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Side-S:13章 Burst into flames 4


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 事実上は失敗に終わったかに見えたデビューだった。

 【Operation : INSPIRE】

 世界中の主に経済界と、それから大国に限定されるが政局に重要な影響を及ぼすことのできる重鎮とその係累を集めた。
 『彼ら』の力を見せつけてから協力者を募り、もしくは強圧的に搾取する。できなければ物理的に失脚させることもまた可能だった。
 すべて彼らの予測通りに動くはずだった。まだまだ未熟な世界は悉く彼らの良いように転がる。誰もがそう疑わなかった。
 だが物事には例外が必ず発生するものである。
 彼らの統率者に最も近い立場にあるはずのアルバー・カタロニアが個人的な財力を持って、失われた技術とされるシステムを組み込んだモビルスーツ・エピオンを完成させていたこと自体は、例外には当たらない。
 問題は、それに搭乗した人物だ。
 エピオンを駆り、その人物は彼らの初舞台を頓挫せしめた。だからこのオペレーション・インスパイアは失敗に終わったはずだった。事実上は。
 だがこの世紀のイベントを企画した男は、これを失敗とは受け止めなかった。
「とんでもなく豪華な花が添えられた、見事な初演だった」
 満足げに笑い、そう言ったという。真っ赤な炎でライトアップされた、華々しい舞台を眺めながら。
「役者としては完璧だ。――完全平和を掲げる女王と、地球を冬で塗りつぶそうとした亡国の皇子、そして血肉を備えた完璧な兵器、すべての要素を受け継いだ完全なる傀儡」
 無傷のエピオンから、辛くも生還した希望の娘。――心に、傷を負っただろう。望まぬ未来を突きつけられて。
「素晴らしい。あれを手に入れれば、使い方次第でかつてのロームフェラも及ばぬほどの栄光が手に入るやもしれん。赤子のようなこちらの世界など、そもそも問題ではない。長年の念願だったのだ――我々の地球圏を、我々の手に取り戻す。あの娘は、我らにそれをもたらしてくれるだろう」
 ニコラウス・バルツァーは笑う。
「ロームフェラの復活。地球における復権。我ら――【Neos Cosmos】は、この悲願を必ずや成し遂げる」
 まずは、異なる世界のこの青い惑星(ほし)を。

 【Operation : DAWN】

 ――暁と名付けられた次なる作戦によって、真の夜明けへと導く。
 未だ神の手の中で微睡むこの惑星の赤子達は覚醒すべきなのだから。
 そして目覚めた子供達には、正しい大人の導きが必要なのだ――


 ***


 そもそもどこか発端だったのかなど、それすらもうわからない。
 色々ありすぎた一日は、休息を取ることでリセットされたと思ったのだ。翌朝になったのでいつものように の元へ向かっただけだった。
  の居室がある教皇宮の廊下で鉢合わせた。それだって、特に珍しいことではない。
 だが――後々思い返してみれば、初めから会話が成り立っていなかった。どちらかといえば突っかかってきたのは で、カノンはそれに少しばかり驚いた。正確に言えば、苛ついた。
 そんな状況だ。気がつけばちょっとしたやりとりが言い合いになっていて、それが怒鳴りあいに発展するのにそう時間はかからなかったのも、別に不思議ではない。
 互いに、こんなに声を荒げてやり合ったのは初めてだったかもしれない。
「だいたい昨日からなんだ! わけのわからん態度ばかり取りやがって! 俺がなにをしたというんだ!?」
「護衛だったらもうしなくていいって、そう言っているだけでしょう? カノンだって面倒から解放されて、悪い話ではないはずだわ!」
「だからって、どうして俺を避ける必要がある? なにか見られてはまずいことでもあるからか!?」
「そんなもの、ありません! 収集したデータだってすべて開示する用意があるのよ。今更隠し立てすることなんて、何もないわ! だから、もう監視だって必要ないでしょう!」
「それはお前が勝手に、お前だけの一存で決めることではないだろう? 俺はお前も正式に受け入れた協力者で、アテナからも正式に命を受けているんだからな」
「そうだったわね。――女神様のお達しがなければ、あなたは面倒な仕事から逃れられないのだものね。だったら安心してちょうだい。女神様がお戻りになり次第、あなたへの命令をすぐにでも解除するよう、要請してあげるから。協力者の契約についても、再考します」
 あまりにもはっきりとした拒絶の言葉に、カノンは思わず耳を疑った。任務なのだから仕方がないだろうという意図をちらつかせれば、渋々でも納得すると思ったのだ。こんなにも感情的な反発が返ってくるとは、あまりにもらしくない。
「……いったい、なにが気に入らないんだ?」
「なにもかもよ。必要がないことを必要がないと言って、なにが悪いの?」
「必要がないとは、なにに対してだ? 女神のお心遣いか? それとも――俺か?」
「――――っ!」
  は目に見えてうろたえた。カノンを見据えて放さなかったまなざしが、右に左に揺れる。ついには伏せられてしまった。
「確かに、もう監視は必要ないだろう。アテナにだって、そもそもそんなおつもりがあったわけではないだろうからな。だが護衛は今まで以上に必要なはずだ。奴らの次のターゲットには、お前自身も含まれている可能性が高い以上はな。どんなにお前が頼んでも、アテナは護衛の任を解くことはしないはずだ」
「……必要ないわ」
「お前な……」
 これだけ言っても効かないとは。呆れるカノンの目の前で頭を振って、 はさらに声を荒げる。両側で括った髪が綺麗な曲線の軌跡を描いて、どれだけ力がこもっていたのかを物語った。
「必要ないわ! 護衛がつくなんて、どうしても嫌なのよ! それが任務だというのなら、なおさら! それが嫌でこんな道を選んだって、洗いざらい全部話したのに、どうしてわかってくれないの!?」
 理詰めで説得できないなんて、初めてだった。もう、どう言えばいいのかわからない。苛立って、つい強く怒鳴りつけた。
「わかるか! お前の私情よりも、今は優先されるべきことがあるのを考えろ!」
 あまりの剣幕にさすがに脅えたのか、 の身体がびくりと震えた。縮こまる。うつむいてしまった。
 また泣かれるか。カノンは身構える。さすがに大声を出し過ぎた。いい歳の男がこんな小娘相手に、なんて失態だ。
 どうフォローすべきか必死に考えるカノンの耳に、小さな声が突き刺さった。
「……もういいわ……」
 どこか虚脱したような声だった。実際、カノンに背を向けようとするその身体はふらりと頼りない動きをしていた。
 慌ててカノンは遠ざかろうとする腕を掴む。
「おい、待て!」
 捕らえられて、それでも はもうカノンを見ようとはしなかった。
「――嫌いよ、カノン」
 転がり落ちた言葉は、一瞬でカノンのはらわたを煮え繰り返させた。逆に頭は急速に冷えていく。
「……嫌いで結構。別に好かれる必要はないからな。お前の私情など、今はどうでもいい。勝手なことばかり言っていないで、自分の立場というものを冷静に考えたらどうだ。少しはわきまえろ」
 自分の声が、なんて遠くで聞こえるのだろう。カノンは思う。間違ったことは言っていない。だが、なんて冷たい。
「放して……」
 苦しげな声で我に返った。カノンは慌てて掴んでいた細い腕を放す。剥き出しだった二の腕は、赤くなってしまっていた。
 痛そうにさすりながら、 は頑なにカノンには顔を向けようとはしない。
「聖域(ここ)にいれば、安全なのでしょう? おとなしくしてるから、だから放っておいて……お願いよ……これ以上私に惨めな思いをさせないで……」
 今度こそ去っていく にかける言葉など、カノンはもう一つも持ち合わせていなかった。ただ見送る。
「……クソっ」 
 壁に拳を打ち付けた。小宇宙もなにも込めてはいない。破壊活動をするどころか、これでは自分が痛いだけだ。
「クソったれが……」

「――クソったれではなく、トウヘンボクって言うんですよ、あなたみたいな人のことをね」

 呆れかえった声がかけられて、カノンは振り返る。ジト目で睨みつけてやった。
「藪から棒になんだ。失礼な奴だな」
「あなたほどじゃありませんよ」
 教皇の間の方から姿を現したのはムウだった。聖衣は纏っていない。しかもいつもの平服ではなく、いまだにスーツを着ている。聖域に戻ってきたばかりだとすぐにでもわかるだろうに、カノンはどうやらそんなことにすら気づかないようだった。
 ムウは眉をしかめる。
「自分より十近くも下の相手に向かって、なにをムキになってるんです? 大人げのない」
「ムキになど……」
「なっていなければ、あんなにわかりやすい我が儘に気付けないはずがないでしょう。いい大人が」
  とカノンの口論なら、多分最初から聞いていた。第三者であるムウにしてみれば、ずいぶんとくだらない言い争いだとしか思えなかった。互いの意見がまるで噛み合っていなかったのだから。 はひたすら駄々をこね、対するカノンには大人の余裕というものがまるっきりない。要するに、子供の喧嘩と大差なかった。
「……いけ好かん奴だ」
 やっぱりだ。ムウはかつて神をも謀ったはずの、年上の男にほとほと呆れた。これではまるで貴鬼でも相手にしているかのようだ。受け答えにひねりというものがこれっぽっちもない。よくもこれで神を言いくるめ、海界ですら束ねてこれたものだ。呆れを通り越して、感心した。
「おや、奇遇ですね。私も同じ意見ですよ。気が合いますね」
 投げやりな言葉に、カノンもかなりやけくそな調子でやり返す。
「お前と気が合ったところで、全然嬉しくないな」
 もう鼻白みすらせず、カノンはただ嫌そうに顔をしかめた。対するムウは表情を変えず、言ってやった。心を込めて。
「私もです」
 大仰に溜息をついて、カノンはムウに向かって歩いてきた。眉をひそめるムウの横を無言で通り過ぎる。
「……どこへ行くのです?」
「答える義理はない」
 振り返りもせずに答えて、カノンは足を速めた。
「待ちなさい」
「――――」
 ムウの静止に、もう答えることすらしなかった。乱暴に薄暗い廊下を歩いて行ってしまう。角を曲がって、すぐに姿が見えなくなる。それでも荒い足音だけはまだ聞こえていた。がつんがつんと叩きつけるような音に、相当腹に据えかねているらしいことは察した。これでは引き留めても無駄――というより無理だろうとムウは判断する。
「……私がいるということはアテナがお戻りになったということなのに、それにすら気づいていないほど動揺しているんですね。まったく、大人げのない」
「あんなに面と向かって嫌いと言われたら、そりゃショックを受けるさ。普通はね。――相当心を砕いていたようだったしね」
 柱の陰からやっと姿を現して、アフロディーテはカノンが消えた方向を見遣る。アフロディーテにすら気づいていなかったのだとしたら、その動揺っぷりは相当だ。
「普通、ですか……」
 とても信じられないと、ムウは言外に語っている。アフロディーテは笑った。
「ああ見えて、意外と普通の感性を持っているってことなんだよ、きっと。微笑ましいじゃないか」
「そんな可愛らしいタマですか、あれが」
「……君も意外と口が悪いね」
 やれやれと肩をすくめるムウを眺めて、アフロディーテは苦笑する。それにしても、と顎に手をやった。少しばかり思案する。
「アテナがお呼びな訳だが……どうしようか」
「あの調子では、今すぐ連れ戻してもアテナにご迷惑をおかけするだけでは?」
「そうだろうね……」
 顔を見合わせて、二人は揃ってため息をついた。


 ***


 苛々とカノンは教皇宮を後にし、双児宮へと戻った。
 今日の予定は何もなくなってしまった。不貞寝でもしてやろうと意気込んで居住区画へ入れば、難しい顔のサガと出くわした。
 そこでカノンは急遽行き先を変更することに決めたのだ。
 今は、誰とも話したくない気分だった。サガの顔にはカノンを質問攻めにする意欲が溢れていたし、今のカノンにはそれに答える気がまるでなかった。
「ちょっと外へ出てくる」
 短く言い捨て、上着をひっつかんだ。もの言いたげな視線が絡みついてくる。口を開く気配を察して、先手を打った。
「話なら、後でする」
「――――」
 黙ったのは、了解したのか、それともなにかを理解したのか。それでも視線は鬱陶しい。手近に転がっていたサングラスをかけた。そうやってなにもかもを振り切って、カノンは足早に外へ出る。――十二宮の外へ、聖域の外へ。


 別に当てがあったわけではない。
 だたなんとなく、違う空気を吸いたかった。神話の黴臭さもも、異世界の機械油の臭いもしない場所の。
 ただ闇雲に歩いた。人混みに紛れると、気分も紛れる気がした。何の力もない、普通の人々がどこからか来て、どこかへと消えていく。その中にいれば、自分もそういえばただの人間で、なんてことのない一個人だったことを思い出せた。普段はずいぶんとおかしなところにいるものだと痛感する。
 ――あいつは、こんな開放感を感じたことはあるのだろうか。
 ふとそんなことを考えてしまった自分に嫌気が差す。逃れたくて、こんなところに来ているというのに。
 立ち止まってしまっていた。すると、袖を引っ張られた。
 何事かと目を向けると、外国人らしい女が何事かを口走っている。ほとんど聞き取れない下手なギリシャ語で、何かを訴えていた。買うとか――なにも着けなくていいとか。
 それでようやくカノンは周囲に目を向けた。うらさびれた下町に入り込んでしまっていた。周囲には他にも似たような女がたむろし、いずれも露出の高い服装をしている。いわゆる売春街にうっかり迷い込んでしまっていたらしい。
 ギリシャには公式な娼館がある。しかし女の言葉を解読する限り、ここはそんな場所ではないのだろう。それで最近、公娼が商売あがったりで困っているという話も耳にしたことがある。
 カノンの腕を引っ張り続ける女に改めて目を向けた。聞くに堪えないギリシャ語の合間に、時折母国語が混じっている。東欧の出身だと、それで見当がついた。麦藁のような色の髪と、青い目を持っている。容姿は見れなくもないという程度だったが、髪と瞳だけは目を引いた。
 何も答えず、かといって立ち去ろうともしないカノンの態度を前向きなものと受け取ったのか、女はついに料金の交渉を始めた。そんなところだけはやけに流暢なギリシャ語だったのが笑える。
 黙って話を聞いていたら、今度は肩を叩かれた。
 誰だと思ったわけではない。ただ反射的に振り返っただけだ。そして驚く。それで、また女が声をかけてきたのだろうと思い込んでいた自分に気づく。
 しかしカノンの後ろで人の悪い笑みを浮かべていたのは、残念ながらと言うべきか幸いにと言うべきか、女ではなかった。
「おいおい、こんな昼間っから元気だねぇ。そんなにたまってんのか? ――それとも、たまりかねたのか?」
 銀髪のイタリア男は、交渉を邪魔されて怒り始めた女を上から下まで舐めるように眺めまわす。口元をにやりと歪ませて、そのくせ口から出る言葉はその目つきとは対照的だった。
「だからってこんなところで買うなんて、ちょっと情けないんじゃね? 楽しみたいんだったら、まず口説くところからやった方が楽しいだろ。お前さんならたいして苦労しなくても選び放題だろうに」
 いたぶるような口調のデスマスクを、カノンは険悪なまなざしで睨みつけた。
「……なんで貴様らがこんなところにいる? まさか追っかけてでもきたのか?」
「そのまさかだよ」
 来ていたのは一人ではなかった。
 下手な娼婦など簡単に霞んでしまうほどの美貌の男が、怒りを忘れて自分に見とれていた女に紙幣を何枚か握らせた。一言二言、耳慣れない言語でやりとりを交わす。女は渋々といった風情で頷いた。
 そのまま黙って踵を返す女を見送って、アフロディーテは事務的に告げる。
と喧嘩別れした後、ムウに会っただろう? 私もいたんだけど、気づいてもらえなかったね――アテナがご帰還されている。君を、呼びに行ったんだよ、ムウは」
 はっとカノンは息を飲む。とんでもないへまをやらかしたものだ。
「煩わせてすまない。すぐ戻る」
「……青い目だったね」
 カノンはすぐさま動こうとしたのに、アフロディーテがそれを止めた。
も、元の髪は金髪なんだって? パーティの前に、本人から聞いたよ」
「――なにが言いたい?」
 つい声が低くなったのは、意図したわけではない。失敗したと思ったが、アフロディーテは気にした様子もなかった。
「あの色合いのせいだけで、うっかりお買いあげになる寸前だったとはね」
「――――」
「せっかくこんなところまで逃げてたわりには、そんなに気にしているなんてね。意外と君は女々しいな」
「……なんだと?」
 あからさまな挑発の言葉に色めき立つカノンを、アフロディーテはさらに真正面から正攻法で攻めた。
「そう言われるのが嫌なら、戻ってさっさと仲直りでもすればいい。あのやりとりを聞く限り、君があんまり余計なことを言うから、 は意固地になってしまっただけみたいだったよ。少しは女性の心情を思いやってやらなくちゃ。 は、君よりはよっぽど繊細だ」
「貴様に言われる筋合いはない」
「そうだね。君があんなに馬鹿な受け答えをしなかったら、私だってこんな余計な口出しはしなかった」
「なんだよ。話が全然見えねぇんだけど」
 アフロディーテとカノンの睨み合いにデスマスクが割って入る。アフロディーテは肩をすくめた。
「さっき教皇宮で、カノンと が大喧嘩してたのさ。で、物別れして、 はモビルスーツに籠もりっきり。カノンは聖域を飛び出した、と」
「……ガキかよ、おまえら」
 デスマスクにまでほとほと呆れかえったように言われてしまった。カノンは憮然と黙り込むより他にない。その様子に、デスマスクは盛大な溜息をついた。
「教皇に向かってえらくぶちまかした割には、ずいぶんあっさり切れちまったときた。見損なったぜ」
「どういうことだい?」
 アテナに同行していたため、その場にいなかったアフロディーテは首をかしげる。デスマスクは手短に教えてやる。
「お前らがついていながらの不祥事に大層お怒り遊ばした教皇様が、戻ってきたばかりの に事情を聞こうとして断られたってんで、手っ取り早く幻朧魔皇拳で聞き出そうとしたわけだ。それ自体はどういうわけだか未遂に終わったんだが、こいつが今度は無茶苦茶怒り出しやがってな。途中ははっきり言って意味不明だったんで端折るが、最後にこいつは言ったんだ。 が拒絶したとしても、自分だけは についていてやりたい、ってな」
「へえ……」
 さも意外そうに相槌を打ち、アフロディーテはカノンを見た。決まり悪そうに視線を逸らすカノンに、デスマスクが追い打ちをかける。
「そんときゃ、こいつって意外と甲斐性のある奴だったのかと感心したんだが、やっぱりダメだな。ちょっと喧嘩したくらいで前言撤回かよ」
「撤回してなど……」
 ああそういえば、とアフロディーテが薄笑いを浮かべる。。
「嫌いって、言われてたよね。もしかして、そんなにショックだったのかい?」
「そんなこと……気にするわけがないだろう」
 どうにも歯切れの悪いカノンをデスマスクは鼻で笑った。
「女なんてよくわからん理屈ですぐにヘソを曲げて怒り出すもんだって、神話の時代から相場が決まってるだろうが。そういうときには、決まって本心とは逆のことを言うもんだ。そんなの、もはや女の特権だ。それなのに同じレベルで拗ねちまってどうすんだよ。バカが」
「デスマスクの解説だけじゃいまいちよくわからないけど、教皇に向かっていった言葉をそのまま に言ってやればいいじゃないか。任務だとか、アテナだとかは禁句だろうね、あの様子じゃ」
 二人に畳みかけられて、カノンはげんなりと肩を落とす。
「自分がバカなのは知ってるさ。バカなりに考えて喋ったつもりなんだがな。大体、任務だアテナだと最初にこだわってたのは の方だ。俺じゃない」
「だからだよ」
 どうしてわからないのかな、とアフロディーテは深く溜息をついた。
「こだわるのは、自分でも釈然としていないからだろう? そこをさらに突っついてどうするんだい? 傷口を抉るようなものだ。そんなだから、嫌いだなんて言われてしまうんだよ。それでも君、本当に私達よりも年上なのかい?」
「まったくだ。無駄に年だけ取ったんだな。もうちょっと年相応の分別を身につけるべく自己研鑽した方がいいんじゃね? 嫌いなんてわざわざ言ってもらえる程度には信頼されてたってことにも、もしかして気づいてねぇとか言う?」
 よってたかってこき下ろされて渋面以外が作れなくなってしまったカノンは、何とか一言だけ反論をひねり出す。
「……うるさい」
 会心の一撃のあまりの無力さに脱力を覚えた。これ以上の会話は無意味だと白旗を揚げる。今度こそさっさと逃亡を図ったカノンの背に、アフロディーテがご自慢の薔薇よろしく、とどめの一言を投げつけた。
「さっきの娼婦に渡した金、今日中に耳を揃えてきっちり返してくれ。同僚のよしみで利子は付けないでおいてあげるよ。でも今日中に返ってこなかったら、サガに請求するからね」
 爆笑が聞こえて、カノンは憤然と歩く速度を上げたのだった。

Burst into flames 4 END



後書きです。

冒頭部分に書いた【Neos Cosmos】は敵組織名です。
出したのは恐らく初めて……だったはず。なんかもうどうだったか覚えてません。すみません。
ギリシャ語で新しい宇宙とか、そう言う意味だったはず。
なんかもうどうだったか覚えて(ry

それから12章でちらりと出てきて、今回名前と悦に入った台詞だけ出てきたニコラウス・バルツァー(オリキャラ)について。
一番最初にプロットらしきものを考えていた段階では、彼はアラブ系でした。
4の彼のオマージュオリキャラとの関連を考えてのことです。
なので5章2話のラスト付近で、中東がきな臭いようだという伏線を張っていたのですが、諸事情あってアラブ系と言う設定は結局没に(笑)
そこで4の彼のオマー(ryとのもう一つの関連要素、ロームフェラを持ち出してきてみたらガンダムWのストーリーを何となくなぞろうとしているストーリーに却って上手くハマったような気がしたので、途中で少々進路変更してこうなりました。
自分的には当初案よりも納得しています。
まったく、なにが幸いするかわからないものです。

最後にギリシャの裏事情(笑)について。
これは本当にそういうことらしいです。
でも街区として、記述したとおりの様子なのかどうかなんて知りません。
さらにアフロディーテに謎語で会話させてしまいましたが、恐らく娼婦の出身地はアフロディーテの生国よりはギリシャよりと思われるので、この辺も根拠のない書き方になってしまっています。
むしろカノンの方がわかるんじゃ……(笑) 真上の国の人だと思うので。
なのでこの辺りについては、あまり突っ込まない方向でお願い致します。

2010/03/03


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