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Side-S:13章 Burst into flames 9 (13章最終話)


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 どうもここ数日、おかしな日々か続いている。中でも今日は極めつけだった。
 時刻は既に日付も変わろうかという頃だ。とぼとぼと双児宮へと石段を下りながら、カノンはもう何度目かわからない溜息をついた。
 あの派手な『炎のイリュージョン』とやらは阻止されたのに、それに端を発した弊害ばかりがどうにも目につく。
 基本的にゼロシステム搭載の機体によって が身体的にも、そしてなにより精神的にも参ってしまっているようなのが問題なのだ。
 おかげで嫌と言うほど泣き顔を見る羽目になり、意識を失ったところを介抱すること数度、挙げ句の果てに喧嘩はするわで散々だ。
 しかもそのせいで動揺し、うっかり作ってしまった借りをきっちり要求されて、懐まで大打撃を被ってしまった。アフロディーテめ、なんで何もしていない娼婦相手にあんなに金を渡したんだと毒づいたところで、もう払ってしまったものは取り戻せない。口止め料という名の手数料が上乗せされているのはわかっていたので、要求に従うしかなかった。その代わりに後腐れはないはずだ。万が一いつまでもこのネタを引きずるようなら、千日戦争も辞さないとカノンは密かに決心している。
 しかし、悪いことばかりでもなかった。
 結局 とは和解した。それも、折れたのは だったのだから驚いた。どういう心境の変化があったのかなどカノンには到底図り知ることはできないが、結果が良ければ、まあいいだろう。
 アフロディーテやデスマスクの言葉を信じるのなら、どうやらカノンは に頼られているようだ。疎ましがられていたのかと密かにショックを受けたのだが、勘違いだったらしい。 が虚勢を脱ぎ捨てて、弱い部分を見せた。それはつまり、それだけ信用されていたということのようだった。まったく、女というのはわからない。
 だが――カノンはだからこそ憂いを抱く。
 これまでどんなことがあっても変わらずに強がってきた が、ここへ来て急に挫けたというのが気になる。
 そしてさっきは最後まで追求しないでおいたのだが、懸案がまだ残っていた。
 今の状態では、本当に本腰を入れて守ってやらなければまずいことになりそうだ。身の安全だけではなく、精神的にも支えてやらなければならないだろう。――まったく面倒だ。
 そう思いはするものの、投げ出す気など露ほどもない。まったく。どうして俺はこんなことを好きこのんで引き受けている? そう思うのに、他の誰かに任せる気だってさらさらないのだから仕方がない。これは俺にしかできないことだと、なぜだか頑強に主張している自分がいる。そんなわけのわからない自分の制御をするのが、実は一番の面倒だ。
 いろいろ考えてしまって辟易しながらも足は順調に長い石段を下る。ようやく自宮にたどり着いても、ほっと一息をつくどころかうんざりする羽目になった。


「……戻っていたのか」
「今まで何をしていたのだ」
 居住スペースではなく、わざわざ巨蟹宮側の入り口付近でサガが待ち構えていた。もはや脱力する以外になかった。言いたいことはわかっている。手早く済ませたい。カノンはさっさと奥へ足を進める。とにかくおかしな日だったのだ。疲れた。早く休みたい。
「質問なら答えてやるから、さっさと聞いてくれ」
 声をかけてやれば、きつい視線を向けつつも立ち尽くしたままだったサガがようやく後をついてきた。しかしなかなか口を開く気配がない。
 結局そのまま無言で二人は歩き続け、カノンが居住区画の扉を開けてもまだ質問は浴びせられなかった。
 カノンは大きく溜息をつく。サガが扉をくぐり、閉じたのを確認して口を開く。
「……聞きたいことがあったのではなかったのか?」
 ついに振り返った。真っ向から対峙した兄は、扉を背にしてまっすぐにカノンを見据えていた。
「あった。――ありすぎて、なにを聞いたらよいのかわからんくらいだ」
「だから答えると言っている。さっさとしてくれ。俺は疲れてるんだ」
 いらいらと声を荒げる。兄と話しているとこうなることが多い。どうやら会話のテンポがあわないようだ。だから苛つく。このままだと、いつもならばろくな話もせずに会話が終了してしまうところだ。
 だが今日はそうならなかった。
「――先ほど打ち合わせた今後の作戦行動について、どうやらお前は賛成していないように見えたが、なぜだ?」
 見えた、などと私見の混じった教皇補佐らしからぬ内容ではあるが、単刀直入で的確な指摘にカノンは舌を巻いた。
「問題があるなら、その場で言えば良かっただろう」
「それを許さぬ雰囲気だったのでな―― が。だからお前も、それ以上言えなかった。……違うか?」
 カノンは目を眇める。昔から繊細なところのある兄だ。人の感情の機微にも聡いのか。
 黙っているのを肯定と取ったらしい。サガはあえて明確な回答を求めようとはなかった。
「結局あのまま、ほぼ の言うとおりに計画が立てられたわけだが、お前があの様子では果たしてうまくいくのかと不安を感じざるを得ない」
の作戦遂行能力と、俺個人の考えには関係がないと思うが」
「それはどうだろうな。……あのパーティの後から、明らかに の様子がおかしい。お前はそれを懸念しているのではないのか。かばい立ての仕方も、いくらアテナの命があるとはいえ、いささか度を超しているように見受けられる。――その調子では、場合によっては の妨害もしかねない。私にはそう思えるのだが」
「妨害など」
「しないと断言できるか?」
 上っ面だけの反論を、サガはぴしゃりと遮った。出鼻をくじかれ、カノンは憤然としながらも黙るしかない。
「…………」
「どうなのだ?」
 しかしサガは先ほどとは違い、追求をやめようとはしなかった。
 仕方ない。答えると言ったのはカノン自身だ。吐き捨てるようなため息をついて、腕を組む。これは防御の体勢だとちらりと思ったが、そうせずにはいられなかった。
「ああ、認めよう。断言などできん。それどころか が危険になれば、俺は迷わず邪魔をするだろう」
「だがそれはすなわち、この世界にとっての脅威を取り除こうと腐心してくれている の心を無にする行為だ。……それをわかっていてもなお、そうするのか?」
「――聖戦の折、アテナがお前の目の前で黄金の短剣を自らの喉へ向けたとき、お前はアテナの御心を理解していたにも関わらず、咄嗟に手を伸ばした」
 最も忌むべき記憶を唐突に引きずり出されて、サガは動揺した。
「それとこれと何の関係がある……!」
「同じ心境なのだと思う」
 思わず上擦った声を上げたサガとは対照的に、カノンの声は沈痛だった。
は持てるすべてを投げ打って、最後の戦いに挑もうとしている。わかるか? これから始まるのは、 にとっての最後の戦いだ」
「最後……」
 どこか不吉な響きの言葉だ。サガは眉をひそめる。目の前ではカノンがまったく似たような表情を浮かべていたが、その意味合いは恐らく違う。深刻さの度合いが違う。 
「マスドライバーのある施設を最後に破壊すると言っていただろう? よく考えてみろ。……あれがなくては、 は帰れないんだ。なのにあいつは自分でそれを壊すという」
 ああ、そうか。サガは今更ながら納得した。カノンの危惧は、成る程真っ当だ。
「後がないんだ、 には。そしてあいつは、その後のことをまるで考えてはいない。これがどういうことか、わかるか?」
 わかる。だからこそ、サガは迂闊に言葉を発することができなかった。どうやらカノンもそれは同じらしい。
「――俺は止めたい。 がこの世界のことを考えてくれているのはわかっている。だが、止めたい。引き留めたい。どんなことをしてもだ」
 言葉を選んでいる。サガとは違い、勿体ぶらずに物事を口に出す弟が。意外だった。だからこそ、カノンの思いの深さを知らされる。
 ここまで他人を思いやる男ではなかったはずだ。情がないわけではない。だがサガの知る限り、それはこういう形で発露したことはなかった。
 ここ数日間、カノンに対して抱き続けていた違和感がようやくサガの中で形を成した。
 たとえば教皇にあれほど激しく刃向かい。かと思えば、なりふりかまわず と掴み合いの口論をする。そしてその に対して、これほどまでに心を砕く。
 カノンのそれらすべての言動が、サガはどうにも釈然としなかったのだ。
「よほど が大事と見える。――それほど に心奪われているとはな」
 やっと形になった言葉が、ついぽろりと零れただけだった。責めてはいない。勿論、咎めたりするつもりもない。
 どこまでも何気ない調子の一言に、かえってカノンはぎょっとしたようだった。
「――なに?」
 声が上擦っている。
 なにかおかしなことを言っただろうかとサガは怪訝に思った。ほとんど独り言のつもりだった。別に聞こえていなくても構わなかったのだが、サガは繰り返してやった。
を好いているのだろう? 随分と入れ込んでいるのでおかしいとは思っていたが、まさか惚れているとまでは今の今まで気づかなかった。――まあ、あれだけ共にいれば情も移って当然か」
「俺が……?  を?」
 半ば呆然とカノンは復唱する。あまりにも意表をつかれた様子に、むしろサガが驚いた。
「なんだ。違うのか?」
 訝しみつつ問えば、カノンはうつむいて何事か考え込んでしまった。考えるようなことかと余程言ってやろうかと思ったが、とりあえず黙っておいた。
 黙って見守りつつ、返答を待ったが答えがない。しばらく待ってみたが、結局サガは諦めて立ち去ろうとした。動こうとしない弟の横を通り過ぎる。
 そのときだ。
 くぐもった笑い声が聞こえた。サガは振り返る。
 腕を組んだまま右手だけを上げて、カノンは目を覆っているようだった。背を向けているので表情はわからない。だが確かに笑っていた。肩が小刻みに揺れ、笑い声が聞こえるのだから間違いない。
 ここは笑うところだっただろうか? サガは自問し、すぐさま否と答えを出す。おかしな話題など出ていない。こんな反応をされる理由がわからない。
 いくら血を分けた弟でも、さすがに気味が悪くなった。サガは恐る恐る声をかける。
「……カノン?」
 相変わらず答えはない。ただ引きつったような哄笑の声だけが石造りの通路に響き渡る。
 それが唐突に終わった。
 次はどんな凶行に出るのだろうか。サガは思わずゴクリとのどを鳴らす。だがカノンは動かない。
 ただぽつりと呟いた。心なしか、肩を落として。
「なるほどな。そうかもしれん。そういうことなんだろうな……」
 倒れかかるように壁に背を預けて、それでも独白は止まらない。
「だが、気づいたところでどうしようもない。俺に……人を愛する資格などない。ただの虐殺者である俺には……」
 うつむいたまま吐き出された自嘲は、同じような罪を背負うサガの胸をも抉った。
「カノン……」
 呼び声に応えるかのようにカノンは顔を上げ、サガに向かって小さく笑みを浮かべて見せた。弱々しいくせに、なぜか満ち足りた微笑。サガは胸を突かれる。
「しかし、なかなか悪くない気持ちだな。どういうわけだか、胸が熱い……変な気分だ。だが、本当に悪くない」
「…………」
 素直な言葉に胸を打たれて、サガはなにも言えなかった。凝視するだけの兄に向かって、カノンは微笑を苦笑に変える。
「――あいつには、なにも言うつもりはないさ。今まで通りだ。なにも変わりはしない。安心しろ」
 なにか誤解している。サガは思った。批難するつもりも、反対するつもりですらサガにはないというのに。
 ただカノンがそういった感情を持つことを躊躇せざるを得ない理由が、サガにはわかる。だから誤解だってする。それも理解できる。
 どう誤解を解こうかと必死で考えた。それは決して、抱いてはいけない感情ではないのだ。
 聖闘士のしきたりや有り様から誤認されているようではあるが、誰かを愛するということを女神アテナは禁じたりはしていない。むしろ愛を尊いものとして掲げ、推奨しているというのに。
 だがそれ以前の問題だった。カノンは自分で言ったのだ。人を愛する資格がないと。――そこが誤解だ。重大な。
 明晰だと評される頭脳で一生懸命考える。どうすれば、哀れな弟の誤解を解くことができるのかと。
 しかし脳裏に浮かんだのは、数日前に自ら読んだ星々の輝きだけだった。
『淡く輝く火星――絡め取られ、動けない。取り囲む小さき星々が強さを増す。予期せぬ、必然の再会。古(いにしえ)の栄光――失われた。繰り返す、乱世。暴走……狂走。示される未来。別れる道。生まれる誤解。差し出される救い。すれ違う。解けぬ誤解。……業火』
 生まれ、解けない。
 自ら予見した結果に眩暈を覚えた。――これでは、覆しようがない。そして、もしも本当に星見が正しければ。
「だが……守る。俺は を守る。アテナの命ではなく、俺自身の意思で。こんな俺に、こんな人間らしい暖かな感情があるのだと気づかせてくれた、せめてもの礼にな」
 無理かもしれない。その先に待ち受けるのは、業火なのだから。
 とんでもない禍言を、サガは苦労して飲み込んだ。
 同じ夜のシオンの言葉を思い出す。信じようと躍起になって努力する。――取り越し苦労だ。実際、業火とは何のことなのかはまだわからないのだから。
「……せいぜい尽力するのだな。 はたしかに、守られるに値する存在かもしれん。――お前になど、勿体ないほどのな」
 サガの精一杯の虚勢に、幸いにもカノンは気づかなかった。
「抜かせ」
 ふんと面白くなさそうに鼻を鳴らして、背を預けていた壁から身を起こす。立ち尽くすサガを一顧だにせずに歩いていってしまった。
 角を曲がって、その姿が見えなくなるのを待った。そして今度はサガが壁にもたれかかる。
 意味のわからない不吉な言葉が悪い予感を伴って胸の内で暴れて収まらない。やり過ごすのはどうしようもない難事だった。

Burst into flames 9 END



次の14章は前にも書いたとおり、同じタイトルの後編です。
全8話でお送りします。
前後編の続き物で、前編がこう言う終わり方をしていると言うことは……まあ、そういうことだと思います。←
一番書きたかった部分でもあるので、長くなっているわけです。
緊張感を保ちたいところで前後編に分けてしまったので、その辺がちょっと個人的には気になっています。
スムーズに繋げられていればいいのですが。

2010/05/06


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