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Side-S:11章 Party Night 04


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Party Night 04


 人込みの中を縫うように歩いて、彼は知人の元へ向かった。
 途中途中で声を掛けられ、面倒くさいと思いながらもにこやかに応対しないわけにはいかない。お陰で随分時間を取られてしまったが、彼女もまたひっきりなしに求められる会話の所為で同じ場所から動けないでいるようだった。お互い様である。
 ようやく辿り着いた。これで互いに煩わしい応対から暫時逃れることができる。声を掛ける前に彼女の方が彼に気づいた。向けられた瞳には安堵の色が見て取れる。悪い気はしなかった。機嫌よく、ゆっくりはっきりと呼びかける。
「お久しぶりです、沙織嬢」
 見るからに乗り気でない沙織を下手な話術で繋ぎとめようとしていたゲストの一人が、背後から掛けられた声にぎょっとしたように振り返った。どこぞの成金長者のご子息、といった風情の20代前半くらいの男である。
「まぁ、こちらこそご無沙汰しておりました。ジュリアン・ソロ。お元気そうで何より」
 たいそう嬉しそうに――実際、しつこい相手に辟易していたのだろう――沙織が答える。立ち止まったまま動かないジュリアンに自ら歩み寄った。目の前からどこうとしない男の脇をこれみよがしにすり抜けて。
 いかにも親しげに両手を広げて微笑む沙織に、ジュリアンも付き合ってやることにする。軽くハグして、頬へとキスの挨拶を受けた。
 一通りの挨拶を終えてもなお動こうとしない男に、ジュリアンは小さく嘆息する。沙織の背に手を添え、口を開きかけたところで沙織に先を越された。
「ではミスター。わたくし、彼と少々お話したいことがありますの。申し訳ありませんが失礼致しますわ」
 相手の答えを待たず、行きましょう、と沙織に促されてジュリアンは大人しく従った。沙織は横を歩く彼を見上げる。
「お陰で助かりました。なかなかしつこくてどうしようかと困っていたのです――どうもありがとう。ポセイドン」
 改めて礼を言われてしまった彼――ポセイドンは片眉を上げた。
「いや。礼を言われるほどのことはしていなかった。まだ、ね。……ところで」
 ポセイドンはちらりと背後を見遣る。
 先程から誰も一言も発していない所為もあって見事なまでに存在感がないが、勿論そこには沙織のボディーガードたちが遠すぎず近すぎずの距離を保ってついて来ている。
 そして今はそこにポセイドンの護衛まで加わっていた。ポセイドンも当然、沙織――アテナと同じく、自らの配下を伴っている。いずれも海将軍ジェネラル。規定どおり、最大人数の3人だ。今日の顔ぶれはシーホースのバイアン、クリュサオルのクリシュナ、そしてリュムナデスのカーサである。……ちなみにカーサは、いかにもボディガード然としたいかつい黒人男性に化けているように見える。大抵の人間の中にあるボディガードというものへの一番ありがちな像だろう。それぞれに見えている姿には多少の差こそあれ、少なくとも今この場にいる護衛たちの中で最も違和感がないだろうことは間違いない。
「先程、聖闘士がもう3人いたと思ったのだが? それに――」
 改めて沙織に目を向け、ポセイドンは無垢な笑みを浮かべて見せた。二心などまるで持ち合わせていないかのような綺麗な微笑は、『ジュリアン』が処世のために身につけたものだ。かつてのポセイドンならこんな顔はしなかったと、アテナは思う。
 いまや完全にジュリアンと同化しているポセイドンは人の世界の中でも特殊な環境の中での教育を受けたことによって、その老獪さにいっそう磨きが掛かったようだった。それはジュリアンにしても言えることで、父の死によって海商王として祭り上げられることになった彼が今ひとつ持ち得ていなかった威厳や貫禄を、ポセイドンという性質によって完璧に補完されている。互いに良い共生関係であると言えるだろう。
「君に従姉妹がいるとは、知らなかった。聖闘士に、それも最上級の黄金聖闘士に護られているとは、一体どんな方なのかな?」
 テラスへのガラス戸を自ら押し開けて、ポセイドンはもう一度微笑って見せた。あたかもいたずらっ子のように。
「……紹介してはくれないのかい?」
 湿り気を帯びた、夕暮れの暖かな風が一気に吹き込んで、沙織は反射的に目を閉じた。すぐに開く。
 その目に飛び込んできたのは、赤く染まった空を背にしてテラスの端に佇む だった。彼女に付けた護衛達――すなわちアイオリア、シュラ、そしてカノンの三名――と一緒に、突然現れた沙織達の方を見ている。
 沙織は咄嗟にポセイドンを見上げた。軽く睨みつける。それを気にする様子などまるでなく、ポセイドンは先程と同じ楽しげな笑みを浮かべたままだ。芝居がかった仕草で沙織をテラスへと誘う。
 沙織はもう一度彼をきっと睨みつけてから、夜の気配が漂い始めた屋外へと足を踏み出した。ポセイドンも後に続く。


 ガラス戸が音もなく閉まり、テラスにあるのは彼らの姿だけになった。室内のざわめきが不思議なほど聞こえてこない。
 わざわざ神たる力を以って扉を閉ざしたのは、簡単な結界を施すためのようだった。勿論、アテナや聖闘士達が不信感を抱くほどの強力な結界ではない。彼らならばたいした労をかけずとも無効にできるような、本当に簡易なものだ。単に彼らの会話を他者に聞かれることを避けるためだと、容易に想像がついた。
 沙織が口を開くよりも早く、 の隣に立っていたカノンが一歩進み出る。軽く頭を下げた。
「……ご無沙汰しております、ポセイドン様」
 通常よりも抑え気味の声は、それでもよく通っていた。ポセイドンの背後で、海将軍達の気配が揺れる。そして沙織と 、それぞれの後ろでもまた、聖闘士たちが声もなくざわめいた。
 その様子を、 は黙って眺める。
 過去のことを思えばカノンにとってポセイドンは決して無視でき得る人物ではなく、かといってアテナに忠誠を誓っている現在、簡単に膝を突き頭を垂れるわけにもいかない相手だ。
 簡単な挨拶ではあるが、自分から先に声をかけたその姿勢こそが、カノンの偽らざる心情の顕れなのだろう。
「ああ、久しぶりだね。元気そうで何より」
 鷹揚に答えるポセイドンもまた、カノンのそんな内情を理解している風情だ。
「そう言えばつい先だって、こちらの方に来てくれたそうだね」
 は、とカノンは伏目がちに頷いた。
 少し後ろからその横顔を見つめた は軽く眉をひそめる。カノンの顔には何の表情も浮かんではいなかった。
 なんとなくやるせない気がしたのは、 にはわかってしまったからだ。――カノンが表情を浮かべないように努力していることが。
「私がいないときばかり、見計らったように訪れる。もしかして、私は避けられているのかな?」
 悲しげにポセイドンがそう言ってみせた。それがいかにわざとらしかろうとも、相手が相手である。カノンでなくとも萎縮しない人間などいないだろう。
「いえ――そのようなことは……偶然です」
 戸惑うように、それでも十分に抑揚を欠いたカノンの返答にポセイドンは苦笑する。
「ああ、そうだろうね。わかっている。言ってみただけだ」
 とりあえずそれでカノンを言葉遊びから解放してやることにした。これ以上つついても、あまり面白くはなさそうだ。それにアテナの手前でもあることだし、今日は聖闘士たちの数も多い。あまりからかっても哀れだ。
 次いでポセイドンが目を移したのは、カノンの隣。清楚に着飾った見慣れない女性だった。年の頃は『ジュリアン』と同じくらいだろうか。
 じっと黙ってカノンを見上げていた彼女はポセイドンの視線に気づくと、やはり黙ったままポセイドンを見返してきた。
 ――良いだ。
 この場にいるからには、彼がなにものであるかもわかっているはずだ。それなのに畏れるでも媚びるでもない、その瞳。嫌いではなかった。むしろ、好ましい。ポセイドンにとって――このような人間の強情さは。
「あなたが沙織嬢の従姉妹殿ですか?」
 初対面なので、それなりに丁寧に問いかけてみる。是か非か、二者択一の返答を求めてはいるが、答えはノーでしかないはずだ。わかりきっている。
 ただ、興味を覚えたのだ。彼女はどのような声で、どのように話し、そしてどのように答えるだろうかと。
 まるで子供のようにわくわくしながら、反応を待った。
 彼女はポセイドンから視線を外す。彼の後ろのアテナにちらりと目を向けた。ほんの一瞬。そしてまたポセイドンを真っ向から見据えた。上品な紅に彩られたくちびるを開く。
「今日はそのように名乗っております」
 高すぎず低すぎず、どこかまろみのある美しい声で発音された、極めて事務的な口調に意表をつかれた。先程のカノンよりも更に抑揚というものがない。
「今日は、ということは……」
 思わず言葉を詰まらせてしまったポセイドンからもう一度視線を外し、彼女は再びアテナに顔を向けた。
「実在の、城戸沙織嬢の従姉妹の方の代理です」
 先程よりは間を置いてから、彼女ははきはきと答える。いちいちアテナ――沙織に伺いを立てているということは、彼女がこの件に関して、沙織より何か依頼されているらしいことは明らかだった。
 しかしただ単に代理というのは、どうしても腑に落ちない。そうですか、と頷いて、ポセイドンは振り返る。神代の頃の姪は、彼の問いを含んだ視線に首をすくめて見せた。
「……今日のパーティには、初めからリスクがあったでしょう? その万一の事態に備えて聖闘士達をより多く伴ってこれるように、彼女に代理をお願いしたのです」
 それはポセイドンが問いただしたかった事柄ではなかった。なおも向けられる怪訝な視線に、アテナは慌てたように言い添える。
「沙綾、というのは本当に私の従姉妹なのです。勿論血はつながっていませんよ。でも、日本の戸籍の上ではそういうことになっていますから、決して詐称しているわけでは……」
 この様子ではアテナは彼の疑問点に気づいてはいないようだ。仕方がない。ポセイドンはまたひとつ頷いて見せた。幾分ほっとしたようなアテナに背を向け、もう一度問題『沙綾』嬢を見つめる。
「あなたが沙綾嬢でないのならば、アテナや聖闘士たち――聖域とは一体どういう関係になるのです? 見たところ聖闘士ではないようだが」
 もうアテナに目を遣ることもなく、彼女は素直に答えた。
「私は聖闘士ではありません。少し前から聖域にお世話になっているだけの、ただの部外者です」
「……部外者? 海界もそうだが、聖域でもそう簡単に無関係の者を受け入れたりはしないのだろう?」
 彼女にではなく、あえてカノンに問いかける。比較的明快な受け答えをする人間だと知っているからだ。その内容が真であるか偽であるかはともかくとして。
「ええ、まぁ……」
 しかし返ってきたのは、この男にしては妙に歯切れの悪い生返事だけだった。見れば、周囲にいる他の聖闘士たちも一様に戸惑いの表情を浮かべている。そして、誰も口を開こうとはしなかった。答えられないということだろう。
 ならばこれ以上は聖域への余分な介入になる。いくら和平協定を結んでいると言っても、その根底にあるのは互いへの不可侵という条項である。ポセイドンにはこの件に関してこれ以上言及することはできなかった。だが、懸念への核心へは近づけた。
 ポセイドンは話題を変える。打って変わって、できるだけ朗らかな口調を心がけた。
「以前――ずっと昔だが、あなたによく似た方をお見かけしたことがあるのですが……」
 思わせぶりに言葉を区切れば、彼女は軽く首を傾げて見せた。黙ってポセイドンを見つめ返す。
「名をなんと言ったか……そう、花のような名でした。百合に似た……」
 ほんのわずかに、彼女の表情が変わったように思えた。本当にわずかだが。
 にっこりと笑いかけたのは、別に計算してのことではない。意を得たと思ったのだ。だから躊躇わずに続けた。
「昔、どこかで、あなたとお会いしたことはありませんか? ――お名前を、伺ってはいけませんか?」
 彼女がはっきりと眉をひそめ口を開きかけたところで、後ろで冷たい声が上がった。
「似たような言葉を、そう遠くない昔に、どこかで聞いたような気がするのですが。ジュリアン・ソロ?」
 心なしか怒りに満ちた小宇宙すら感じるその声に、ポセイドンはとりあえず笑顔のまま振り返る。
「確かにそんなことも言ったね――ジュリアンが。でも、結局間違いではなかっただろう?」
「…………」
 言葉に詰まって、沙織はポセイドンを睨みつけた。この時点で、ささやかな言い合いはポセイドンの勝利である。
「それは、いつの話なのでしょう?」
 唐突に硬い声が海皇と女神の間に割って入った。ポセイドンは振り返る。彼女は相変わらずまっすぐにポセイドンを見上げていた。
「どのくらい昔のことなのですか?」
 有無を言わさぬ調子の強い声。それなのに、その表情はどこか陰を含んで弱々しかった。夕日に照らされ、眩しげに目を眇めている所為では、きっとない。その証拠に、残照を真っ向から受けて輝いているはずの瞳が、暗く沈んでいる。
 ポセイドンの背後に控えている海闘士たちの小宇宙が微妙に揺らめいていた。恐らく眉をひそめ、一体何の話だろうかと互いに顔を見合わせてでもいるのだろう。実際、今ポセイドンの目の前にいる聖闘士たちでさえ、怪訝そうに彼女を注視している。
 しかし彼女の傍に立つカノンだけが、他の者とはその様子を異にしていた。何がどう違うのかと聞かれれば、ポセイドンにも明確な答えは返せない。
 だが、違う。決定的に、何かが。
 ――面白い。
 ポセイドンは思い、少しでも楽しませてくれた返礼として、素直に問いに答えることにする。
 神たる己への、少々無礼な態度にすら目を瞑って。

Party Night 04 END


補足です。
当サイトでの彼はポセイドン編の後、一度はポセイドンの人格と記憶を封じられてしまいましたが、冥界編で黄金聖衣の出前をしたあたりで自力出現。
現在では沙織のように、ジュリアンであることとポセイドンであることの両立ができている状態、ということになってます。
これ以降しばらくの間、連続登場予定です。

2010/02/04


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