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Side-S:09章 Confession2


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Confession2


 夕方のことだった。小一時間もしないうちに完全に陽は落ちるだろう頃合。長く伸びた影すらも夕闇にかき消されつつある。
 童虎は足早に十二宮を降りて行く。
 結局シオンと話し込んでしまった所為で、それほど時間がかかるはずではなかった書類を仕上げ終わったらもうこんな時間だ。 とはいえ、童虎はまだいい。シオンなど、これは夜までかかるかと恨めしげに書類と童虎を見比べていた。手伝って行けとの無言の圧力を笑顔で振り切った童虎は、機嫌良く長い階段を下っていた。
 その足が途中で止まる。
 場所は童虎の守護する天秤宮のひとつ上、天蠍宮の入り口が見えてきたあたりである。
 微弱ながらも複数の、荒れた小宇宙を感じた。小宇宙の規模から推測するに、雑兵が5、6人といったところだろうか。
 どうにも刺々しい、攻撃的と言っても差し支えのない小宇宙。
 発生源はこの天蠍宮を抜けて少し行ったあたりだ。――童虎の宮のすぐ近く、ともいう。
 宮を一つ挟んでもそうとわかるほど騒いでいるのに、天蠍宮の守護者は見ぬフリをしているのかと憤りかけて、思い出す。そういえばミロは今朝から不在だ。明日中には戻ると、夕べ遅くに童虎に言いに来ていた。
 ならば今この騒ぎを感じているのは自分だけだ。童虎は走り出す。
 この程度の小宇宙のざわめきなら、この聖域では――とくに訓練場などでは――決して珍しいものではない。きっと誰も気に留めないのに違いなかった。
 しかし童虎は走る。
 荒れた小宇宙の中に、小宇宙というのは憚られるほど小さく、それでも不思議と童虎を惹きつける強い気を感じたからだ。
 無人の宮を瞬時に駆け抜け、童虎は足を止めた。
 天蠍宮から童虎が守護を預かる天秤宮までは、急な石造りの階段が下っている。その中ほど。踊り場となっている平らな場所に、彼女―― はいた。
 防具を身につけ武装した数人の屈強な男達に比べれば、それはあまりにも弱々しく、頼りない姿だ。だが。
 童虎は階段を下る。問題の場所を見下ろしながら。
 もう走ったりはしなかった。

 ***

 濃さを増した夕闇の中、ひらりひらりと宙に舞う白が、影に慣れた目にはまるで光を放っているように映る。丈の長いチュニックのような上衣の色だ。無駄も迷いもない素早い動きに一拍遅れてついていく、白い軌跡。
 その鮮やかな光景に目を奪われ、童虎はしばし見入ってしまった。
 下卑た笑いから一転して怒号を上げ、掴みかかるようにして向かってきた男に、 は逆に自ら突っ込んでいく。狙いを違えず男の片腕を掴んだ次の瞬間、彼は地面に沈み込んでいた。虚をつかれて一瞬自失した男の延髄に鋭い突きを入れて完全に黙らせる。
 そのように倒れ伏している者は、これで三人目だ。童虎が騒ぎを感知する少し前から、この乱闘騒ぎは続いているらしい。
 しかし人数が減った分、男達の激昂は高まっていく。聖闘士のそれとは比べ物にならない程度の強さながらも、明らかに高まる、怒りの気配に満ちた小宇宙。
 対する には疲れが見え始めている。急所を突いて沈黙させた雑兵の傍らで、ふらりと立ち上がる動作はどこか緩慢だ。
 それでも。
 殺気を隠そうともしない男達は、何故か構えたままの姿勢から攻撃できないでいるのだ。相手は、彼らに比べれば見るからに華奢な少女が一人きりだというのに。
 ――一見奇妙な光景。
 だが童虎の目には、至極当然の成り行きであるように見える。
 否。
 見える、のではない。感じるのだ。
 殺気では、きっとない。小宇宙でも、勿論ない。
 それがなんなのかはわからない。それでも感じる、言いようのない重圧(プレッシャー)。
 この場を取り巻く、彼女の意思とでも言うべきもの。
 そんなものに、男達が呑まれている。金縛りに遭ったように動けないでいた。
 その上、問題は目だ。怒るでもなく、恐れるでもない。冷たいが、冷酷というよりは冷静そのものの眼差し。ただひたすら毅然としていた。
 抗い、逆らい、撥ね付け、そして惹きつける。――なにかに似ている。
 その何かを思い出し、止めなければと、やっと思った。
 このままでは聖域にとっても にとっても、好ましくない結果が待っている。
 残りの階段を数段飛ばしに駆け下りた。吼える。
「貴様ら、なにをしておる!」
 途端に雑兵たちの殺気が消え失せた。慌てふためいて振り返るその面々は、童虎にはあまり馴染みのない顔だった。
 しかし見たことがある者もいる。主に闘技場やその周辺でだったと思う。では彼等は普段、この十二宮や教皇宮、アテナ神殿などに出入りのできる階級(クラス)の者達ではないのだ。
 恐らく何か所用の為に十二宮への立ち入りが許されただけだろう。
 そのような者どもが、神聖なる十二宮で女一人に手を上げている……!
「何のつもりがあっての狼藉か! 返答によっては容赦はせぬぞ」
 雑兵たちの顔が一様に強張った。癖の強い者の多い黄金聖闘士の中で、自分は温和と評されていることを童虎は知っている。その自分が珍しく声を荒げているので、それに驚いているのかと思ったのだ――最初は。
 すっかり萎縮して詰問に答えることもできない男達が、互いに顔を見合わせていた。
 童虎は眉をひそめる。彼らの表情に、明らかな困惑の色を認めたからだ。少し口調を緩める。黙っていられたのでは、場の収拾がつかない。
「何故こんなことになっているのかと訊いておる。誰でも良いから答えよ」
 やがておずおずと口を開いたのは、一番年長とおぼしき男だった。
「女官ではなく、候補生でもどなたかの従者でもない、ましてや聖闘士様でもない者がこのような場所におりましたので不審者と判断して取り調べようとしましたところ、何も答えないばかりか抵抗するそぶりを見せましたので……」
「数人がかりで取り押さえようとした、と言いたいのだな。たかだか女一人に、数人で」
 それだけにしては様子がおかしかったような気がしたのだ。ぎろりと睨みつけると、男は口許を引きつらせた。それでもなんとか返答を返す。
「……は、はい……」
 童虎は軽く溜息をついた。
 少々脅しすぎてしまったようだ。処分が恐ろしいのだ。これでは本当のところは聞き出せまい。
 まぁいいか。
  に目をやる。本人がいる前でわざわざそこまでの話をさせる必要もないだろう。
「この者は、アテナ直々にこの聖域に滞在を認められておる者だ。そして十二宮内を自由に歩く許可も教皇より出ておる。……普段ここまで立ち入らぬ者にまで通達は行っておらんのか?」
 もう一度睨みつける。今度こそ完全に萎縮し切って黙ってしまった年長の男に代わって、他の男達が口々に否定の言葉を上げる。
「き、聞いておりません!」
「自分も、聞いてはおりません!」
「こちらへの立ち入り許可を得た際には、なにも言われませんでした!」
 とりあえず嘘はないようだ。童虎は鷹揚に頷いて見せた。
「命令系統に支障があるようだな。教皇にはわしから報告しておくことにしよう。今日はもういい――戻れ」
 報告、の一言に全員がぎょっとしたように童虎を窺い見たが、もう取り合わないでおいた。素っ気無く手を振る。繰り返した。
「戻れ。怪我人も連れ帰って、手当てしてやるが良い」

 ***

 いまだ気絶したままの仲間を抱えた雑兵達がそそくさと去っていくのを見届けて、童虎は傍らに立ち尽くしたままの に改めて目を向けた。
 白い上衣に目立った汚れもなく、上がってしまっていた息も平常に戻っている。そしてあの奇妙な重圧も、もう感じない。
 なによりも眼差しが静かだった。凪いだ深い海のような、青。静かだった。とても。
 先程見た鋭い目がまるで嘘のようだ。童虎は思い起こす。あの目に宿った光。覚えがあった。似ていると思ったのだ。
 ――虎に。
 別に虎でなくともいい。獅子でも狼でもいい。なんでもいい。強い野生の獣なら。
 自らの命をあがなうために、ただその為だけに獰猛に牙を剥く。
 良くも悪くもない。そこには愉悦も怯懦もない。
 ただ必然性だけがある。

 ***

 黙ったまま自分を見つめる童虎を、 もまた見返した。
 結果的に見つめ合うことになってしまい、そのまましばし沈黙が流れる。童虎がいささか決まり悪さを感じ始めるのに、そう時間はかからなかった。
 なにか話さなくてはと童虎は年甲斐もなく焦り、ゆえになかなか言葉が見つからない。そしてそのことになお焦りを感じ、ますます何も言えなくなる。悪循環の典型だ。
 その連鎖を断ち切ったのは、意外なことに だった。
「助けていただいて、どうもありがとうございました」
 ごくありきたりの、事務的な礼の言葉。それでも童虎に自分のペースを取り戻させるのには十分だった。
「なぜあんなことになっておったのだ? 奴らが言っておった通りで間違いはないのか」
  は軽く首を傾げた。
「……彼等は、一体なんと言っていたのでしょう?」
 その一言でわかった。童虎は後ろ頭に手をやって上を仰ぐ。
 そういえば自分は雑兵達に対してはギリシャ語を使い、 とは今、英語で話している。
「成る程な。そういうことか」
 つまりあの雑兵達の言葉に嘘はなかったということだ。とりあえずは。
 首を傾げたままの に説明してやる。
「あやつらは 、お前さんのことを知らなかったのだ。それで多分、お前は誰だとかどうしてここにいるのかという質問をしたようだが、お前さんが答えなかったので取り調べようしたのだと言っておった。それで間違いはなさそうか?」
「そんなところだろうと思って、一応答えたのですが……多分、通じなかったのでしょう」
 言いながらも、どうにも腑に落ちない表情をしているところを見れば”それだけ”ではなかったことは明白だ。
 そもそも、そうでなければ があのように彼らと乱闘などするはずもない。彼等は の標的(敵)ではないのだから。
 しかし相手は年若い娘だ。そこまで無理やり語らせるには忍びないと、童虎はこの話題からは離れることにする。
 事の顛末は明日、シオンへ直接、私見を交えて伝えればいい。
「そういえば、カノンはどうした?」
「もう海――海底神殿、ですか。そちらへ行きました」
「では、今は一人か……」
 これは独り言だったのだが、 は律儀に返答を返した。
「はい」
 童虎はにこりと笑みを浮かべる。こういうちょっとしたときに見せる礼儀正しさなら、本物だ。
「では一人でこんなところにいるのは、早速”鍛錬”でもするためか」
 実を言えば童虎はあまり英語が堪能ではない。その為シオンから聞いた言葉をギリシャ語のまま使ってしまったが、やはり には通じなかったようだ。
「"鍛錬"?」
「ああ、ええと……何という単語だったかな、あれは」
 ひとり唸りはじめた童虎に、 はおずおずと声をかける。
「あの……中国語、普通話なら話せます……わかりますか?」
 驚いた。それはたいそう綺麗に発音された、童虎の母国語だったのだ。かなり驚いた。
 童虎はつい無言で、まじまじと を見つめてしまった。
「……やっぱり通じないのかな……」
 困ったようにぽつりと呟いたその言葉まで中国語だった。
 童虎ははっと我に返る。母国語で応じた。
「いやいや、大丈夫。通じておるよ――何の問題もない。発音も上手いものだ。むしろわしの方が訛りがあるから聞き取りにくいかもしれんな」
 そんなことはないですよ、とはにかんだように微笑う を、童虎はまたしてもまじまじと見つめてしまう。
 初めてかもしれなかった。 の笑顔を見たのは。
 こんな顔もできるのかと、少しばかりほっとした。
「先程の体術、見事であった。流派はわからぬが、中国武術の系統のものであろう。もしやその師から中国語も?」
「是(はい)。流派はいろいろなものが混ざっていますから、おわかりにならなくて当然です」
 世辞ではなく、流暢に話す。よほどしっかりと教えられているのだろう。言葉も、武術も。
「力押しではなく、相手の無駄な力を利用しているように見受けられた。それではどちらかというと護身用の戦い方ではないかと思ったのだが」
「ご慧眼、恐れ入ります」
  は頷く。
「幼い頃、自分で自分の身を護る術を教えて欲しいと教えを請いました。そして指導していただいた結果があれです。本当はもっと踏み込んだところまで教えて欲しかったのですが、断られてしまいました」
 表情にも口調にも感情は乏しかったが、それでもどこか悔しそうだった。
 その意外な言葉に、ほう、と童虎は片眉を上げる。
 あの身のこなしは、そうそう身につくものではない。
 人間には生まれ持った資質というものが少なからずある。いくら丁寧に指導しようとも、伸びない者は伸びない。
 弟子を育て上げた経験のある童虎には、その資質のあるなしを見抜くことはさほど難しくはない。
 そして童虎の目には の資質――戦闘の才能は相当なものであるように映ったのだが。
「断られたとは――何故かと訊いてもよいのかな」
「私が……弱いからです」
 ぽつりと答えて、 は目を伏せた。長い睫毛にあの印象深い青が覆い隠され、今はどんな色をしているのか。
 どうにも気になって、聞き返さずにはいられなかった。
「弱いから、教えない、と?」
「――弱い者は、戦うなと。そう言われました。だから教えないのだと」
 釈然としない様子の を見て、童虎は の師という人物を傑物だと評価する。
「弱い者は戦うな、か。なかなか興味深いことを言われる御仁だ」
 彼がどのような人物なのか童虎は知らないし、どのような状況で がそれを言われたのかもわからない。
 だが、その人物のいう”弱さ”がどういったものなのか、それは想像がつくような気がした。
 たとえば昼間、シオンの執務室でカノンが言いかけてやめたこと。
 そのカノンは否定していたが、シオンが抱いているらしい懸念。
 脆さがあるのだ。多分。
 シオンが一目置いた”強い意志”に覆われた、途轍もなく脆いなにか。――むしろ、その脆さを鎧うために、確固たる意思という名の砦を築いているのか。
 わからない。
 だが、わかるような気がした。
「強くなりたいか、
 もうすっかり陽は落ちて、辺りは暗い。ただ、紫を帯びた空だけが残照を残してぼんやり赤い。その僅かな光を受け止めて、 の瞳はそれでも青い。
「強く――ありたいと思っています」
「そうか……」
 それはなかなか童虎を安心させる答えだった。見たこともない、 の師に言ってやりたい。
 ――貴殿のおっしゃる弱さを、 は自覚している。だから、少しだけ。
 空を見上げた。太陽の覆いが取り払われて現れた、遥かなる宇宙(そら)を。
 ―― が望みどおり強く在れるよう、少しだけ、力を貸したく思う。
 届くはずのない宣言。しかし拒否されることだけはないだろうと、確信を抱いた。

Confession2 END


2010/01/31


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