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Side-S:08章 Black History4 (08章最終話)


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Black History4


 沙織、、星華の順で奥の部屋へ消えていく女性陣の後姿を呆然と見送り、取り残された聖闘士たちは互いに顔を見合わせる。
「……そろそろ時間も迫ってきているんだけどな」
 打ち合わせをするんじゃなかったのかとぼやくアイオロスに、アイオリアは答えなかった。閉じた扉を、心持ち眇めた目で見つめていた。
「――カノン」
「なんだ?」
 呼んだから答えたのに、アイオリアはなかなか口を開こうとはしなかった。両肘をテーブルにつけ、組んだ手を口許に当てて俯いている。カノンは黙って待った。別に今は、時間が惜しくはないのだ。
 たっぷり三十秒は躊躇った後、アイオリアはのろのろと顔を上げた。意を決したように、カノンを仰ぎ見る。
「……なんだ?」
 こんなふうにアイオリアと向かい合ったのは、もしかしたら初めてだったかもしれないな。カノンは思う。ミロともまた違う、まっすぐな眼差しだ。ミロのそれは射抜くように鋭いが、アイオリアの視線はどこまでも毅(つよ)かった。
の世界に神はいないと、カノンもそう思うのか?」
 思いつめたような顔をしているから何かと思えば、それか。カノンは軽く肩をすくめる。
「さあな」
 少し険しさを増したアイオリアの顔から目を逸らした。外を見る。
 大きな窓の向こうには、蒼穹を従えた女神の像がそびえ立つ。幼い頃から遠目ではあったが、ずっと見てきた風景だった。14年ほど前に、その足元に赤子の女神が降臨したとは、確かサガから聞いた。それでもカノンはあの海底で女神を実際に目にするまでその実在を本当に信じたことなど、実を言えばなかったのだ。
「俺にそんなこと、わかるわけがないだろう――行ったこともない世界のことなど」
 軽く溜息をついて目を戻した。アイオリアの眉間には依然として皺が寄っている。彼が何をそんなに拘っているのかは、わかるような気がした。
 見たことがない神を、それでも信じていて欲しいのだ。信じられない辛さを、アイオリアは知っている。――カノンと同じように。だがカノンと違うのは、信じることは希望なのだと、頑なに信じている点か。
 だからこそ言ってやらなければならなかった。
「しかし、そんなものはいないのだと、言えた方がいいのかも知れんな」
「さっきが言っていた黒歴史とかいうものの所為かい?」
 アイオロスが口を挟んだ。カノンは頷く。
「――話だけのお前達は、幸せだ」
 年齢の逆転した兄弟は、揃って眉をしかめた。それこそ双子のようにそっくりな表情で。
 カノンは苦笑する。
 そうだ。カノンは視てしまったのだ。同じ人間の住む、そっくりな世界で起こった惨劇を。が言っていたのは長い歴史の中でもごく末期の、ほんの一件にしか過ぎない。もっとたくさんの惨状を、ほんの一瞬にしてカノンは視てしまったのだ。
「二度と見たいとは思わんな。誰かに見せたいとも思わん。……この世の誰も、あんな光景を目にする日が来ないよう、心から願う」
 ――カノンは苦笑する。
 自分がこんなことを口にしている。同じような災厄を、一度は地上に振り撒こうとした自分が。――途轍もなく滑稽に思えた。
 口を歪めて自嘲気味に笑う彼を、アイオリアもアイオロスも止めたりはしなかった。弟は気まずげに目を逸らし、兄は気の毒そうに彼を見る。もしかしたら二人とも、掛ける言葉を持ち合わせていなかったのかもしれない。
 先程女神が語った真実と、彼の罪は既にその行いと生命そのものによって清算され、神によって赦されているという事実がある。今更追求することも非難することも――慰めることも、誰にだってできはしないのだから。
「……カノン?」
 やがてひそやかな嗤いは、の声で遮られた。いつの間にか奥の部屋の扉が開いている。はカノンの脇まで歩み寄った。小首を傾げてカノンを見上げる。言葉には出さなかったが、どうかしたのかと聞いていた。
 カノンはの背に軽く手を添える。
「サイズでも測られたか?」
 が頷いたところで、女神と星華も部屋から出てきた。
「ではさん、明日中にはお届けできるように計らいましょう。それまでは、すみませんがそれで我慢してくださいね」
「どうもありがとうございます。よろしくお願いいたします」
 礼を述べ、頭を下げたの背が軽く強張ったのをカノンは感じた。顔を上げ、窓の外に目を遣るの表情はいかにも怪訝そうで、カノンは少しばかり戦慄する。昨日、モビルスーツ輸送機が接近してきたときも、確かはこんな様子だったと記憶している。
「まさか、また何か来たのか?」
 思わず口走れば、は怪訝な顔のままカノンを振り仰ぐ。
「戦闘機のような音がするの……でも、何だろう……」
 首を傾げるに、沙織は驚きの声を上げた。
「童虎から聞いていましたけど、さん、本当に耳がよろしいのね。わたくしにはまだ聞こえないのだけれど」
「迎えの飛行機、もう来てしまったんですか?」
 まだ打ち合わせも用意もできてないのにとぼやくアイオロスに、沙織は笑う。
「大丈夫ですよ、アイオロス。少しくらい待たせます。わたくしは明日にしてほしいと言ったのに、予定が詰まっているからって、無理やり今日、迎えを寄越されてしまったんですもの。一時間や二時間、待ってもらいます」
 顔は優雅に微笑んでいるのに、どうにも声が刺々しい。なんとも器用な怒り方をする主に、聖闘士達は揃って肩をすくめる。別にわがままに困ったわけではない。年齢に比して同情に値するほど忙しすぎる少女なのだと、皆がわかっている。極力、意向を汲もうと誰もが自発的に思う程に。
「打ち合わせも、用意も、まだできていませんからね。待ってもらうしかないでしょう。そうだな、アイオリア?」
 笑い含みに目配せする兄に、アイオリアも苦笑を返す。
「なんでそう行動が遅いんだ、と、またタツミ氏にどやされるな」
「ギリシャ時間ではそれが普通だと答えておけ。ついでに、金髪の女官を選んで茶でも出させておけば少しは静かだ」
 しれっとカノンが言い差せば、アイオリアの苦笑が更にぎこちないものに変わった。
「確かデスマスクの案だったな……まさか試したのか?」
 誰かれ構わず居丈高に怒鳴って歩く辰巳に業を煮やした面々が、どうやったら彼を黙らせることができるだろうかと愚痴を零しあったことがあった。そのときに出た、どうしようもない対処策のひとつがそれだった。
 カノンは軽く片眉を上げた。口許は薄く笑んでいる。
「ああ、試した。俺じゃなく、サガの奴がな。効果覿面だったらしいぞ」
「サガが? 試したのか!?」
 普段の彼らしからぬ素っ頓狂な声を上げて、アイオリアは二、三度口をぱくぱくさせる。呆然としながらようやく出た言葉は、信じられん、とかあのサガが、とかいうつぶやきだった。対タツミ対策よりもそちらの方がよほど重要らしい。
 そんな弟とは対照的に、アイオロスは穏やかな微笑を浮かべていた。目を上げて、カノンを仰ぎ見る。
「ならば本当に、もう大丈夫なのだな」
 深い声だった。カノンもアイオロスを見返す。まっすぐに。そして頷いて見せた。
「ああ。大丈夫だ」
 力強く請け負えば、アイオロスはそっと瞳を閉じる。心底安心したように。
 やはり彼もまた、気づいていたのだ。あの大いなる齟齬に。十四年前、もしかしたら教皇シオンよりも先に。――彼もまた、サガと同じくほんの子供だったというのに。あまりにも不安定だったサガに対して、その平衡ぶりはどうだ。
 これだからカノンは、アイオロスをどうしても子ども扱いすることができないのだ。
 わずかに沈黙が落ちたのをまるで見計らったかのように、急速に轟音が近づいてきた。窓ガラスがびりびりと震える。
「VTOL……!」
 窓から見えたその機体に、は思わず声を上げた。飛行機だというのに、まるでヘリコプターのように垂直に降下してくる。胴体の真横にも付いている可動式のエンジンが特徴的なそれは、紛れもなく戦闘機のはずだった。ただ、通常ならば翼の先端に設置されているはずのミサイルがない。の目には、それがいかにも奇妙に映った。
「さすが、良くご存知ですね」
 沙織がの横に立ち、窓の外に目を向ける。
「おっしゃるとおり、あれはVTOL――戦闘機です。もともとは」
 その言葉に過剰に驚愕したのはアイオロスとアイオリアだった。
「……えぇっ!?」
「そうだったんですか?」
 あっけにとられる二人に、同じくらいあっけにとられた顔をしてカノンが突っ込む。
「どこからどう見ても戦闘機だろうが、あれ」
「いや、まさかアテナと戦闘機など」
「どうやったって、頭の中で結びつかない」
 仲良く言葉を繋げる兄弟に、沙織はにっこり笑いかける。
「もともとは、と言いましたでしょう? 軍用にしか生産されていない機体ですから、あの機能の飛行機が欲しかったら、戦闘機を購入するしかなかったのです。でも武装は全撤去して、代わりに乗員を二名ばかり多く乗せられるようにしてあるのです。……とても狭いところに押し込む形になってしまいますけれど。それでもなんとか四人くらいは乗れるように改造してあります」
「もしや、その”狭いところ”に私達も……?」
 恐る恐るアイオロスが問うたが、沙織はまさか、と首を振る。
「このVTOLは近くの飛行場まで行くだけですから、そこまであなた達だけ別に来て頂ければ、それで良いのですよ。いくらなんでもわたくしまでいきなり飛行場に現れては、いろいろと障りがありますから」
「そういうあたりから打ち合わせと言うか、説明しようと思っていたんだが……」
 遅かったようだなとアイオリアが頭を掻いた。カノンは軽く肩をすくめる。そうだ。自分達は今、彼らの邪魔をしているのだ。そろそろ本当に退出した方が良さそうだと、の肩を叩いた。
 行くぞ、と声を掛ける代わりだったのだが、は少しばかり驚いたようだった。我に返ったといった顔をしてカノンを見上げ、それでもすぐにカノンの意を汲んで頷いた。


 ***

「まだ疲れが抜けていないのではないか? それともどこか調子が悪いのか?」
「いいえ?――勿論、万全と言うわけではないけれど。そんなふうに見えますか?」
「…………」
 女神の私室を後にするやいなや、は01の元へ行きたいと言い出した。
 監視役であるカノンにきちんと一言断って行動するあたりは、なかなか律儀だ。先に立って案内してやれば大人しく付いてくるし、声を掛ければきっちり返答もする。思い返せばシオンや女神への態度も、基本的には礼儀に則ったものであったように思う。 よく教育されているのか、もしくは育ちがいいのか。やはりそういった個人的なことはわからなかった。もちろん、今のの思考や感情なども。わかるわけがない。
 だから先程の様子が気になってそう声を掛けたのだが、意図はうまく伝わらなかったらしい。不思議そうに聞き返されて、”あのとき”がいかに特殊な状態だったのかを改めて思い知らされた。
「さっき、なんだかぼうっとしていただろう」
 さっき?とは首を傾げる。すぐに、ああ、と小さく声を上げた。
「女神様の御前を失礼する前のことなら、少し吃驚していただけ……」
「吃驚って、何がだ?」
「VTOLを購入なさったというのに驚いたの。個人で買えるような額じゃないでしょう?」
「……ああ。まぁ、確かにな。驚くな。普通は」
 アテナ神殿の回廊が終わり、神像前の広場が壮麗な柱の向こうに見えていた。夏が近い季節の、午後も早い時間だ。陽はまだ高く、白い陽光もまだそんなに奥まで届かない。
 光と影の境界で、は立ち止まる。影の部分に留まったまま、光を踏むのを躊躇っているようにも見えた。それでも纏ったキトンは影の領域ではただ白く、まるで光を放っているようだった。
「どうした?」
 既に光の下に立っていたカノンはのほうへと振り返る。眩しさに思わず眇めた目を、が見つめ返した。
「グラード財団というのは、どういう組織?」
 真剣な声だった。
 どう答えようか。カノンは暫時、答えを探して黙り込む。
 に背を向ければ、先程着陸したばかりのVTOLが目に入った。アテナ専用ということで特別に、十二宮をも飛び越えたこのアテナ神殿の奥への着陸が許されている機体だ。歴代の女神と違って、今生の女神は聖域にこもりっきりというわけにはいかない。長い十二宮の階段を度々昇り降りする必要がなくなるのなら、と教皇を初め、黄金聖闘士も誰一人としてこの処置に異を唱える者はいなかった。
 そしてその誰が、この機体の値段など気にしただろう? カノンとて正確な金額など知らないが、元が戦闘機だ。恐ろしく高いことくらいは想像がつく。その上、武装を外して定員数を増やす改造まで加えているのだ。それはとんでもない金額だろう。
 そこまでやる人間――この場合は”人”と言うべきだろう――がトップに立っている組織だと、伝えたかった。が危惧するような組織なら、間違ってもそんなことはしないはずなのだ。
「お前の”敵”にだけは、なり得ない組織だと、俺は思っている。――どう説明したらいいのかわからんし、うまく言えないのだが。少なくとも、お前の敵ではない」
 言いながら、こういうときだけはうまく言葉を紡げない自分に少しばかり嫌気がさした。人を謀る言葉なら、いくらでも出てくるというのに。
 が光の中へと一歩踏み出した。
「諒解しました」
 カノンの横をすり抜けながら、は静かに厳かに、確かにそう言った。カノンは一瞬呆ける。しばしその背を無言で見送ってしまい、それから慌てて後を追った。
「信用するのか?」
 簡単に追いついて後ろからそう問いかければ、唐突には足を止めて振り返る。
 辛うじてぶつかりはしなかったものの、ごく至近から見上げられて、カノンはらしくもなくうろたえてしまった。
 その上更にこんなことを言われて、狼狽するなと言うほうが難しい。
「信用できない人を協力者になんてしないわ」
「…………」
 完全に沈黙したカノンをそのまま少しの間見つめ、はついとうつむく。
「さっきは――昔のことで、勝手なことを言ってしまってごめんなさい」
 小声ながらもはっきりと聞こえた。カノンが何も言えずにいる間に、はくるりと踵を返す。
 足早に遠ざかっていく後姿を、カノンは眺める。
 笑みを浮かべてしまっている自分を、自覚した。

Black History4 END



2010/01/30


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