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Side-S:中編03 MA★くろすオーバー4


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 故郷であり修業地でもある、遙かなチベットはジャミールから聖域へと一週間ぶりに帰還したムウは、顔見知りと行き会うたびに賞賛の言葉を掛けられて当惑した。
 その賞賛というのが、ムウその人ではなく弟子に向けられたものなのだから、当惑というよりはもはや驚愕に近い。
 勿論、弟子のことを悪し様に思っているわけではない。それでも貴鬼はこんなふうに口々に褒められるような子供でもなかった。
 能力はある。頭もいい。機転も利く。活発で、身体能力も聖闘士候補生としては申し分ない。これだけ列挙すればなんの問題もないようだが、やんちゃに過ぎることこそが問題なのだ。まったくどうしようもない。
 長いこと、ジャミールでの隠遁生活につき合わせてしまったのがいけなかったのだ。半ば追われるような身であったムウは、来客の選別にとりわけ気を使った。当初はムウが自ら行っていたその作業は、いつの間にか成長した貴鬼の役目になっていた。便利だったのでそのままにしていたのだが、思えばそれがいけなかった。来客に、常識的に見れば度を越したいたずらを仕掛ける癖がなかなか抜けないのだ。また他人にそのような振る舞いをすることに対して、特に罪悪感も抱いていない様子だった。――ムウ自身がずっとそれを奨励していたようなものなのだから、当然といえば当然だが。
 そうは思っても、いまさら言ってもなにもかもが詮無いことだ。あの頃のムウは、いつ聖域から反逆者の烙印を押されるかというぎりぎりの位置にいた。本来の教皇であるシオンの弟子であるというだけで、そのように目されてしまう理由には足りたはずだ。だがなぜか当時の偽教皇――サガは彼を見逃し続けた。その理由は、いまだにわからない。
 理由はなんにせよ、ムウはあの13年間ずっと他人を拒み続けた。その間、途中から弟子として手元に置いて養育していた貴鬼もそれを疑問に思わないようになってしまった。――仕方のないことだ。
 だが、少なくともそのせいで、貴鬼はどうにも手のつけられないやんちゃ小僧になってしまった。未来の黄金聖闘士として恥ずかしくないよう、なんとかして教育しなおさなければと常々頭を悩ませていたのだ。
 それなのに、周囲の急なこの評価の変化は何なのだ?
 頭の中を疑問符でいっぱいにして、ムウは自らの守護する宮へと戻った。本人に直接その理由を質してしまえば早いと思っていたのだが、あいにく不在だった。
 利発な上に、相手によっては素直でよく言うことを聞く貴鬼は、ムウの師でもある教皇シオンに便利に使われ――もとい、可愛がられている。このように宮を空けることは珍しくない。
「まったく。これでは留守番の意味がない。シオン様には一度、少し言っておかねばならないな」
 工房をのぞけば、出しておいた課題がまだ手付かずで残っている。
「一週間もかけて、進展なしとは……いったい何をやっていたのやら。――これは?」
 貴鬼の作業台の上、その真ん中に細かい部品を入れるためのトレイがひとつ置かれていた。中には部品ではなく、分解された装飾品らしきものが一組入っている。妙に目を引かれて、ムウはそれを手に取った。
「大きさと重さからして金か……細工も良い。磨耗の程度から見ても古いものだな。相当価値がありそうだ。貴鬼め、どこでこんなものを――いや、壊れているのか。誰かに修理を頼まれたのか……?」
 注意深く検分していたムウは、裏側に何か装飾とは違う凹凸を見つけた。小さくて見難いが、文字のようだった。
「Gloria in excelsis Deo.Gloria in Sanc Kingdom――神に栄光あれ、サンクキングダムに栄光あれ……?」
 ラテン語だった。神云々はともかく、サンクキングダムとはなんだろう。ムウは首をかしげる。どこかの国の名だろうか。それにしては聞いたこともない。
 それにしても、妙だった。書かれている文字が、ではない。この装飾品――恐らくタイピンだろう――が、だ。不思議と意識が引かれる。禍々しいというわけではないが、ひどく似た気配を纏っていた。――死の匂いが濃厚だった。
「このままでは、あまり良くないな。貴鬼に持ち主を聞いて、魔除けの印でも刻むよう勧めてやったほうが良いだろう」
 ひとりごちてトレイに戻す。
 真っ先に貴鬼の様子を見にここへ来てしまったが、本来ならまず先に帰還の報告をしに教皇宮へと向かわねばならないところだ。
 どうせシオンのところに貴鬼もいるだろう。
 そう考え、ムウは荷物を置いてすぐに十二宮の頂点を目指した。


 ***


 教皇シオンに謁見し、帰還の報告を済ませる。
 次いで貴鬼の行方を尋ねれば、聖域の外へ使いに出しているのだと聞かされた。
 ムウは大きくため息をついて、教皇に向かって苦言を呈する。
「我が師シオン。念のために言っておきますが、あれはあなたの小間使いではなく私の弟子なのです。そう気軽にほいほい使われては困ります」
 形式通りの儀礼は既に終わっている。最初に我が師と呼びかければ、シオンも応えて態度を崩した。
「そんなことはわかっておる。まったく、お前と違って素直な良い子だ。ついつい甘い顔も見せてしまうわ」
 私が素直でないというなら、それは師であるあなたの教育のせいでは?――などと口に出さない忍耐と分別をムウはきちんと持ち合わせている。
「甘い顔、とは?」
「工房では調達できぬものがあるゆえ、どうにかならぬかと頼られたのでな。私も少々入用のものもあったことだし、外で買ってくるよう使いに出した。ついでに貴鬼が要るものも釣りで買ってくればよいと言ってやったのだ」
 入用のものなど、それこそ口実だろう。ムウは思った。それではまるで孫にお小遣いをあげたがるおじいさんです――などと口に出さない理性も、勿論ムウは持ち合わせている。
「貴鬼が、なにを要ると? 不足しているものなどないはずですが……」
「ほんの少量だが、塗料が要ると言っておった。なにやら直し物を引き受けたのだが、工房にあるものだけではうまく調色ができんのだそうだ」
「ああ……なるほど。あれか……」
 ムウは先ほど白羊宮で見たタイピンらしきものを思い出す。溜息をついた。
「あれだったら、工房のものでも何とかなると思うのですが」
 思わず独りごちれば、シオンが苦笑する。
「まあ、なんとかならんこともないが。だが、ほんの少量だ。色々混ぜていたのでは量が多くなってしまうし、むしろ材料も無駄になる」
「――ご覧になったのですか?」
 シオンの言いぐさに、ムウは少しばかり驚いた。たったあれだけのもののために、貴鬼はシオンまで頼ったというのだろうか。
 思わず眉をひそめて尋ねたムウの懸念を、シオンは正確に汲み取ったようだった。
「別に、それを見に行ったわけではないぞ。もののついでだ。――ムウよ、お前がなにやら面白いものを貴鬼に渡したらしいと聞いたのでな。それを見に行ったのだ」
 ああ、とムウは密かに冷や汗をかいた。だが勿論、そんな様子はおくびにも出さない。
「……ご覧になったのですか」
 言ってから、失敗したとほぞをかんだ。同じ言葉を二度繰り返してしまうとは、動揺していると言っているも同然だ。
 果たしてシオンは、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「なかなかに面白いものを作ったな。黄金聖衣と同じ素材の……人型(ひとがた)か?」
 まさか見つかるとは思ってもいなかった。ここは開き直ってしまった方が早いかと、ムウは努めて無表情を保ったまま答える。
「土偶というものです。元々は日本の、古代遺跡から出土するテラコッタのようなものだとか。造形的になかなか面白そうでしたので、手慰みというか、細工の修練というか――」
 つい最後がしどろもどろぎみになってしまった。その隙を見逃すシオンではない。
「――馬鹿者が!」
 やってしまった。ムウは額に手を当てる。シオンはあまり反省の様子がない弟子を睨みつけた。
「貴重な材料で、なにを遊んでおるのだ! いくら聖戦がいまだかつてない形で終息したとはいえ、この世の脅威はそれだけではない。まだまだ気を抜くわけには行かぬのだ。それなのに、最も希少な黄金聖衣の素材をそんなことに使うとはなんたることだ! 私だってそこまでやったことがないのというのに!」
「……はい?」
 言葉尻が気になって、ムウは師に胡乱な目を向けた。シオンははっと表情を改める。
「ああ――いや。なんでもない」
「……黄金聖衣の素材というのは、なかなかに扱いが難しいものです。機会があれば、どのようにいじればうまく加工できるか、試してみるのもまた修練の一環です」
 機を逃さす、ムウは畳みかける。
「そしてあれを貴鬼に預けたのは、黄金聖衣の強度や特性というのがどういうものか実感させようと考えてのこと。――課題を出したのですよ。あれを破壊するようにと。ですがまあ、モノがモノです。歪むか、良くても塊に戻るのがせいぜいでしょう。いくらでも戻して修復材料として使えます。決して無駄にしているわけではないのです。どうせ余っていたのですから、形がどうなろうと問題はないはずです」
 もう一押し。ムウは攻勢の手を止めない。
「そして管理さえできていれば、誰が持っていても問題はない。例えば――シオン様も、いかがです? 久しぶりにあの希有なる素材を触ってみたくはありませんか?」
「――――う……うむ……」
 玉座の肘掛けを掴んだ両手がわずかにわきわきと動いているのをムウは見逃さない。――所詮、生粋の職人とはこういうものだ。もう一声で、シオンの勘気から逃れられると確信した。
「貴鬼が戻ったら、今度はシオン様にお預けしますよ」
 そして、陥落は完了する。
「……そうだな。まあ、二度と使えなくなるわけでもないしな。常日頃の修練は怠るべきではないな。うむ。良い心がけだ」
 お互い腹にどことなく黒いなにかを抱え込んだ師弟は、わははと乾いた笑いを交わす。ムウがほっと胸をなで下ろしたのは言うまでもない。
 これ以上何か言われる前にとさっそく退出しようとしたところで、シオンが「そう言えば」と言い出した。咎められる様子もなかったので、ムウは素直に足を止める。
「壊すように、と言い置いたと言っていたな」
「ええ。潰さず、バラバラにと条件もつけました」
 ムウ自身、無理だと思って出した課題だった。先ほどムウの言葉に異論を挟まなかったところを見る限り、シオンとて同じ評価だろう。それがどうかしたのだろうか。
 シオンは顎に手を当ててなにやら考えるようにした。
「……なにか?」
「うむ。先ほど、貴鬼の奴が言っておったのを思い出した。お前が戻ったら、やってみせるから、私にも一緒に見て欲しいと」
「やってみせる?」
 ムウは首を傾げる。シオンも腑に落ちない顔で続けた。
「意味がよくわからなかったのでな、適当に流してしまったのだが、その課題のことだったのかもしれんな。突破口がどうとか言っておった。散々試したのだとも。――そういえば貴鬼め、ここ数日、なにやらやたらと修業に熱を入れておったな。小宇宙の高め方が尋常ではなかった。あれなら青銅の域はもう超えておるのではないか」
 シオンにまでそう言われて、悪い気がするわけもない。ムウは破顔する。
「それで、妙に貴鬼を褒める言葉が聞かれたわけですか……真面目に課題に取り組んでいたのですね。感心なことです」
 だがシオンは、またもや皮肉げな笑みを浮かべた。
「もしも貴鬼が無事、お前の課題をやり遂げたら――ムウよ、先ほどの約束はどうしてくれるつもりだ?」
 返答に窮したのは一瞬。ムウもまた不敵に笑い返す。
「シオン様は、どう思われます? 貴鬼にできると思いますか? 黄金聖衣と同じものなのですよ」
 質問でやり返せば、シオンは笑みを引っ込めた。
「ふむ……どうかな」
 真面目な表情で思案している。予想外の反応に戸惑うムウを尻目に、シオンは重みの増した口調でつぶやく。
「貴鬼が、小宇宙の真実に触れておるのならば、あるいは――」
 すべてを言い切らないまま、シオンはムウを真摯な目で見つめた。
「人の可能性を測ることなど、いくら前例を見てきても出来はせぬものだ。だが人の可能性を信ずることは、いくらでもできる。――お前は、弟子を信じておらんのか?」
「それは――」
 深く鋭く見据えられる。胸を突かれた。このときムウは一人の弟子の師匠から、ただの弟子へと戻っていた。
「信じてやれ、貴鬼の小宇宙を。他でもないお前が、これまで教えてきたのだろう? そのお前が信じてやらんでどうする」
「……はい」
 神妙に項垂れたムウを一瞥し、シオンは玉座から立ち上がる。背を向けた。
「貴鬼が戻り次第、私も立ち会うことにしよう」
「はい」
 膝を突き、ムウは悄然と頭を垂れた。――なんだか色々後悔した。
 この年になって、まだこういう心地を味わうことができるというのは、恐らく僥倖なのだ。その有り難みが胸に沁みる。
 壮麗な帳の向こうに滑り込む直前、シオンはもう一度ムウを振り返った。
「貴重な材料が無駄になった暁にはきっちり埋め合わせをしてもらうぞ。保身については今から考えておくのだな」
「………………ぇ」
 この厳粛な空気と気分をどうしてくれると、まさか叫ぶわけにもいかない。
 固まったムウを尻目に、呵々と笑いながらシオンは去っていったのだった。

MA★くろすオーバー4 END



わかりにくかったかもしれませんので補足。
シオンが例の像について知っているのは、前回のラスト以降、書かれていない部分で世間話ついでに聞いたから、です。
わかるように書かなきゃダメだよねと思いつつ、冗長になるので割愛しました。

2010/02/06


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