   祈る
   嘘、裏切り、虐げられた人々のことを忘れないように
   真実であるための力を、与えられんことを

 奉じる神も持たず、正義を正しく指し示す指針すら与えられず。
 何を信じて、何と戦っているのか。
 それほどまでに、何を渇望しているのか。
  の置かれている状況は、カミュの想像の範疇を超える。
 それでも。
「だって、こうしていないと、私はもっと辛くなるんです。だから今こんなことをしているけれど、それは決して辛いことではないんです」
 それでも はそう言って微笑うのだ。
 カミュが縁る絶対的な存在を持たない の、これは強さか。
 ――それともただ、怖れに対抗する唯一の術なのか。

   この炎に立ち向かう
   そうしないことは 全てを失うことだから

 たとえそうだとしても。
「……君は強いな、
 立ち向かえる気概がある。
 それを強さという言葉で表す以外の方法を、カミュは知らない。
 それは聖戦が終わってからは日常に忙殺されて忘れかけてしまっていた気持ちと、同じ種類のものだ。
 思い出した。今。鮮明に。
 この言語を日々使っていた頃には、ありふれた毎日でありながらも常に忘れることはなかったというのに。
 そんなカミュを戒めるかのように、ロシア語がギリシャの秘境に響く。

   崖っぷちに立ちつつも夢を追う
   こうすることでしか 世界は救えない

 今、 はぎりぎりのところで、ひとり戦い続けているのだろう。
 その精神は賞賛に値する。
 だが、ひとりで、というのはやはりあまりにも辛いのではないだろうか。いくら本人が否定しようとも。
  は少々困ったようにカミュを見上げている。普段の大人びた雰囲気が薄れた、いかにも年相応の少女の顔。
 カミュは の肩に乗せていた手で、今度は頭を撫でた。昔、弟子達にそうしてやったように。それでも少し違う慈しみを込めて。
「あの……カミュ?」
 そうだ。たまにはこんなふうに素の顔に戻る瞬間が、 には必要なのではないか。
 カノンと違ってカミュには の”任務”の部分に関わる権利も必要もない。だから はカミュに向かってこんな表情を簡単に見せてくれる。
 それならば。
「あまり根を詰めすぎても仕方がないだろう? 少し休んだらどうだ?」
 カノンとは違うところから、 の力になってやれるといい。
 ひとりきりではないのだと、少しでも思ってくれるといい。
「知っているか? 今はシエスタの時間だそうだ」
「あぁ、昼寝するんでしたっけ? でも私、別に眠くは……」
「なに。別に寝なくてもいいのだ。涼しいところで休憩を取らないか? いくら日陰でも、ここもじきに暑くなるぞ」
 通る風も、強い太陽に熱された空気が主成分になってきている。01の表面も、陽を受けている部分はきっと触れないほど熱くなっているに違いなかった。
「でも、お邪魔では?」
 遠慮がちに聞いてくる に手を差し出す。
「言っただろう? 私も息抜きに来たのだと」
「……ではお言葉に甘えて」
 PCをぱたりと閉じて、 は躊躇いがちにカミュの手を取る。カミュと比べればあまりにも小さな手だった。
 この手で、何を守ろうとしているのか。
 つないだ の手を優しく握る。引いて立たせた。
 ――わからなくても、こんなふうに支えてやることが、カミュにはできる。
 息抜きの場を提供することも。
 崖の上に戻ろうと、 を抱え上げようとした。思い出したように が言う。
「あ、音楽止めてきます」
 そそくさとコックピットに入っていこうとして、カミュを振り返った。
「どうした?」
「この曲、よろしかったら差し上げましょうか?」
「私に? ――いいのか?」
「ええ。随分お気に召したようですし。今度コピーしておきます。CDに焼けば聞けるんですよね?」
「……ありがとう」
  は柔らかく笑う。コックピットに入っていった。

   泣くな
   隠せ 涙は
   新しい日が訪れる
   お前の灯りは 幾千もの心を暖めるだろう
   立ち上がれ
   痛み、恐れは奥深く隠し込め
   正しいものが勝利を手にする
   全ては お前の手中にある

 いい歌だ。
  の意外な面も見ることができた。
 ――いい息抜きができた。
「ありがとう」
 出てきた にもう一度言えば、 ももう一度微笑んでくれた。

 休憩が終わったら、さくさく報告書も書けるだろうと確信した。
 ある夏の午後のひととき。

rise END


後書きです。
この話は、カミュ相手のお話ということで、前サイトにてリクエストいただいて書いたものでした。
カミュ夢とリクエストいただいたのに、全然甘くなりませんでした(汗)
いや、我が家の本編ヒロイン相手にしたのが敗因なのはわかってるんですが……
そもそも私に甘い話は無理です。逆さに振っても出てくるのはきっと鼻血だけです。
これで夢小説書きを名乗ってるなんて、ほんとにとんでもない恥知らずです。
しかも歌ネタ……へっぽこにしてもほどがあるよ自分(涙)
とりあえずコンセプトとしては、同情から始まる愛もあるよね☆ってところだと思ってください。

我が家のヒロインは性格がまんま父親そっくりなので、あまり人に懐いてくれません。
でもカミュならきっとこっそり懐いてくれるんじゃないかと思ったのです。
私の頭の中のカミュって、Wの3番目の人とイメージがだぶるのですよ。
常に冷静で、表情もあまり動かず。でもいきなり涙流してたり。
で、ときおりブチ切れた言動もかましてくれるところとか。
そんなにそっくりなので、ゆっくりお話のひとつでもできれば、きっと懐くはずなのです。
お父さんも、どうやら彼のことは信頼してたみたいですし。
なのでこのお話はその為の第一歩ってことで。

ちなみにこの”rise”は激しくジャンル違いの”攻殻機動隊2nd GIG”の主題歌です。
いきなりI'm a soldierと英語で歌いだしたかと思うとしばらくロシア語が続き、その後も英語とロシア語が交互に歌われる菅野よう子作曲の一品。
”カミュ→シベリア→ロシア→ロシア語→ロシア語の歌詞”という脳内変換の末に採用決定。
でも結構、歌詞の内容が星矢に合ってると思いませんか?
一応歌詞原文を載せるのはまずいと思いましたので日本語訳only、しかも一部勝手な意訳verです。
間違ってるのは仕様です(`・ω・´)キリッ
……と言っておきますw

2010/01/04


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