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Side-S:04章 報告2


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報告2


 大騒ぎになってしまった教皇宮からの退出を許されて、サガは自宮へ戻ってきていた。目的は勿論、弟を叩き起こして自分の代わりに報告へ行かせることと、貰ってきた薬を問題の侵入者―― に与え、治療を施すことである。
 どちらを優先しようか少し迷って、怪我人の治療を先にしたほうが良いだろうと判断した。確かカノンが自室に運んでいたはずだ。居住区へ入ると真直ぐにカノンの部屋へ向かう。途中で通った居間のソファに弟が突っ伏していたが、そのまま捨て置いた。今、教皇宮に行かせてもまだ騒ぎ立てている同僚がいてまともに報告はできないだろう。起こすだけ手間だ。通り過ぎても目覚める気配はなかった。
 カノンの部屋のドアを開けようとして、ノックすべきかどうかしばし悩んだ。結局ノブをがちゃりと鳴らして代わりにした。入る。
 まだ正午過ぎだが、ブラインドがしっかり下ろされた部屋は薄暗かった。灯りを点ける。きんと微かな音がして蛍光灯が白い光を撒き散らした。意外と整頓された部屋に違和感なく納まった彼女は、人工の光の下、よくできた人形のように見えた。
 少女の顔が白いのは灯りの所為だけではないだろう。ベッドサイドに薬や包帯を置き、サガは彼女の脇に腰を下ろした。顔を覗き込む。長い睫毛に縁取られた瞳は硬く閉ざされたままで、やはり血の気が乏しい。ベッドも乱れていないので、あれから一度も目を覚ましていないのだろう。呼吸が浅く、速い。その命はあまりにも儚く見えた。
 怪我は左腕、肘の少し上だった。袖を上げようと思ったが、やめた。無理に上げれば却って傷口を開くことになってしまう。サガは躊躇いつつも彼女の襟の袷に手をかけた。詰襟の上着のファスナーを下げて、眉をひそめる。銃の収まったホルスターが着けられたままだった。外す。何故か服を脱がすよりも気が咎めた。
 ホルスターごと銃を枕元に置いて、胸元のボタンをいくつか外す。肩を少し出せれば腕も出せる。そう考えたのだが、袖が血で張り付いていて難しい。あまり無理をしてまた出血を起こさせるのは本意ではない。仕方なく上衣をすべて取り去ろうとして、思わぬ困難に挫けそうになった。彼女が身に着けていたのはワンピースだったのである。

 *** 

 何とか衣服を取り払って治療できる状態にし、胸元にまでシーツをかけてやった時には、思わず安堵の息が漏れた。目を覚まされなかったのは幸いだった。
 しかし、とサガは枕元に目を向ける。そこには大振りの銃と、決して小さすぎはしないナイフが各ひとつずつ置かれていた。それらと彼女を見比べる。
 剥き出しになっている肩も腕も、サガから見ればあまりにも細く、頼りない。その肢体は陽の光を知らぬように白く、いっそ弱弱しくさえある。そんな娘が持つにはあまりにもそぐわない武器だと思った。
 消毒薬を染み込ませた布で、丁寧に傷口とその周辺を拭う。血の汚れがなくなると、かなり深く抉れてしまっているのが見えた。これは痕になるだろう。きれいに傷口を消毒して、化膿止めの薬をつけたガーゼを当てる。しっかりと包帯で止めて、処置を完了した。
 血で汚れた服を持って立ち上がる。代わりに洗濯済みのカノンのシャツを枕元の武器の隣に置いてやった。
 思ったより時間がかかってしまった。次はカノンを起こして、教皇宮に送り込まなければ。もうそろそろ騒ぎも落ち着いた頃合だろう。
 部屋を出る。灯りは点けたままにしておいた。

 *** 

 ゆるゆると、 は目を開けた。眩しい。白い蛍光灯の光が目に沁みる。なんとなく安心しかけて、次の瞬間にぎょっとした。
 ――ここはどこ?
 がば、と身を起こす。途端に左腕に鈍い痛みが走って眉をしかめる。そうだ。撃たれたのだった。それにしてはあまり痛まないような気がする。怪訝に思って見てみれば、包帯に覆われた自分の腕が目に入った。
 一体誰が、いつの間に。――そういえば、あれからどのくらい時間が経った? 
 時計を確認しようにも、腕が上がらない。舌打ちしかけて、不意に気づいた。
 ――そうだ。ここは地球だ。
 無理に時間を気にしなくてもいいのだ、ここでは。エアーが尽きることはないのだから。
 そこまで考えて、少し落ち着いた。少々混乱している自覚はある。失血の所為か、それとも"彼"と同調してしまった所為か。
 いきなり起き上がったので軽い吐き気を覚えた。俯いてやり過ごす。胸に掛かっていたシーツがはらりと落ちて、動揺した。服を着ていない。それよりも、武器を取られてしまっていることのほうが重大だった。
 反射的に後ろを向いて、心の底から安堵した。枕元に銃とナイフが几帳面に揃えて置いてあった。その隣にシャツも添えられている。着てもいいということだろう。
  には大きすぎるシャツをもどかしく羽織る。左腕を通すのが少し苦痛だった。
 銃に手を伸ばした。マガジンを確認する。――大丈夫。弾は抜かれていない。
 頭がくらくらする。ベッドから足を下ろし、腰掛けた状態で横向きに突っ伏した。急速に足先が冷える。それでも頭はぼうっと熱く、霞かかっている。
 がちゃりとドアノブが回された。その音にびくりと肩が震える。咄嗟に起き上がろうとして、不覚にもできなかった。
「目が覚めたのか――
 落ち着いた低い声が近づいてきて、途中で止まる。 はそろそろと身を起こした。声の主を確認する。背の高い、長い金髪の男。彼の鋭い視線が彼女の手に向けられていた。それで銃を握ったままだったことに気づく。
「カノン……?」
 意識が途切れる直前と、その最中に見ていた顔だった。それでも疑問形になってしまったのは、違和感を感じたからだ。
「誰……ですか?」
 問いながらも、 の中で既に答えが検索されていた。
 カノンではないのなら、彼はその双子の兄で、名は――
「私はサガという」
  は頷いた。あのとき直接彼女の中に書き込まれた記憶の通りだ。
 銃から手を離そうとした。指が強張ってしまっていてなかなか離れない。ゆっくりと手を開いて、ようようグリップを開放する。その様子をサガは黙って見ていた。一定の距離を保ったまま近づいてこないのが不思議だった。警戒されているのだろうか。そんな必要などないのだろうに。
「まだ横になっていたほうがいい」
 ようやくサガが口を開いた。歩み寄ってくる。
「かなり出血していた。ここではそれ以上の治療ができんのでな。無理はしないほうがいい」
 サイドテーブルに水差しと布を置く。 の服だった。洗ってあるようだ。そんなに長い時間、自分は昏倒していたのだろうか。
「悪いとは思ったが、脱がさせてもらった。そうしないと怪我の様子を見れなかった」
 では彼が手当てをしてくれたのか。ベッドに腰掛けたまま、ずいぶん長身のサガを見上げた。礼を言うべきだろうかと は思い、口から出たのは全く違う言葉だった。
「何故こんなことをするの?」
 質問の意図がわからなかったのだろう。彼は片眉を上げただけで、何も答えなかった。無理もない。 自身、どうしてこんなことを言ってしまっているのかわからないのだから。 とは違う色合いの青い目に、ただ見下ろされていた。
「殺されるのではないの? ――侵入者は」
 いけないと思った。頭が朦朧として、判断力が鈍っている。不要なことを言っている。自覚はあった。
 サガが目を細める。それが苦笑だとわかったのは、彼の声に揶揄する響きがあったからだ。
「そうだな。そこまで知ってしまっているのだから」
 あっという間だった。放り出したままにしていた銃を取り上げられて、 は呻いた。
「わかっているのに、どうしてこれから手を離した?」
 セーフティがロックされているからいいようなものの、くるくると弄ばれて、危ないといったらなかった。
「意味がないでしょう――あなたが相手では」
 だからこんなにも無造作に銃を扱うのだ。彼は。こんなものでは傷つかない。
 今度ははっきりと、サガは微笑んだ。銃をまた枕元に戻す。肩に手をかけられた。
「横になっていなさい」
  は大人しく従う。正直、体がまだつらい。いくら医療用のナノマシンが常駐しているとはいえ、もうしばらく休息が必要だった。
 サガはシーツと上掛けを丁寧に掛け直してくれた。そのままベッドサイドに腰掛ける。
「君の処遇をどうするのか、私には決定する権限がない。明日、決まる」
「……明日」
「君にも出席を求めることになる。大丈夫だろうか?」
  は頷く。予想以上に失血で体力を消耗していた。口を開くのも億劫になりつつある。それでもナノマシンが働いている。少し休めばかなり回復するはずだ。
「それまではここで君の身柄を預からせてもらう。必要なら部屋から出るのは構わないが、宮からは出ないように」
「――了解しました」
「大丈夫だ」
 何か誤解したらしい。不意に手が伸びてきて、額を撫でられた。そのまま瞼を覆われる。耳だけが、深く落ち着いた声を捕らえていた。
「我々の女神は、慈悲深いお方だ。悪いようにはなさらないだろう。事実――」
 そんなに硬い貌をしてしまったのだろうか。宥められている。
「くれぐれも無体な真似はしないようにと、厳命されている。だから安心していい」
 大きな手は、暖かかった。急速に意識に霞がかかっていく。それともまた、何かされるのだろうか。意識の底を探られるようなことを。
 そんなことを思いはしたが、不思議と危機感はなかった。既にカノンには何もかも知られてしまっているからかもしれないし、抵抗しても無駄なのだと諦めきってしまっているからかもしれない。
 彼らの前では無力なのだと、理解していた。そして唯一与えられている力も、今は彼らの手の中だ。
 それが一番気がかりだった。気力を振り絞って声を絞り出す。
「私の……モビルスーツは……?」
「今は私が預かっている。誰も手を触れられないようにしてある。それでいいのだろう?」
 サガが立ち上がった。瞼の上の暖かな重みが消える。それでももう、目を開けることはできなかった。
 意識が遠のく中、なんとか最後に言うことができた。
「……ありがとう……」


報告2 END



2010/01/26


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