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Side-S:13章 Burst into flames 8


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 今後の予定がある程度決まるというのは、気分の良いものだ。
 01のコクピットで、先ほどまでの聖域の重鎮と協議した内容をまとめながら、 は感慨深くそう思った。
 予定があって、終着点が見える。それだけでずいぶんと気が楽になる。それがもう後がないとか目に見えて困難であるとか、あまりありがたくないような内容だったとしてもだ。
 全く先の見通しが立たず、寄る辺のなさを感じながら、漠然とした目的に向かうだけというのは精神的にかなり辛い。
 本当のところ、目標を見失いそうになっていたのだ。
 常にアンテナを張り巡らせ、目につく事態には即座に対応してきた。それでもその行動自体はどこか漫然とし、効果が上がっているのかどうかも定かではなかった。
 それが案の定、焼け石に水だったのだと気づいたときには渦中にどっぷりと誘い込まれ浸かりきって、どうにもこうにも抜け出せなくなっていた。
 一つ一つの行動を見れば、 は確かに勝っていたはずだった。ひとたび標的を定めれば、被害を最小限に抑えつつ完全に撃破してきた。
 しかしおぼろげながらも全体を俯瞰できるようになったとたんに見えてきた、己の敗北。一つ一つの戦闘で勝っていても、意味はなかったのだ。戦略的には完敗だった。
 負け続ける戦い。それ自体には、実のところたいした嫌悪感はない。
  の同僚達――先達と言った方が正しいが――は、いつもそうして負け続けてきた。むしろ勝ってはいけなかった。勝ってしまえば、彼らの掲げる大義が挫けてしまう。矛盾するようだが、それで良かったのだ。勝てば官軍の理屈は最も唾棄すべきものだったし、完全な勝利者となってしまえば彼らの敵が目指していたものを奪い取っただけになってしまう。それではいけなかった。彼らは、常に負け続けなければならなかったのだ。――相手に無視し得ないほどの損害を与えて。
 その基本の部分で、 は失敗してしまっていた。
 半ば敵に引きずられるようにしてこの世界へやってきた。それだけでも痛烈な過失だったというのに、 はさらにミスを塗り重ねてしまったのだ。
 完全な失敗。死ななかったのは万に一つの幸運でしかなかった。だがそれだけだ。生きて戻っても、普通に考えれば免職か、よくても停職もののミスだ。だが今の には、その処分を下す上司さえいない。
 孤独だった。意見がほしい。どんなものでもいい。叱咤でも、罵倒でも。切実だ。自分の力不足を補ってくれる助言がほしい。
 たった今、まとめたばかりの行動計画書を読み直す。やはりこの期に及んでも、得心のいく内容ではなかった。現段階ではもっとも有効だろうと考え、聖域側に推し、賛同を得た上で詳細を詰めたプランだった。それでも。
 ――こんな方法では、最も理想的な結末など迎えられはしない。
 結局のところ、 はやはりこの世界の人々を巻き込みたくはないのだ。シオンには、もうこの世界の問題でもあると諭された。わかっている。自らの意思で敵組織に参入してしまっている人間もいる以上、シオンの言葉は正しい。――わかっている。
 それでもやっぱり、 からは後ろめたさが消えない。なぜだろうかとしばらく思案して、唐突に気づいてしまった。
 戦いたくないからだ。
  は、本当は戦いたくなんてないのだ。
 以前、童虎にリハビリを兼ねた稽古をつけてもらったときのことを思い出す。生身の対戦相手による実戦を持ち掛けられて、断ったのだった。あのとき、自分は童虎に言ったのではなかったか。
『できることなら、もう誰も傷つけたくはないんです。戦いたくなんてない! でも、誰かを傷つけないためには戦うしかなくて……それだったら、必要最小限で済ませたい……』
 甘かったのだと思う。その甘い気持ちが、判断が、今のこの現状を招いている。
 あのときの童虎の を見る目には、間違いなく憂いが含まれていた。もしかしたら、 の甘さがこのような事態を招くことを憂慮していたのかもしれない。
 深くため息をついて、 は計画を打ち込んでいたファイルを保存して閉じる。コクピットのモニターをディスプレイ代わりに使っていた。そのウインドウが消えると、01の目(メインカメラ)の映像だけが静かに を包み込む。
 すでに日が落ちて数時間が経過している。たいした灯りのない聖域の夜は暗い。今夜は月も雲に隠されているからなおさらだ。それでもメインカメラは高感度仕様なので、岩の窪み、草の陰の一つ一つまでが鮮明だった。
 今の は、暗闇を手探りで進むことへ対してほとほと嫌気が差している。わざわざ足元の見えにくい外へ出て行くのは気が進まなかった。
 いっそ今夜はここで過ごしてしまおうか。
 そんなことを考えて、 は頭を振った。これが甘いというのだ。きっと。
 そんな風だから、なにもかもが裏目に出る。例えば――
 来たくなかった所(地球)に、もう半年以上縫いとめられて動けないでいることとか。
 二度と会うことは適わないと思っていた人物と、再会し――挙げ句の果てに、わざわざ髪の色まで変えて逃れた母の面影を、もっとも最悪な形で見出されてしまったこととか。
 そして極めつけはこれだ。戦いを最小限にしようと画策した結果、結局はひどい消耗戦を自分のみならず周囲にまで強いることになった。
 思えば、 が望んだことはことごとく反対になってしまっているのだ。ここまで来ると、もう偶然とは思えない。なにかの――たとえば運命とかいうものの――悪意があるのではないかとすら疑いたくなる。
 それなのに、望みをあのエピオンにぶつけるべき場面で、何も思い浮かばなかった。それさえあれば、あのシステムはもっと有用な演算結果を に見せたに違いなかったのに。
 否。そうではない。―― は気づいた。エピオンは、 の望まない未来ばかりを見せた。それは畢竟、 は自身が『望んでいない』ことばかりを心に描いているということを意味してはいないだろうか。
 ではいっそ、逆を採ってしまえば、自分で思い描く事のできていない本当の『望み』に近づけるのだろうか? 逆の道を行く。そうすれば、あるいは。
 いい考えだ。どう頑張っても反対の方向にしか向かえないのなら。
 そうだ。逆のことをしよう。
 戦いたくないなら、戦えばいい。戦って、戦って。
 ――そして、 は死が怖いのだ。エピオンに繰り返し見せられたそれに半狂乱になったのだから、疑いようがない。
 では、死にたくないのなら、死を恐れずに戦えばいい。
 そうしてどこかにたどり着けたなら、そこはまさしく理想の場所なのかもしれない。
 ――光の見える、うつくしい場所。
 目指さなければ、 はそれを手に入にすることができるのだろうか?


 ***


 あえて01から出て暗闇のなかに入り込んだ は、その場にそのまま少し立ち尽くした。目が慣れるのを待つ。もともと夜目は効くほうだ。淀みなく歩き出せるようになるのにそう時間はかからなかった。
 しかし歩みは途中で止まった。人影が見える。アテナ神像の足元へと向かう階段の降り口のど真ん中に座り込んでいる。背を向けていたが、誰なのかはすぐにわかった。見慣れた背中。見間違えようがない。
 傍にいてくれたのだとわかった。頼んだとおりに。――嬉しかった。
 名前を呼んで、すぐに歩み寄っていきたい。
 だが はそうしなかった。決めたばかりなのだ。逆を行くと。
 同時に昼間の決意も思い出した。どうせ望みどおりにならないのなら、せめて感情のままに行動することを選択したはずだった。
 そうだ。こればっかりは、どんなに足掻いたところでどうなるものでもない。逆を行こうが行くまいが、結末はひとつでしかない。
 ならば、躊躇する必要などない。
「カノン」
 呼びかける。気づいているのだろうに動こうとしない背中の斜め後ろでしゃがみ込んだ。
「どうしたの? こんなところで」
「……考えていた」
 静かな声だった。 のほうは振り返らない。ただはるかな暗闇の向こうを見つめている。
 そんなカノンの背中から、 は目を離せない。なんだか少し悔しかった。
「なにを?」
 立てた片膝に頬杖をついたままの姿勢で、カノンは答える。
「……マスドライバーの存在と、その稼働の可能性に気づいたのは、いつだ?」
 なぜか厳しい声に、 は理由がわからないまま怯んだ。
「覚えていないわ。……あの衛星画像を見つけたのは、そんなに前ではなかったはず。たぶん、3ヶ月も前じゃないわ。それ以来、何となく可能性は考えていたけれど……確信したのは、エピオンでトーラス部隊と交戦したときかしら」
 正直に答えたら、やっとカノンは振り向いてくれた。それでも口調が硬いのは変わらない。
「では、意図してあの施設への攻撃を後回しにしていたわけではないのか?」
「意図? ……質問の意味が、よくわからないわ。意図というか理由というのであれば、あれだけ大規模の拠点を一気に叩こうとしても失敗する可能性が高かったから、というところよ。たぶんあそこが本拠地なのは間違いないから。本拠地だと確信していなかった頃でも、他に比べてずいぶん大掛かりだったから、相当な重要拠点だとは思っていたわ。だから手が出しにくかったの。攻略しあぐねていたというか……知っているでしょう? 01の武装状況を」
「…………」
 黙ったまま を見つめるカノンに幾ばくかの居心地の悪さを感じつつ、 は言い募る。なぜか言い訳でもしているような気分になった。
「――バルカンは弾切れ。バスターライフルのカートリッジは残り1発。マシンキャノンもなるべく使わないようにしているけれど、もう残弾は少ないわ。事実上、シールドとビームサーベルくらいしか武装がないの。だからこちらでも入手可能な兵器だけで簡単に制圧できるところを完全に沈黙させた上で、最後に叩くつもりだったわ。残りの全武装を使用すれば、不可能ではないはずだから」
 じっと を見つめていたカノンは、聞き終わると同時に重い溜息を吐いた。視線は逸らさない。
  は思わず身を引いた。射すくめられた心地がする。嘘は言っていない。でも、全部を話したわけでもない。――見破られたのだとわかった。
 言わないで、と。それ以上は言わないで欲しいと。口にする隙は与えられなかった。
「それで、どうするつもりだ? 全力でそこを叩いて、それからお前はどうするつもりだ?」
「…………」
 やっぱり気づかれた。 は顔を逸らす。なにも言えなかった。追及から逃げるように立ち上がる。
 それでもカノンは容赦しなかった。
「そこに宇宙への道がある。恐らく、唯一の。それに気づいていながら、お前はそれを閉ざすと言う。……それでお前は、どうするんだ?」
 カノンも立ち上がる。 よりも下の段に立っているのに、目線は よりもわずかだが少し高いくらいだ。両肩をつかまれた。いつものように上からではなく、ほぼ真正面から顔を覗き込まれて、もうどこにも逃げようがなかった。
「お前が宇宙へ――元の世界へ帰ることのできる、唯一の手段があるところだろう。そこを破壊して、お前はどうする?」
「……考えていなかったわ」
「嘘だ」
「本当よ。敵組織の壊滅のことしか考えていなかったし、そこまで気を回せる状況では――」
「嘘だ」
 カノンは言葉を途中で遮ってまで断言した。あまりにも真剣な表情は、 に目を逸らすことを許さない。 
「嘘をつくな。そもそもお前は、帰るつもりなんてなかったんだ。最初から、帰るつもりも――生き延びるつもりすらなかったんだ」
 そんなことはないと反射的に反論しかけて、すんでのところで は言葉を飲み込んだ。
 できるかぎり、嘘はつきたくなかった。
 心に決めたことがある。それを貫き通すためには、せめて他のことには誠実でありたかった。
  はうつむく。頷いたつもりだった。それでようやくカノンの視線から逃れることができた。
「だって、しょうがないじゃない……全部が偶然なんだもの……」
「偶然?」
「この世界に、味方もいない状態で無事にたどり着いてしまったことがそもそもの偶然だったんだわ。さらに大気圏突入用の装備もないのに、地球に降りることができたのも偶然のようなものだったし、その後――この聖域に入ってこれたのも偶然なら、あなたたちに会えたのも偶然。そしてなにより……カノン、あなたと意識を共有して、あなたが私の味方になってくれたことが一番の偶然じゃないの」
「…………」
「そんな偶然が重なっていなければ、そもそも今日まで生きていることなんてできていなかったわ。むしろ今こうして生きていられることが、信じられないくらいよ。それなのに、帰るなんてことまで考えられたはず、ないでしょう?」
 どれもこれも本当のことだ。嘘なんてついていない。だから はようやく、真っ向からカノンを見返すことができた。視線がぶつかり合う。互いに身じろぎもしない。互いの腹を探り合う。
 どのくらいの間そうしていただろう。先に根負けしたのはカノンだった。
 いいだろう、と呟いた。きつく掴んでいた の肩を解放する。急に離されて少しふらついた の腕を掴んだ。
「いい加減、戻るぞ。メシだってまだだろう?」
 腕を引かれて、転びそうになりながら は階段を降りる。暗くて足もとがよく見えない。この古い石段は、ただでさえ足場が悪いのだ。文句を言おうと口を開きかけたところで、カノンが唐突に足を止めた。
「きゃ……!」
 小さく悲鳴を上げて、ついに は段を踏み外す。倒れ込む をなんの造作もなくカノンは受け止めた。
「……危ないじゃないの」
 広い胸に抱き留められながら、 は抗議の声を上げる。見上げた顔は夜闇のせいで表情がよくわからなかった。声を聞いても、どんな顔をしているのか想像がつかない。
「俺がついているのに、危険なことなどあるわけがないだろう」
 全く、想像がつかない。
「どんなことがあっても、守ってやる。だから、お前は生き延びる。――その先のことも考えておけ」
 いいな、と念を押されて、 は思わず頷いてしまった。その拍子に額がこつんとカノンの胸に当たる。
 布越しに額に感じた熱に思考が乱されて、それだけで先のことなどとても考えられそうにもなかった。

Burst into flames 8 END



次で13章は最後です。もうしばらくおつきあい下さい(^^)

2010/04/21


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