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遠雷
匂いが変わった。それで、今日は早めに切り上げようと思ったのだった。
珍しく早い時間に解放されて喜び勇みながら三々五々戻っていく訓練生達を見送って、アイオリアは一番最後に闘技場を後にする。
普通ならば天気が悪いくらいで訓練を中断することなどないのだが、それは個別に弟子をとっている場合のことだ。アイオリアには今、弟子などいない。頼まれて、こうして時折まとめて見てやることがあるだけだ。
外壁をくぐったところで、空を見上げた。急速に濃い灰色の雲が広がり、まだ昼間だというのにどんよりと暗い。ひとつ溜息をついて、首にかけていたタオルの両端を掴んだ。
こんな日は早く帰るに限る。――別に用事があるわけでもないが。
もうほとんど姿の見えなくなった訓練生達とは逆の方向、自宮を抱える十二宮へと向かう。
特に走ったりはしなかった。
白羊宮、金牛宮を抜け、双児宮の入り口でカノンに出会った。……多分、カノンだと思う。
実を言えばアイオリアは、いまだに双子座の聖闘士達の見分けがつかない。ただ、今の時間だとサガの方ならまだ教皇宮で缶詰になっているだろうという消去法での推測でしかない。
そのカノンは挨拶のつもりなのか軽く手を挙げただけで、アイオリアの横を通り過ぎていってしまった。更に下へ向かう。何か急ぎの用事でもできたのだろうか。そんなことを思いながら双児宮へ足を踏み入れる。有事の際に敷かれる名物の迷宮も、今はあるわけがない。難なく通り過ぎた。
毎日のように通り抜けているのでいい加減慣れてはいるものの、巨蟹宮の死仮面はこんなどんよりとした天気の日にはさすがに気持ちのいいものではない。
女神に請えば浄化など難しくはないのだろうに、宮主はいつまでたってもそんなことをする気配はなかった。
まさかとは思うが気に入っているのか、それとも他に何か考えでもあるのか。
足早に出口に向かう。
丁度外が見えてきたところで、眩い閃光が足元までを一瞬照らした。遅れて低い音。
どおんと尾を引いて、鈍く大気を震わせた。
「……?」
アイオリアは足を止める。彼の注意を引いたのは、当たり前だが落雷ではない。光と音の合間に、微かに聞こえたような気がしたのだ。
悲鳴が。――それも女の声だ。
それは最強を誇る黄金聖闘士達が守護を預かるこの十二宮においては、あまりに似つかわしくない。
何事かと訝しむより先に、身体は動いていた。
走る。
ばらばらと大粒の雨が痛いほどに落ちてくる。
雨にけぶる見慣れた古めかしいばかりの風景の中に、異質ともいえるひとつのの影。
巨蟹宮と獅子宮のちょうど中ほど。石段の上でうずくまるその姿は、下から見るとまるで倒れているようにも見える。
階段の途中で転びでもしたのか――ならば、頭を庇うように抱えているのは何故だろう?
まさか雷にでも打たれたか――そんな痕跡は見当たらない。だいたい、こんなに近くに落雷などしていない。
なんだかわからないが、ただごとではないだろう。普段はあのクールを身上とする水瓶座の聖闘士よりも冷静にみえる彼女が、あんな状態なのだから。
「 !」
呼んで駆け寄る。常人ならありえない速さ。ほとんど一瞬で辿り着き、もう一度呼んだ。
「 ?」
両手で頭を抱え込んだ は激しさを増していく雨に見る間に濡れそぼりながら、ゆっくりと顔を上げる。アイオリアはひとまず胸を撫で下ろした。濡れているだけで、怪我をした様子はない。
では一体どうしたというのだろう。
「どうしたんだ? なにか――」
あったのか、と、最後まで言うことはできなかった。
再び稲妻が煌き、自然の電光に晒された はまたしても頭を抱えて伏せてしまったのである。――吃驚するくらいにか細い悲鳴を上げて。
しばし唖然とした後、アイオリアは笑いを噛み殺すのに苦心することとなった。勿論、嘲笑では決してない。
――まさか雷が怖いとは。
笑いというよりは、笑みだろう。
心底安心したのだ。いつもは見ているこちらがいっそ心配になるほどに感情の機微を感じさせない にも、こんな弱点があったのだと。
ますます雨脚が強くなり、 もアイオリアもあっという間にびしょ濡れだ。
「 。いつまでもここにいても仕方がない。とりあえず屋根……」
またしても最後まで言えなかった。言葉尻が雷鳴と悲鳴に掻き消されて、アイオリアは天を仰いだ。軽く溜息をつく。ここは言って聞かせるより、実力行使のほうが早そうだ。
決断と実行はほぼ同時に行われた。
すなわち、頑なにうずくまり続ける の手を取り、驚いたように顔を上げたその身体が僅かに伸びたところですかさず抱え上げたのだ。肩に担ぐ。あまり良い格好ではないが、仕方がない。
「すまんが、少し我慢してくれ」
一言かけて、応えを待たずに走り出す。
自宮へ向かった。
居住区に入ってすぐ、アイオリアは担ぎ上げていた を下ろしてやった。半ば放心したような は、そのままぺたりと床に座り込んでしまう。
「ちょっと待っててくれ」
滴って床に広がるほどではないものの、二人ともいいだけ濡れてしまっている。タオルでも持ってこよう。アイオリアは を残して、奥の部屋へ向かった。
乾いたタオルを片手に、自分も頭から大判のバスタオルを被りつつ の元へ戻ったアイオリアは、順序を間違えてしまったことに気がついた。
なんとか落ち着きを取り戻したらしい が、それでもまだ冷たい石畳にぽつねんと腰を下ろしたまま、まっすぐにアイオリアを見つめている。背筋をピンと伸ばして。
できるだけ不自然にならないように話しかけるのに、たいそう気を使った。
「とりあえず、これを使ってくれ」
頭にかぶせていたタオルが、役に立った。顔を拭うフリをしながら目を覆い、 にもタオルを手渡す。
「ありがとうございます……」
礼を言って、 は立ち上がった。――濡れた着衣がぴったりと身体に張り付いて、目のやり場に困るというのに。
本人は全く気がついていないようだった。
それでなくとも今日の格好は露出度が高いのだ。タンクトップにホットパンツという、あまりにもラフな服装だ。
すらりと伸びやかな手足は濡れて冷えてしまったのか、少々血の気に乏しい。薄暗い室内で、いっそう白く見えた。そして――濡れたタンクトップが身体の線をあらわにしてしまっている。
よく同僚から朴念仁呼ばわりされるアイオリアだが、 ほどではないのではないかと少し自分を見直してやりたくなった。
先にシャワーでも浴びさせて、着替えさせればよかったな。
そんなことを考えながら、被ったタオルで頭ばかりをごしごし拭いた。隙間からちらりと の様子を窺えば、渡されたタオルを肩にかけて、長い髪を押さえるように水気を拭っている。お陰で首筋から腕にかけては少しタオルに隠れたが、むしろそのせいで広い襟ぐりからのぞく白い胸元がなおいっそう目を引いた。
「…………」
アイオリアはもう一度がしがしと髪を拭いてから、思い切って被っていたタオルを取り払う。覗き見みたいなことをしているから、おかしなところにばかり目が行ってしまうのだ。
それに、互いに黙りこくっているのもいけない。しかしどこか途方に暮れたような に自発的な発言を求めるのは無理だろう。 ならば。
「 は雷が怖いのか?」
口を開いたのとほぼ同時だった。 の肩がびくりと震えて、胸元にダークブラウンの髪が滑り落ちる。竦んでしまったのだ――雷の音に。
「……相当、怖いみたいだな」
苦笑するアイオリアに、 がおずおずと尋ねる。
「あれが”雷”というものなんですか?」
一瞬、質問の意図が理解できなかった。
しかし思わず真正面から見返した の顔は冗談を言っているようにはとても見えない。
「……もしかして雷を見たというか、聞いたのは初めてなのか?」
半ば恐る恐るといったふうに確認してしまったアイオリアに、 はこっくりと頷いて見せた。
「はい」
アイオリアは改めて を正面から見つめる。
成る程。出自が違うのだということを、今、心底納得した。
そして 自身もそれを裏付ける。
「コロニーや惑星上のドーム都市では、雨は降っても雷は鳴りませんから」
「雨が降るのか?」
「はい。降るというか、降らせるわけですが。空気中の湿度や地面の水分量の調整をするんです。それも計画に沿っていますから、事前に予報があるんですけどね。何時から何時まで雨になる、って」
そこまで言って、 はアイオリアを上目遣いに見上げた。
「だからこんなに急に雨になるなんて考えもしてなくて……ご迷惑をおかけしてすみません」
珍しく饒舌だと思っていたのだが、それはどうやら照れ隠しの為らしい。見上げてくる視線を受け止めて、アイオリアは気づいた。思わず笑みがこぼれる。
なんだかとても、ほっとした。
「ああ、いや。迷惑などではない。雨がやむまでゆっくりしていくといい」
何気ない一言に、 は首を傾げた。
「雨がやむまで……いつごろ上がるか、わかるんですか?」
「…………いや」
そんなこと、わかるわけがない。
しかしそれでは確かに、いつまでここで足止めを食らうのかわからない。そういうことだろう。
だから聞いてみたのだが。
「なにか急ぎの用事でもあったのか?」
「いいえ」
あっさり否定されて、アイオリアは面食らう。
自分にしてもあまり口達者ではない自覚はあるが、 はそれを上回っているのではないかと、ちらりと思ってしまった。言葉があまりにも端的というか、唐突なのだ。
いつもはカノンと、一体どういう会話をしているのだろうかと少し気になった。
アイオリアが見る限り、カノンも決して口上手な方ではない。あれでどうやって海皇を丸め込んだのかが不思議なくらいだ。本人に会う前には、過去の経歴からして蟹座や魚座――数少ない知己の中でもこの二人が一番よく口が回ると、アイオリアは評している――以上に口の立つ人物かと思っていたのだが。
これで会話が成り立っているのだろうかと、本気で心配になった。
「だって、わかっていらしたんですよね?――雨が降るって」
返答に困って黙っていると、 が不思議そうな表情を浮かべた。少し目を伏せて、何か考え込むようにする。やがてゆっくりと口を開いた。
「いつも闘技場の方に行かれているときは、こんなに早くはお戻りになっていないでしょう? だから雨が降ってくるのがわかったのではないかと思って」
さすがに言葉が足りないことに気づいたのか、フォローを入れたようだ。それには安心したが、普段のアイオリアのことをなぜ知っているのかと驚いた。
先程とは別の理由で黙ってしまったアイオリアに、 は言い足す。少し困ったように。
「……だから、いつ上がるのかもおわかりになるのではないかと思ったんです……」
いつもは凛とした声が、頼りなげにすぼんだ。そのことに更に驚いて、アイオリアは を見下ろす。
こんなにも表情の豊かな少女だったろうか。
肩にかけたタオルの端を掴んで少し顔を俯かせているその姿。初めて見たとき教皇や女神に向けていた、どこまでも強情でいて、それでいてどこか人形めいた無表情さとはあまりにもかけ離れている。
じっと見つめてしまっていたことに気づいたのは、顔を上げた がはっとしたように目を見開いて、アイオリアから目を逸らしてしまったからだ。
不躾だったかとアイオリアは恥じながらも、 から目を逸らすことができない。
とりあえず何か声をかけなければあまりにも気まずい。そう思ったところで、 が肩にかけたタオルを少し引き寄せて身体を包み込むような仕草を見せた。
「寒いのか?」
「……少し」
ああよかった。アイオリアはやっと会話の突破口を見つけてほっとする。
「とりあえずシャワーでも浴びて、着替えた方がいい。そのままでは風邪を引く。俺のでよければ着替えは貸そう」
またアイオリアをまっすぐに見返して、 は目を瞬かせた。
「え……でも、ご迷惑では? 傘でも貸していただければ……」
「急いでいるわけではないのだろう? 雨が上がるのがいつかはわからんが、雷もいつまで続くかわからんぞ」
茶化すようにそう言ってやれば、 は押し黙って視線を泳がせた。僅かながら、白い頬に朱が差している。年相応な様子は微笑ましかった。手を伸ばす。
「とりあえず、雷が収まるまではここで大人しくしているといい。もし急ぎの用事ができたのなら、送っていくから」
頭をぽんぽんと撫でるようにしてやれば、 は肩をすくめるようにしながらもアイオリアを見上げてきた。小さく頷く。
「……ありがとうございます」
アイオリアの笑顔につられたように、 も少し笑みを浮かべた。
「なかなかやまないものなんですね」
窓から外を眺めながらぽつりと は呟いた。そんな彼女にアイオリアは湯気の立つカップを手渡す。一緒に窓を覗き込んだ。
「ありがとうございます」
「熱いから気をつけて――ああ、この分ではしばらくやまないな」
渡されたコーヒーに口をつけていた は無言でアイオリアを見上げる。
シャワーを浴びさせて、着替えにと渡したアイオリアの黒いTシャツはほど良く大きかったようで、膝上丈のワンピース状態だ。 先程よりも素肌が隠れているというのにこちらのほうが艶めかしく見えるような気がするのは黒い布地に白い肌が映える所為か、それともそれがアイオリアの服だからか。
窓際のソファにちょこんと座った は、そんなアイオリアの気も知らぬげに、隣に座った彼を見上げて首を傾げる。
「やっぱり、雨がやみそうかどうかってわかるものなんですか?」
「まぁ、なんとなくは。当たらないことも多いが」
ふーん、と頷きながらもどこか釈然としない様子の はずいぶん子供っぽく見えた。
「さっきもお聞きしたんですけど、今日は雨が降るって、やっぱりわかってらしたんですか? 今日の天気予報では降水確率、低かったですよね」
そういえばそんなことを訊かれたな。アイオリアは苦笑する。
物事に明確な答えを要求したがるところが、彼の兄を髣髴とさせた。なので最近、この手の質問には慣れている。
「雨の少し前に、匂いが変わるんだ。それでわかった」
「匂い、ですか?」
そう、とアイオリアは頷く。あの感じを思い起こそうと目を閉じた。
「大気中の砂埃が湿り気を帯びる。それで、砂っぽい匂いが強くなる。だからわかるんだ。じきに雨が降るな、と」
目を開ければ、 が少しばかり目を瞠っている。相変わらずリアクションは少ないが、驚いているらしいことは十分にわかった。付け加える。
「 もしばらくいれば、わかるようになるさ」
軽く眉根を寄せて、 はまたしても首を傾げた。
「……地上はいろいろな匂いに満ち溢れているので、嗅ぎ分けられるかどうか」
「いろいろな匂い?」
面白いことを言い出した。聞き返せば、 は頷く。
「何の匂いかわからないんですけど……とにかくいろいろ。風に乗ってくるんです」
それは地上で生まれ育った人間には、きっと当たり前すぎて感じ取れないものだろう。
アイオリアは目の前の少女と自分の間の、どうしようもない隔たりを思った。――今はこんなに近くにいるというのに。
ほんの些細なことであっても、その感じ方には大きな違いがあるのだろう。
「そういえば、何であんなに雷が怖いんだ?」
それもまたアイオリアには想像のつかないような理由があるのだろうか。ふと興味を覚えて訊いてみただけだったのだ。
――まさかこんなにも沈んだ表情を浮かべるとは、思いもよらなかった。
「怖いことを、思い出しました。だから怖かった……」
「怖いこと?」
は頷く。
「照明弾の光かと思ったんです」
ぽつりと語った口許は笑みの形をしていたけれど、あまり成功しているとは言い難かった。
「それから、爆撃の音が響いて――」
目を伏せた。長い睫毛が白い顔に、よりいっそうの影を落とす。
「何もわからなくなって。気がついたら、私の上に護衛の方が覆いかぶさっていて……」
途切らせながらも言葉を紡ぐその姿に胸を衝かれた。アイオリアは何も言えずに、ただ見つめることしかできない。
「……何度呼んでも、もう動いてくれなくて」
瞳の力を借りていなければ、ただただ儚くか弱い少女だ。
「そんなことを思い出してしまって、怖かったんです……」
カップを持った手が微かに震えていた。半分ほど残ったコーヒーにさざ波が立っている。
耐えているのだと思った。心の奥に深く刻み込まれた、鮮烈で強固な負の記憶に押しつぶされないよう。
それはもう、必死に。
「……!」
が顔を上げた。心なしか潤んだ瞳が、驚きをもってアイオリアを映している。
言葉を。
かけようと思ったのだ。慰め、安心させるような言葉を。しかしアイオリアは結局、どんな言葉も発することはできなかった。
だからかわりに、 の両手を自分のそれで包み込む。
震えが収まるように。恐れが和らぐように。
自分の手を優しく包み込むアイオリアの手に、 はそっと視線を向ける。
そのまま二人は黙り込んだ。窓を打つ雨の音が、室内の静寂を際立たせる。
やがてゆっくりと は目を上げた。――その瞳の色。じっと見上げられて、アイオリアは息を呑む。
深い海のような。高い高い、空のような。毅(つよ)い印象ばかりが先に立っていたその色は、今はあまりにも静かで。
それでも確実にアイオリアを射抜く。柔らかく。胸に染み入る。
そして囁くような声がアイオリアの耳朶を打つ。
「あなたのこの手は」
繊細な感情に満ち溢れた声だと思った。あまりにも繊細すぎて、だから無機質に聞こえてしまうのかと。
「雷光を作り出すんですよね」
近くで聞けば、なんと柔らかな声だろう。
「……怖いか?」
尋ねながらも、恐れを抱いているのはむしろアイオリアの方だった。肯定されてしまうのを恐れている。
「――少し」
だから、微かな笑みと共に が頷いて、胸が押しつぶされるような感覚を覚えた。 の手を包み込む掌から、力が抜けた。
でも、と はカップから手を離し、自分からアイオリアの手を求める。指先を軽く握った。
「うらやましいと思います」
沈んだ気持ちが瞬時に浮上した。アイオリアは の長い睫毛がゆっくりと伏せられていくのをじっと見守る。
「なにものにも拠らない、自分自身で得た強さが、この手にはあるんでしょう?」
――そしてまた、射抜かれる。それこそどうしようもない強さを秘めた、その青い色。
「うらやましいと思います。私も――」
どこか切なげに滲んだ。声も、瞳も。
「そんな強さが欲しい……!」
アイオリアは の手を握り返す。よりいっそうの力を籠めた。強く。壊れ物を扱うかのごとく、それはそれは慎重に。
「……分けてやろうか?」
掴んだその手を引き寄せる。軽く見開かれた青い瞳を覗き込んだ。
「人は、一人きりでは強く在ることはできない。誰かに分けてもらわなければ、どんな人間だってきっと強くはいられないんだ」
白い指先に唇を寄せた。アイオリアだけを映す青い目に、笑いかける。
「だから、俺でよければ分けてやろう」
見開かれていた瞳は、やがてゆっくりと細められた。これまでにないほど柔らかな光を湛えて。
「……ありがとう、アイオリア……」
甘やかな声は雨音に紛れ込む。
いつのまにか、雷鳴は遠ざかっていた。
遠 雷 END
言い訳です。
うわ(汗)っていうか、あ……あれ?
ネタが降ってきたときにはこういう話じゃなかったはず……多分(爆)
どうしてこんなことになってるんでしょうか(←訊くな;)
雷が怖いのは、地球を知らないスペースノイドの宿命です。
ファーストでも∀でも出てたネタです。
彼女の場合、それに加えてなにやらトラウマがあるようですが、それはまた別の話ということで。
カノンは何の用事があったのかとか、貸した着替えはTシャツだけだったのかとか、
このあと一体どうなるんでしょう、とかはとりあえず追求しない方向でお願いします……(大汗)