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Side-S:13章 Burst into flames 6


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 今朝になってようやく聖域に戻ってきたというアテナは、事件に巻き込まれたという立場を十分に利用して久々にゆったりと時間を過ごしていた。
 ゆったりとは言っても、常日頃に比べればである。俗世の用事を全てキャンセルできただけ、ともいう。
 戻って早々に、少し話をしようと考えていた相手は捕まらなかった。代わりに自らの代行者たる教皇シオンから重要な用件があると会談を申し込まれた。それを受け、話を聞けば、結局彼女がやるべきことは現前していて、休む間などない。しかしどう考えても最優先事項であったので、この順序でことが進んでむしろ良かったのだと前向きに考えることにした。
 そうしているうちに、一番初めに話をしようとしていた相手がやっと戻ってきたという。それを伝えに来たムウが、なぜか呆れかえった顔をしていた。理由を聞いたが、うまく煙に巻かれてしまった。 と一緒に戻ってきたからだとかなんとか言っていたが、それのどこがおかしいのかわからない。
 それでは私はこれで、とそそくさと去ろうとする牡羊座の聖闘士を、特に追及することなく伝言を頼んで帰した。個人的に話がしたいので、 も共に連れてくるように、と。
 恭しく礼をしてムウが消えると、アテナは広い私室でようやく一人になることができたのだった。ほっと息をついて、考える。なにから話そうか。――なにを話そうか。
 数千年抱き続けてきた記憶。聖闘士達には一度も語ったことはない。何度も生まれてきては、そのたびに一度も口に出すことなく、現代(ここ)まで持ってきた。誰かに話す日が来るなどとは、夢にも思っていなかった。――会えるとすら、思っていなかったのだから。
 瞳を閉じて、感慨に耽る。眼裏に浮かぶ、遠い日の人影。鮮明だった。ただの人間だったというのに、笑顔が、言葉が毅然としたまなざしが、今でもまざまざと蘇る。
 扉をノックする音が、回想を中断させた。ゆっくりと瞳を開き、アテナは応えた。
「どうぞ、お入りなさい」


 ***


「失礼致します、アテナ」
 大きな身体を恐縮させながら、カノンが姿を現した。傍らには もいる。招き入れれば、その後ろに更に二人の人影がある。いずれも法衣を纏った、教皇本人とその補佐だった。サガの手には一目で呪が施されているとわかる紙の筒がふたつある。用件はそれでわかった。
 にこりと微笑み、アテナは立ち上がる。
「呼び立ててしまって済みません、カノン、 。そしてシオン、サガ。二界から正式に回答書が来たのですね?」
 平服のカノンと をシオンはちらりと横目で見る。
「……後にした方がよろしいですかな?」
「いいえ。聞かれてまずい話でもありませんし、その書状の内容についても結局はあなた方全員と確認しなければなりません。ちょうど良かったわ」
 執務用の重厚なデスクを離れ、応接用のソファに自ら四人を招いた。呼び鈴を鳴らして隣室に控えている星華を呼ぶ。彼女が茶の用意をする横で、サガから書状を受け取った。呪は封程度の意味しかないもので、まだ開けられた形跡はない。憚ることなく開き、目を通す。続けて二通――すなわち不可侵協定を結んでいる海界と冥界からの、協力要請に対する返答書――の内容をあらためた。実際は既に回答など得てある。これはいわば契約書のようなもので、今更勿体ぶって確認しなければならないようなものではない。
 実のところ、まだなにをどう話そうか迷っていただけなのだ。呼び出しておきながら、情けない。
 逡巡するためのわずかな時間はすぐに終わってしまった。星華が一礼して下がり、まず口を開いたのは だった。
「女神アテナ……まずはお詫び致します。この度はご依頼いただいた任務を果たすどころか、大変な事態を起こしてしまいました。大変申し訳ございませんでした」
 深々と頭を下げられて、アテナは少しどころではなく困惑する。 が全面的に悪いわけではない。どちらかといえば は被害者に近い。アテナが――沙織が、よりにもよって にあんな依頼をしなければ、あのような事態にはならなかったことは、あの晩に判明している。
「そのうえ、この段になって面倒なお願いをしてしまいました。なにもかも遅きに失したのは、ひとえに私の判断ミスです。本当に、なんとお詫び申し上げていいか……」
 事務的で、抑揚の乏しい話し方。それでいっそう、 は悔しいのだとわかってしまった。多少は言葉の前後に装飾があるものの、こんな話し方は、そう――
「そんなに畏まらないでください、 さん。あなた一人に全ての責があるわけではありません。それどころか、あなたがいてくれたからこそ、私たちこの世界の者はすでに足下を浸食していた脅威に気づき、対抗できるのですよ」
「…………」
 唇を噛んだ は、納得していないのが明らかだった。わずかに屈辱を滲ませた群青の瞳をのぞき込み、アテナは微笑う。
「……あなたのそんなところは、お父様譲りなのでしょうね」
 弾かれたように顔を上げ、まじまじとアテナに向けられた瞳の色。それはかつてアテナが語らった女性のものとは違う。彼女の瞳は、同じ青でももう少し優しげな色だった。こんなにきっぱりと厳しい群青は、むしろ。
「初めてあなたにお会いしたときに思ったのです。なんてお父様と似た目をなさっているのかしら、って」
「……父のこともご存じなのですか?」
 驚きを隠せない様子の に、アテナは更に笑いかける。
「勿論です。もっとも、直接お会いしたのはほんの数回、それもわずかな時間でしたが。でも、お話だけならたくさん伺いました」
「それは……母から?」
 どことなく渋い表情の がなんとなくおかしかった。笑いを噛み殺してアテナは頷く。
「そうです。話を聞いただけでは、彼は私がそれまでに知っていた人間というものとはあまりにも違うようでした。とても信じられなくて、本当はどんな方なのかしらとずいぶん興味を覚えました。そして実際にお会いして……驚きました」
 あのときの衝撃は、長い年月を過ごした今でも忘れられない。
「彼は、完璧な戦士でした。……あれから私は何度も生まれ、死にました。その間、本当にたくさんの人々と出会ってきましたが、それでも彼ほど完璧な戦士に、私はまだ会ったことがありません。どんなに優れた聖闘士でも、誰一人として彼のようではなかった……」
 どこか夢見がちにつぶやくアテナに、それまでじっと黙っていたシオンがついに苦言を呈した。
「それはまた、ずいぶんな御仁のようですが……聖闘士と比べられるのは正直、いい気が致しませんな。教育のされ方も、戦いの目的も違うのでしょうし」
「その通りです。あんな人間が二人もいては困ります。それに彼は戦士ではありません」
  にまでばっさりと断言されて、アテナは苦笑する。わかっている。
「そうですね。彼は戦士どころか兵士ですらなく――話に聞いていたとおり、まるで兵器のようでした」
「兵器?」
 シオンが眉をひそめる。アテナの口から出るには、あまりにもふさわしくない言葉だった。しかしアテナはシオンの憂いとはかけ離れた表情を浮かべていた。可笑しそうに笑う。
「それでも初めて会った頃に比べたら格段に人間らしくなったのだと、彼女は言っていました。初めの頃はすごかったらしいですよ。やっと口をきいてもらえたと思ったら『お前を殺す』と言われたのだとか」
「………………」
 これだけでいたたまれなくなったのか、 が顔を完全にうつむかせてしまった。誰もが奇異の目で を見るのだから、当然と言えば当然である。
「それでも結局、彼は彼女を殺すどころか、守りました。――自分が世界を平和に導くことができると買いかぶってもらえたから守ってくれたのだと、彼女は言っていましたが」
  に向かっていた視線がアテナへと戻る。そのことに、瞳を閉じてしまったアテナは気づかない。ただ記憶をなぞる。
「それほど彼は平和を求めているのだと、彼女は痛いほど感じたそうです。一人きりでも戦い続ける力を持っているくせに、なんの力もない自分に縋りたくなるほど、平和というものを渇望しているのだと。――状況が推移する中で、確かに彼女は世界に一石を投じる影響力を手に入れた。でも、もしも彼に出会っていなければ、彼女はそれを使うことなどなかっただろうと言っていました。……彼が望んでいることを知っていたから、彼女はそれを最大限に使う道を選んだのだそうです。ただ、彼に平和な世界を見せるためだけに」
 ゆっくりと瞳を開き、アテナは虚空をひたと見据えた。
「たった一人の人間のためだけに、彼女は世界の平和を望んだのです。彼を、愛しているからという、ただそれだけの理由で――これを聞いたときの、私の気持ちがわかりますか?」
 アテナは両手を組み、そっと胸に当てた。まるでそこに、なにか大事なものを抱いているかのように。
「なんという深い愛だろうかと、なんて純粋な、強い想いなのだろうかと……震えました。驚いたのか恐れたのか、それとも憧れたのか。自分でもよくわかりません。でも彼女の心は、確かに女神(わたし)の魂に触れたのです。そして私の中に生まれました――人間というものに対する希望や期待が。そして同時に悟りました。人間とはただ手の内で慈しみ、庇護されるべきものではないのだと。彼らはきっと神々(私達)をも凌駕し、いつかは彼女のような精神の領域に至る存在なのだと」
 胸に当てていた両手がゆっくりと下ろされる。向かいに座っていた へと差し伸べられた。
「私は、あなたのお母様――リリーナさんから大事なことを学びました。そして、彼女はまたこうも言ったのです。彼の他にももう一人、平和な世界を見せたい存在ができたのだと」
 見えない力に引かれるようだった。気がつけば の両手は差し出されていて、アテナのそれに握られていた。
「それが、あなたです。―― さん」
 おずおずと握り返した手は優しくあたたかで、かけられる声と同じくらい柔らかい。
「あなたが生まれても、すぐにはそんな世界は見せてはあげられないことなど、リリーナさんはわかっていました。それでも……求めることの素晴らしさを、希望を抱き続けることの意味を伝えたいのだと、次の世代に継いでみたいのだと彼女は言ったのです。――どこまでも人間的な、神とはまったく違う方法による永続の可能性。この希望の芽を、決して摘み取られてはならないと感じました。それ以上に私は、見てみたいと思ったのです。本当に彼女がそれを成せるのかどうかを。語り継いでいけるのかどうかを」
 触れあった手をそっと撫で、アテナは吐息を零すようにつぶやいた。
「そして――彼女は、できたのですね。彼女の心は、確かに伝わっている。あなただけではなく、あなたの世界に広がっている。だから、あなたは今ここにいる」
「……でも、今のような事態になっています。世界はいまだ平和にはほど遠く、言葉を聞かない、聞いても理解しない者も多い……」
 力なく、 の手が落ちる。アテナから離れて、膝元で握りしめられた。固く。
「良いのです」
 しかしアテナは力強く語りかける。諦めない。なぜなら――
「それでも良いのです。人が多様である以上、一つに纏まることなど、実際あり得ないでしょうから。……それでも、求め続けていくことが大事なのです。その課程が、その道そのものが、リリーナさんのおっしゃる平和なのではないでしょうか。辿り着くことが目的なのではないのです。歩み続けることそのものが、すなわち完全平和であるとリリーナさんは考えたのではないのでしょうか? 少なくとも私は、そのように理解しました。そして、実践してきたつもりです。伝え続けてきたつもりです。時には伝わらないこともあります。でもそれは当たり前で、仕方のないこと。大切なのは、諦めないこと。決して、希望を捨てないこと。 さん。あなたも、同じように考え、実践されているのではないのですか? だからこの世界にたった一人放り出されても、あなたは戦うことをやめようとはしなかった。あなたのその戦う目も屈しない心も、あなたはちゃんとご両親から受け継がれていると感じたのです。だから私はあなたをこの聖域に受け入れた。あなたと私は同志だと感じたからです」
 切々とした訴えだった。言葉は確実に の心の奥底に響いた。その重さを、 はしばし瞑目して受け止める。
 その通りだ。
 アテナは、理解している。間違いなく。母の思想を、理想を。そしてこの世界で数千年、それを貫き通してきた。その上――
  は顔を上げる。居並ぶ面々を見渡した。脆弱な人間の身に降りた神と数百年間に渡り一念を貫き通した者。そして道を違えて大きすぎる罪に手を染めた者達。全く違う境遇にありながら、結局は同じものを目指した。そのために死まで受け入れ、ついには平穏を手に入れた。
 彼らがそこまでしてようやく手にしたこの穏やかな世界を、 は損ないたくない。さっきカノンに暴言の許しを請うたときに感じた想いが新たになる。
「女神アテナ……ありがとうございます。母を、そして私のことまでそんなにも深く思って下さって、ありがとうございます。この世界を乱しただけの私達に、そんなにも御心を砕いて下さったことに感謝します」
 まっすぐにアテナを見返した。
「――戦います。私に残された力はもう少ないけれど……まだできることはあります。だから諦めません。……この世界にも問題はたくさんあって、戦火の火種はそこかしこに点在している。でも、皆さんはその中にも希望があると信じて守りました。私は皆さんのそんな気持ち、行いこそが希望だと感じます。それを、守りたいと思います。せめて私達のせいでこの世界が――この地上が、これ以上乱されないように、戦います」
さん……」
 アテナに感極まったような笑みを向けられて、 の口の中には言葉が一つ取り残されてしまった。
 余計なことは、言わないでおこう。 はアテナの、そして聖闘士達の表情を目にしてそう決めた。戦い続けることを宣言してしまった後なら、なおさら。

 ――最後まで、だなんて。

 残された言葉は舌の上に不快な苦みを残し続けた。それを表に出さないようにするのは存外、大変だった。


Burst into flames 6 END



『完全平和』と言うものに対する、私なりの解釈を滔々と述べ(させ)てみました。
なんかくどくてすみませんorz
2010/03/27


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