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Side-S:中編03 MA★くろすオーバー2


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 双児宮、金牛宮と何事もなく通り抜け、ようやく白羊宮が見えたときには、既に夕日の残照すら空には残っていなかった。
 それなのに長い石段を下りながら白羊宮を見下ろせば、まだ灯りが一つも見えない。
 もしかして不在なのだろうか。そう思ったが、わざわざやってきたのだ。とりあえず声くらい掛けてみようか。
 入り口――下を入り口、上の神殿側を向く方を出口と表現した方が適切だろうが――にたたずんで、 は宮内をのぞき込む。真っ暗でなにも見えない。しかし灯火がなくとも、それは決して禍々しい闇ではなかった。


 ***


 誰かの声が聞こえたような気がした。
 貴鬼はふと顔を上げる。そうしてようやく、辺りがすっかり闇に包まれていることに気がついた。
「あれ? もう夜?」
 立ち上がれば、背中が痛い。ずっと同じ姿勢を取っていたせいだ。まだ柔軟な筋肉を備えているはずの貴鬼がそう感じるということは、それだけの時間が流れてしまったことの何よりの証明だ。
「誰かな? ――困ったな。ムウ様、いないんだけどな」

 来客への対応は、基本的に貴鬼の役目である。それが万が一客ではなく敵だったとしても、初めに出るのは貴鬼だ。一応そういうことになっている。
 だがほとんどの場合、貴鬼がやることといったら来客の接待ではない。用向きを聞き、追い払う――もとい、丁重にお帰りいただけるよう取りはからうのが貴鬼の主業務である。
 とはいえ、本当に用事のある場合は勿論、師であるムウに取り次ぐ。むしろ本当に用事がある客が訪れる場合はムウに用があるのであって、貴鬼だけがいたところでなんの役にも立たないのである。
 現在、そのムウはジャミールに帰っている。聖戦終了後は聖域にいることがほとんどなのだが、それでも彼のもう一つの仕事――聖衣修復に必要な材料などの調達に、聖域を離れることはしばしばだ。
 今回は彼の地元、チベットで入手が可能な材料が目的だ。だからついでにジャミールにも寄ってくると言っていた。たまに戻って手入れをしてやらなければならないのだ。元々傾いている建物だ。少し放置しておくだけで、瓦礫化してしまうに違いない。

 もう一度声がした。女の声だ。それも神殿方面から。
「はーい!」
 とりあえず返事をしながら、慌てて燭台に灯りをつけて回る。
「ちょっと待ってくださいねー!」
 叫びながら意識を凝らす。そうするだけで、火種がなくとも貴鬼は火を点すことができるし、来客の小宇宙を探ることだってできた。
「この小宇宙は…… さんだ」
 はっきりと強い小宇宙を持つ聖闘士や、一度は聖闘士を目指したことのある人間がなる雑兵、神に仕えるべく特殊な精神鍛錬を行っている文官ならともかく、ただの女官や一般人の小宇宙は弱く特徴にも欠けるので見分けにくい。
 だが からは強さはさほどではないものの、特徴のある小宇宙を感じることができた。だから見分けがつく。やはり異世界の人間はなにか違うのだろうか。
「うーん……」
 通りすがりの燭台に一つ一つ火を点して回っていた貴鬼は道の半ばで唸った。さっさと を迎えに出た方が早いだろうか。 もなんだか日々忙しそうにしているのを知っているので、あまり待たせるのは気が引けた。
 だが、暗いのは貴鬼自身が嫌なのだ。白羊宮は貴鬼の家――ジャミールの館を家と呼んでもいいのなら、貴鬼にとっての家とはあそこでしかない――とは違う。師がいるのならともかく、一人きりの宮は広すぎる。そして暗すぎる。
「……やってみるか!」
 貴鬼は立ち止まり、意識を極限まで集中させる。小宇宙を高める。――イメージする。
 通路の燭台。等間隔に並んでいる。いくつも。たくさん。並んでいる。
 ――火。燃えろ。
 小さな熱源。点す。燭台の数だけ。全部。
「ふぁいやー!」
 叫ぶ。
 言葉を出すことはイメージを爆発させ、具現化させるのに役立つ。聖闘士が技の名前を叫ぶのと、同じ理由だ。
 果たして通路が一斉に明るくなった。
 同時に小さく悲鳴のような声が聞こえて、貴鬼は慌てて出口へと走る。なにか失敗でもしただろうか。
 貴鬼も聖闘士候補生だ。はしっこさにかけては自信がある。あっという間に辿り着く。
さん!? 大丈夫?」
  が両手を組むようにして、立ちすくんでいた。貴鬼の姿を認めると、ほっと息をついた。
「どうしたの? 変なところに火でもついた?」
「――というより、急に火がついたからびっくりして……だってこれ、電気じゃないんでしょう?」
 宮内をのぞき込みながら、 は苦笑する。
「貴鬼君、こんなこともできるの? すごいのね。――誰もいないかと思っていたからちょっと驚いてしまったわ」
「ごめんね。ちょっと課題のことを考えてたら、すっかり暗くなちゃってて…… あ、そうだ。ムウ様に用? なら、残念。ムウ様、今朝からいないんだ。おいらに課題を出して、聖衣の修復材料調達に出ちゃった。数日は戻らないと思うよ。……何か急ぎの用事なら、連絡を取ってみるけど」
 申し訳なさそうに言い募る貴鬼が可愛くて、 は笑みをこぼした。
 だが貴鬼はこう見えても、黄金聖闘士の弟子なのだ。さっきいきなり通路に明かりを点したように、貴鬼の言う連絡手段というのは電波によるものなどではなく、テレパシーとか、恐らくそういった類のものなのだろう。そう考えると、軽く眩暈を覚えた。 の常識に照らし合わせれば、あまりにも荒唐無稽に過ぎる。
 だが同時に は理解している。彼らにとっては もまた、ずいぶんと常識はずれの存在なのだと。
「別に急ぎの用事ではないの。さっき不注意で、壊してしまったものがあって。そうしたら居合わせたデスマスクが、ムウに頼んでみたらどうかって言ってくれて。だから、もしもお時間があるようだったらちょっと見ていただきたいな思っただけなのだけれど……」
 いらっしゃらないのなら諦めますと続けようとしたのだが、貴鬼がはにかんだように笑うので、つい言いそびれてしまった。
「何が壊れたの? もしよかったら、おいらが見てあげるよ。聖衣はまだ難しいけど、ちょっとしたものなら任せてよ。細かい細工になら、結構自信があるんだ。ムウ様に見てもらうつもりだったんなら、あのでっかいモビルスーツとか銃とかじゃないんでしょ?」
「ええ。――これなのだけど」
  は素直に、握り締めたままだったタイピンを差し出した。もしも直るようだったら、もちろん誰がやってくれてもありがたい。
「お願いできるかしら?」
 先ほど自ら点した明かりの元で、受け取ったタイピンを矯めつ眇めつ検分する貴鬼に、 はためらいがちに尋ねる。
「う~ん……」
 かなりじっくりと観察して、貴鬼は唸った。
 やはり無理だろうか。 は不安げに貴鬼とタイピンを見比べた。問題のタイピンも相当古いものであることは確かだし、要の部品だって回収はしてきたものの壊れてしまっている。
 やがて貴鬼は、心配そうに見守る を振り返った。にっこりと笑う。
「バネの部分が壊れてるだけだよ。交換するだけで大丈夫だと思うよ。バネ周りが壊れてるわけじゃないみたいだし。でも新品の部品に合わせて、少しいじらないといけないかも知れないけど。……いいかい?」
 わずか十歳の子供とは思えないほどしっかりした物言いだった。いや、子供だなんて侮ってはいけない。きっと予想以上にいっぱしの職人なのだと、はきはきした口調から感じ取れる。
 これなら安心だ。 は微笑む。
「ええ、勿論。かまわないわ」
「――それにしてもこれ、すごくいいものなんでしょ? 縁の摩耗の状態なんかを見るとかなり古そうだけど、細工もいいし作りもいいから、ちょっと手を加えるだけで済むと思うよ」
 惚れ惚れとタイピンを眺める貴鬼に、 は苦笑する。ずいぶんと目利きだ。よほどムウの教育がいいのだろう。
「そうね。古いわよ。ちょっとした骨董品ね。二千年以上は前のものだもの」
 さらりと が口にした追加情報に、貴鬼はええっと目を丸くした。
「に……二千年? それってもはや遺跡からの発掘品……って、あっ」
 慌てて口を噤み、貴鬼は を仰ぎ見る。なにしろ 自身だって『遺跡からの発掘品』クラスの時間を過ごしている人間なのだから。
  はたまらず笑い声を上げる。さっきの職人然とした顔とは大違いだ。こんなところはやっぱり年相応なのだと思った。本当にかわいい。
「いいのよ。本当のことだもの。ところで、どのくらいでできるかしら? 別に急がないけれど……」
  の質問に、貴鬼はちょっと考える。
「あ、うん。ええと、部品があるかどうか次第だよ。ちょっと見てみないとわからないなぁ。……一緒に来る?」
 貴鬼が言うのは恐らく居住スペースの方のことだろう。普段十二宮をあちこち通り抜けさせてもらっている だが、さすがに最奥部にまで入り込むことは滅多にない。双児宮はしょっちゅう出入りしているが、他の宮でこれまでに入ったことがあるのはわずか三つほどしかない。宮主が不在だというのに、入ってしまってもいいものかと は悩んだ。しかしここで一人残されるのも嫌だった。
「いいの?」
 おそるおそる聞けば、即答が返ってきた。
「もちろん! もし良かったら、夕飯も一緒にどう? 慣れてはいるけどやっぱり一人で食べるのは寂しいんだよね~」
 躊躇する に気を遣ってくれたのだろう。本当にいい子だ。 は今度こそためらうことなく頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて。お邪魔させていただきます。夕飯はこれから作るの? 良かったら一緒に手伝いましょうか? 信じられないかも知れないけど、料理は得意よ?」
 本当のことではあるが別に自慢するほどの腕前ではないので、軽い調子で申し出てみた。すると貴鬼はニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「でもここの厨房、すごく古いよ? ハンパないよ? 見て驚いてよね!」
  も対抗して、ぱちりと片目をつぶって見せた。
「大丈夫よ、たぶん。一番初めに覚えたのは、作戦行動中に最低限の道具と時間と材料で煮炊きする方法だったんだもの」
「……それなんてサバイバー?」
 そこまでひどくないと思うけど期待しないでねとかなんとか騒ぎながら、二人は白羊宮の奥へと入っていったのだった。


 ***


 腹ごしらえから片付けまで二人で済ませてから、 は作業部屋へと案内された。
 聞けば別に貴鬼のための場所ではなく、師であるムウも日常的に使用している工房なのだという。
 工房と言っても密閉された部屋ではなく、壁面のうち二面はほとんどが扉で、開け放てば半戸外となる仕様だ。日中は開け放し、自然光を使って作業するのだという。夜になった今でも一面が解放され、涼やかな夜気が入り込んできている。
 対して扉になっていない壁には、床から天井に至るまで棚板が組み合わされ、引き出しが並んでいたり道具が並べて置いてある。壁自体はほぼ見えない。
 床もなにに使うのか には全くわからない道具でほぼ埋め尽くされており、通路と作業場所の部分だけ床石が見えている状態だ。
「ごめんね~汚くて」
 貴鬼が作業台の引き出しをひっくり返しながら申し訳なさそうに言ったが、 はううんと頭を振る。
 実際、どこか落ち着く風情だった。綺麗に整えられた部屋もいいが、 はこういった雑多な作業場は好きだ。
 雑然としているように見えるが、この環境を構築した作業者にとってはもっとも合理的で使いやすい配置なのだと にはわかる。
 聖域(ここ)では資材も設備もあまり揃えることができないので、もう長いことやってはいないが、元々 は暇さえあれば01だけでなく、他のモビルスーツの整備や調整をよくやっていた。自分の周りに、やはりこんなふうに機材を揃えては没頭する。ほとんど趣味のようなものだったかもしれない。
 だからこういった作業場の雰囲気は懐かしくもあり、羨ましくもある。
 そういえばこの世界へ来る直前に整備用具を一式、新調したばかりだったのだ。慣れ親しんだものに似た空気に囲まれていたら、そんなことも思い出した。以前に使っていた道具を緊急用として01に積んだのだが、今ではそれに助けられている。
 そんなことをつらつらと思いながら目を周囲に向けていると、戸外に向かって開かれた扉の向こうできらりと光る何かが目に入った。
「?」
 周囲のものに触れないように気をつけながら はそろそろと移動する。戸口に立てば、その輝きがきらめく月光がはじき返されたものだとわかった。ただ、月明かりを受けてなにが輝いているのかがよくわからない。
 平らになった岩の上に無造作に置かれたそれは高さ40cm足らず。光沢からして金属だろう。 の目には、時折見ることのできる黄金聖衣の質感によく似ているように見えるのだが、定かではない。
 なにしろ――形状からして、黄金聖衣と同一視するのは難しい。
 丸みを帯びたフォルム。人型を模しているようにも見えるが、その姿は三頭身ほどでずんぐりとしている。手足も異様に短い。頭部にはなにかの装飾だろうか、複雑な形の突起がいくつかある。顔に当たる部分には、大きな円形の目らしきものがふたつ。両方とも、横に一本線が入っているのが特徴的だ。そして表面には細かい紋様が彫り込まれ、あるいは隆起して、全体的にまんべんなく細かい細工が施されてある。
 全体的な異様さはともかくとして、芸術品と言って良かった。――ただし、黄金聖衣とはやはり似ても似つかない。
 しかも―― は既視感を覚えていた。いつか、どこかで、確かに見たことがあるのだ。はっきりと思い出せなくて、どうにもすっきりしない。なんだっただろうか。 はつい考え込んでしまった。
「あ~ちょうどいい部品、ないなぁ……ちょっと加工して、作らなきゃダメみたいだ」
 貴鬼の声で は我に返った。振り向けば、貴鬼がまだ引き出しを引っかき回している。
「ごめんね、 さん。バネさえあれば、すぐにできるんだけど……」
「別に急がないから、全然構わないわ。その部品がどこで手に入るか教えてもらえれば、調達してきてもいいのだけれど」
「ううん。ここにある材料で作れると思うから大丈夫。でも作っても、ちょっと手を加えないと色が浮いちゃうと思うから、やっぱり少し時間がかかるけど」
「ありがとう。直せると言ってもらえただけでも嬉しいわ。本当に急がないから、時間があるときでいいの」
「うん。わかったよ。今はちょっとムウ様の出していった課題が残ってるから、それが終わったらやるね。それまでは預かっておくよ」
「ええ。お願いします」
 丁寧に頭を下げれば、貴鬼はあたふたと両手をばたばたさせた。
「そんな大層なことじゃないってば。照れるからよしてよ」
 その様子にくすりと笑い、ところで、と は傍らの謎の彫像を指さした。
「あの……これ、なに?」
 それを目にするやいなやさっと表情を改め、貴鬼が打って変わって沈んだ声を出す。
「うん……それが、課題」
「ムウがあなたに残していったっていう?」
  が首を傾げれば、貴鬼はうんと頷いた。
「でも、これ以上なにをするの? 造形的には完璧みたいだけど……これって、昔の芸術品のレプリカなんでしょう?」
 ここまでこんなものを作り上げたのだとしたら、貴鬼の腕前のほどが知れる。これ以上なんの装飾も要らないように見えるのだが。
 貴鬼は のそんな誤解を理解した。力なくかぶりを振る。
「違うんだ。それを作ったのはムウ様だよ。ちなみにそれ、聖戦後に全数の修復をすることになった黄金聖衣の材料から作られてるんだよ。新たに調達されたんだけど、形状を変更した聖衣も多かったから、結局材料が余ったんだ」
  は改めてそれを眺める。輝きから黄金聖衣を想像したのは間違いではなかったようだ。とはいえ――
「でも、黄金聖衣の素材でこれって……」
 絶句する に、貴鬼が不思議そうに問う。
「これ? そう言えばレプリカって?」
「昔、古代史のアーカイブで見たことがあるのを思い出したわ。なんて言ったかしら。確か――」
 少し瞑目して、遙か昔の記憶を引きずり出す。それは奇跡的にするりと口から出てきた。
「……そう! ド・グー!」
 貴鬼が目をぱちくりとさせている。
「ド・グー? ……変な名前だね」
「本当よね。正式には、シャコー・キ・ド・グーって言ったはず。名前の意味は忘れてしまったけど」
 へえ、と感心したように を見つめたものの、貴鬼は肩を落としてしまった。
「でも、おいらに出された課題は……この黄金聖衣仕様シャコーなんとかを完全に破壊することなんだ……」
「――壊すの?」
「そう」
 ふうと重い溜息をついて、貴鬼は像の前にしゃがみ込んだ。
「黄金聖衣と同じ素材ってことは、とにかく無茶苦茶、馬鹿みたいに剛性があるってことさ。それを壊せだなんて……難しすぎるよ。しかも条件があるんだ」
「どんな?」
「潰すんじゃなくて、バラバラにしろ、って」
  はふと像の一部――手の先に当たる部分を注視する。そこは少しばかり押しつぶされてひしゃげたようになっていた。
 それに気づいたように、貴鬼がその部分をそっと撫でる。
「意味がわかんなくて、試しに先っぽを思いっきり叩いてみたんだよ、さっき。ありったけの小宇宙を込めてね。そしたら、こんなふうに潰れちゃった……」
「空洞ってことね。そういえば、確かにド・グーは中空構造だと聞いたわ。そこまで模倣してあるなんて、すごいのね」
 思わず感心した。貴鬼もそれは感じているらしい。
「ムウ様は完璧主義だよ。こういうことに関しては、一切の妥協をしないから。だからってさ、ひどいと思わない? おいら、まだ聖闘士ですらないんだよ? ただの候補生だよ? いきなり黄金聖衣と同じ素材のものを壊せだなんて、そんな話、聞いたことないよ……」
 だがどうしても恨み節が入る。訥々と文句を垂れる貴鬼に は苦笑を漏らした。
「そうね。下手に叩けば潰れるだけ。――確かに難しいわね。でもね、中空だからこそ勝機があるんじゃないかしら? ――そうだわ。タイピン修理のお礼をしなくちゃね」
 貴鬼の隣に は膝をついた。
「こう見えても、破壊活動は得意よ? アドバイスならしてあげられると思うのだけれど、それってダメなのかしら? ムウから別に、助言を受けることは禁止されてないのでしょう?」
 片目をぱちりとつぶってみせる。しゅんとしていた貴鬼の両目がうるうるしたかと思うと、次の瞬間、 に抱きついてきた。勢いで は地面に座り込む格好になってしまう。
 だが は振り払おうとも叱ろうともせず、小さな身体を抱きしめた。胸に頭を抱え込んで、撫でてやる。固そうに見えていた逆立つ赤茶の髪は、意外と細くて柔らかだった。
「今朝からずっと、こんな難題を一人で考えていたの? お疲れさま。でもね、どんなに調べても考えてもわからないことがあったら、誰かに聞いたっていいのよ。全部自分一人でやらなければダメだと言われたのでない限りは、誰かに聞いたりして見聞を広めることも自分を高める一つの手段だと思うの。……というか、私も昔、似たようなことを言われたわ。いまだに一人で突っ走ってたしなめられるのだけれど」
 くすりと笑えば、腕の中で貴鬼も鼻をぐすりといわせて、肩を震わせていた。どうやら少し笑っているらしい。
 少しの間、 は貴鬼をぎゅっと抱きしめ続けた。

MA★くろすオーバー2 END



|ω・)。oO(こんな話のためだけに散々土偶の画像をググったなんてとても言えない……)

|ω・)。oO(しかも実は結構貴鬼が好きだったんですなんて、今更言えない……)

|ωT)。oO(ショタだと思われちゃったらどうしよう……)

2010/02/06


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