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Side-G:短編01 七夕


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あいたい。
でも、あえない。
ほんとは期待しちゃいけないんだって、わかってる。

だけど。

今日くらいは願ったって、いいでしょう?
だって、今日は――。


七 夕


 車窓を流れる風景に、今日はいつもと違う彩りがある。
 リリーナはシートに預けていた背を乗り出し、窓際に顔を寄せた。
 助手席に座った護衛官が、リリーナを振り返って顔をしかめる。だが結局何も言わず、また前に向き直った。このコロニーは比較的安全とされている所為だろう。
「あれは、笹……?」
 清しい緑に、色とりどりの短冊が飾られている。通り過ぎる家々の玄関先で、窓際で、そよそよと風に靡く様はリリーナに第二の故郷の夏を思い出させた。
「あぁ、今日は7月7日――七夕でしたね」
「ドーリアン外務次官、七夕をご存知なのですか?」
 隣に同乗しているこのコロニーでの案内役が意外そうに声を上げた。
「ええ。わたくし、地球ではずっとJPN地区に住んでおりましたから」
「そうでしたか」
 案内役は嬉しそうに笑って頷いた。
 このコロニーは比較的アジア系移民が多いL1コロニー群の中でも、特にJPN地区――かつて日本と呼ばれた国があった――出身者が多い。案内役も一見してそうとわかる顔立ちをしていた。やはり自分のルーツである文化を知ってもらえているというのは嬉しいことなのだろう。
 その相手が、今はその座を退いたとはいえ、世界国家の元女王であればなおさらである。
「普段離れ離れでいるしかない織姫と彦星が、今日この日だけは天の川を越えて再会できる。そんなお話でしたね」
「その通りです。本当に、良くご存知ですね」
「ロマンティックなお話ですもの。一年に一度しか会えなくても、ずっと互いを思い続けているなんて……。幼い頃に聞いてから、ずっと憧れていましたの。いつかわたくしにも、そんなに想い合える相手が現れるのかしら、って」
 そう言って、リリーナは優雅に微笑む。
 案内役は華の様な笑顔に見惚れて、その陰に潜む憂いに気付くことはできなかった。
「……」
 運転手と護衛官は、互いに顔を見合わせた。ちらりと後部座席を振り返ったのは護衛官の方だ。視線に気付いたリリーナが小さく首を傾げる。
「あら、五飛(ウーフェイ)。何かしら?」
「いや……じきホテルに着く。今日この後外出する予定はないな? また突然、買い物に行きたい、とか言い出したりしないだろうな」
 リリーナはバツが悪そうに口許を歪めた。確かに、たまにそういうことを言い出して、かなりの割合でリリーナの護衛を勤める五飛の額に青筋を立てさせたことはある。
「今日は大丈夫です。さすがにここ一週間ずっと働き詰めで疲れました。大人しく部屋で寝ていることにするわ。出発は、明日の午後で良いのでしょう?」
「ご無理をさせてしまって、申し訳ありませんでした」
 案内役が小さくなって頭を下げた。リリーナは慌てて手を振って見せた。
「いいえ、そんなつもりで言ったのではないのです。この一週間、充実した仕事ができてとても満足しているのですよ。これもひとえに皆様のおかげです。ただ、仕事が続いている間は気が張っているのか睡眠時間がどんなに短くても平気なのですが、一段落するとそのぶん疲れがどっと出てくるのです。いつものことですから、どうぞお気になさらず」
 はぁ、と案内役がまだ申し訳なさそうに頷いたところで、車が止まった。
 この一週間連泊しているホテルのエントランスの正面に横付けされた車のドアに、ベルボーイが手を掛けた。
「着いたぞ」
 五飛が無愛想に言い置いて、先に車から降りる。次いで案内役が降りて、リリーナをエントランスまでエスコートする。五飛はリリーナの後ろにぴたりと付いた。
「短い間でしたが、本当にお世話になりました。またの機会がありましたら、そのときもぜひよろしくお願い致しますね」
 入り口の直前で立ち止まり、リリーナは案内役に礼を述べる。彼は感極まった表情で、頭を深く下げた。
「またお会いできますよう、祈っております。こちらこそ、ありがとうございました」
「……行くぞ」
 リリーナの背後に立った五飛が、早く中に入るように促す。こういった場所は狙われやすいのだ。
「では」
 リリーナも小さく会釈して、エントランスに入っていった。案内役は呆けたように、そのまましばらく頭を下げ続けていた。


 どさりとベッドに身を投げ出した。最上質のベッドが弾みすぎず沈みすぎず、疲れきったリリーナの身体を優しく受け止める。
 案内役と別れてすぐ、連泊しているスイートルームに戻ってきた。
 護衛役は当然別室である。とは言ってもすぐ隣だが。五飛はくれぐれも部屋から出ないようにとしつこく念を押してから、出て行った。
 今日は最終日と言うこともあってまだ時間は早い。最後に会食でも、と言う申し出もあったのだが、連日の激務を目にしていた担当者が気を利かせてくれて、その話は無しになった。
 だからこれから明日の昼まで、リリーナはこの部屋にひとりだ。
 ほっとする反面、どこか寂しくもある。
 ベッドに寝転んだまま、部屋をぐるりと見渡した。
「……笹」
 窓際に、花ではなく笹が飾られていた。七夕の今日限りのサービスだろう。
 リリーナは起き上がって、窓際まで歩み寄った。笹の隣のミニテーブルに目が留まる。くすりと笑った。
「こんなものまで」
 綺麗な色の短冊が何枚かと、ペンが用意してあった。隣には丁寧に説明書きまで置いてある。
 ――この短冊に願い事を書いて、笹に括り付けてください。きっとあなたの願いは叶えられることでしょう。
 リリーナはペンを手にした。ひときわ濃いブルーの短冊を探し当てる。
 この色がいいと思った。あのひとの、瞳の色。
 ペンのキャップを取って――やめた。
 叶わないとわかっていることをするのは、あまりにも寂しい。
 それが形になってしまうのは、きっと虚しいから。
 短冊をテーブルに戻して、リリーナはバスルームへ向かう。
 ――洗い流してしまおう。
 疲れも。
 このどうしようもない想いも。


 バスルームから出てきたリリーナはおざなりに髪を拭いただけで、ベッドに横たわった。
 広い静かな部屋。TVくらいつけたほうがいいだろうかと考え、結局身体を動かす気になれなかった。
 まだ夕食も摂っていない。ルームサービスを頼まなければとも思うが、あまり空腹は感じていない。ならば頼むのも億劫だ。
 別にTVが見たいわけでも、静かなのが嫌なわけでもない。食事をしたいわけでもない。
 短冊を飾られていない笹の葉が、エアコンが起こす微かな風に揺れている。
 さらさら。
 葉の擦れ合うささやかな音が、部屋の静寂をよりいっそう際立たせる。
 さらさら。
 リリーナは目を閉じた。
 短冊には書かなかった。書けなかった。でも、願いなら、ある。
 見たいものも、聞きたいものも――欲しいものは、ある。
 たったひとつだけの。ささやかな、ささやかな願い。
 決めた。
 目を開いて、起き上がる。
 書くだけだったら。願うだけなら。そのくらい、リリーナの自由だ。わがままなんかでは、決してない。
 ミニテーブルの上の、さっき選んだブルーの短冊を手に取った。
 綴りたい思いは決まっているが、どう書いたものかしばし迷う。
 知らずさまよった瞳が、窓から空を見上げていた。すでに夜の時間になっていて、空はもう暗い。
 皮肉なものだ。
 真空の宇宙に浮かぶコロニーからは、本当の夜空は見えないのだ。人工の空が覆い隠す。この大いなる矛盾。
 ――コロニー生まれの彼は、どこまでも広がる星空を見たことがあるのだろうか。
 リリーナは思う。
 織姫と彦星を隔てる天の川を、彼は見たことはあるのだろうか。


 部屋のインターホンが、ピピピと控えめにリリーナを呼んだ。びっくりした拍子に、短冊を取り落としてしまった。ひらひらとそれは舞い落ちて、思わず拾おうと屈む間にもインターホンは呼び出しを続ける。どちらを優先しようか一瞬迷って、結局短冊を取った。
 ようやく短冊を掴んだとところで、いきなりドアが開いた音がした。
 そんな馬鹿な。リリーナは身を硬くした。入り口はオートロックだ。リリーナは鍵を開けた覚えはないし、ここはこのコロニーの中でも抜群のセキュリティーを誇るホテルで、しかもリリーナの居室は最も厳重に警備されているスイートである。そう簡単に入ってこれるわけがない。
 廊下に面しているドアは居間の部屋で、ここはその奥のベッドルームである。訪問者――侵入者の姿は、ここからは見えない。
 もはやリリーナには、硬直したまま侵入者が姿を現すのを待つ意外、術がないのだ。
 しかし、そんなことができる人間に、心当たりもあった。
 リリーナは恐怖と期待を胸に、ベッドルームのドアが開くのを待つ。


 せっかく拾い上げた短冊は、またひらひらと床に落ちた。でも、もう拾わなくてもいい。
「――ヒイロ!」
 飛びつくように抱きしめた。はしたないとも思ったけれど、頭より身体は正直だ。
「いたのか。インターホンは鳴らしたんだが……」
「ごめんなさい。ちょっと手がふさがっていたものだから」
 彼の胸に押し付けていた顔を一旦離して、見上げた。出会った頃は同じくらいの目線だったのに、いつの間にかずいぶん上から見下ろされるようになってしまっていた。
 群青の鋭い瞳が、今はは柔らかくリリーナを捕らえている。
「リリーナ」
 躊躇いがちに口を開いた彼に全部を言わせず、リリーナは後を引き取る。
「会いたかったわ――本当に、会いたかったの」
 もう一度ヒイロの胸に頬を押し付けた。
「来てくれて、すごく嬉しい……」
 何も言わずにヒイロはリリーナを優しく、しかし強く強く抱きしめる。そして艶のあるライトブラウンの髪に何度か口付けてから、顔を上げた。
「七夕か……」
 腕の力を緩めてくれたので、リリーナは少し身を離した。ヒイロの視線はリリーナの背後の笹に向けられている。
「知っているの?」
 いかにも意外そうに驚きの声を上げるリリーナに、ヒイロは気を悪くした様子もなく短く肯定した。
「ああ」
「……短冊まであるのよ」
 くすくすと笑いながらミニテーブルの上の短冊を示して見せれば、ヒイロはまじまじとリリーナと笹を見比べた。
「願い事はしないのか」
 リリーナは目を瞠る。まさかこんな言葉が彼の口から聞けるとは。
「ヒイロは何かお願い事があるの? よろしかったら一緒にどう?」
 仕事柄、動揺を隠すのは慣れている。茶化してみた。
 しかしヒイロはどこまでもまじめに答えた。こちらも仕事柄、感情を押し隠すことには慣れている。勿論、からかわれていることには気づいただろう。
「いや。その必要はない」
「あら、どうして?」
 あえて拗ねたように聞き返してみた。でも、答えなんてもうわかっている。
 問いを重ねあうのは、答えを相手の口から聞きたいからだ。
「お前は、願いはないのか?」
「……ヒイロこそ」
 一筋縄ではいかないふたりだ。互いにそれはわかっている。
 しばしじっと見詰め合った。眼差しの中から、答えを探り出すように。
 そして結局、ふたりとも降参するのだ。
 どちらからともなく目を閉じて、キスを交わす。
 それが降参の証で、ふたりの答え。

 願う必要なんてない。
 欲しいものは、もう、ここにあるから。

 キスの合間に、リリーナはつぶやく。
「織姫と彦星は、今年も会えたのかしら?」
 顔を離し、代わりにリリーナの腰を強く引き寄せてヒイロが答える。
「……きっと、会えたさ」
「だったら、お願いなんて書いても、聞いてもらえないわね」
 会ってしまったら、後は互いを見詰め合うことしか、きっとできない。

 今日は七夕。
 離れ離れの恋人たちが、星の河を越えて出会える夜。

七夕 END


2005年7月/七夕に旧ブログにて掲載
2009/12/30


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