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Side-S:中編04 Northern Cross 09


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 年若い少女が使うのには似合わない古めかしいつくりのマホガニーのデスクに置けば、そのロザリオはなんの違和感も無く机上の風景にしっくりと馴染んだ。
 少しばかり悔しいような気がしたが、当然のことなのかもしれない。我が身を省みて、沙織は苦笑を漏らす。
 9年も前、沙織がまだここへの入室を許可されていなかった頃、このロザリオは既にこの部屋のこのデスクに置かれ、なんらかの仕事をしたに違いないのだ。いわば沙織の先達だ。敵うわけもなかった。
 部屋の主は変わっても、ロザリオの輝きやデスクの艶はきっと変わっていない。もしも変化があったとしたら、それは年月を費やして趣が多少深みを増したという程度だろう。しっくりとこの部屋の空気と調和したそれらは、久しぶりの再会を喜んでいるかのように沙織の目に映った。
「……どうしたものかしらね……」
 深く溜息をつく。預かったはいいが、正直扱いに困っていた。一度は置いたロザリオをすぐに取り上げ、問いかける。
「あなたは、おじい様になにを伝えたの? おじい様とあなたは、一体なにをしたというの?」
 デスクの上には、一枚の履歴書のコピーがあった。自筆のサインはスミルノワ・ナターリア・イワーノヴナと書かれているのが読める。色の褪せた小さなカラー写真も添付されていた。
 その写真に生真面目な表情で写っている彼女こそが氷河の母・ナターリア――愛称はナターシャ――なのだ。この書類は氷河の母の姿を確認できる、現時点では唯一の資料に違いなかった。
 語りかけたのは、ロザリオではなく彼女に向けてだ。若かりし姿のまま時を止めた、いつまでも眉目秀麗な彼女に向かって沙織はさらに語りかける。
「あなたのご子息は立派に成長し、そして比類なき力を持った優れた聖闘士になりました。そして女神アテナを――この世界を守ってくれています。ではあなたが守ろうとしたものは、一体なんだったのですか?」
 ロザリオはいくつかの輝石を一定の手順で押し込んでいくと下の長い部分が外れる仕様になっていた。氷河から教えられたとおりの順序で輝石を押して、現れた空洞を覗き込む。
 なにかが入っていたことは間違いない。だが今は空で、そこになにが納められていたのかを知る術など、ほとんどないのではないかと沙織には思える。
 氷河から散々手がかりを聞いているというのに、全くそれらしき資料が出てこないのだ。それはつまり、城戸光政はこの件については後継者である沙織に対してすら完全に隠蔽する意思があり、そして実際に行ったことを意味する。
 ならばそう簡単に真実を炙り出せるはずもない。城戸光政のやることに手落ちなどありえない。知恵の女神でもあるアテナとしての沙織もそれほど盲目的に評価するほど、彼は有能な人物だったのだ。
 もう一度溜息をつき、沙織は普段はあまり使わない短縮番号の一覧を手に取る。番号を確認し、机上の電話に手を伸ばした。
「――城戸沙織です。所長はいらっしゃるかしら?」
 どれほどの思いが込められていようとも、所詮ただの無機物でしかないロザリオから答えが帰ってくるはずもないのだ。
 ならば一輝のアドバイスに従って、まずは城戸光政によって隠匿されることのなかったロザリオ自身の調査から始めることにした。


 ***


 一週間後。
 沙織はギリシャに来ていた。滞在先は当然、公的には非公開である。警備上の理由もあるが、問題の滞在先がその存在をひた隠しにされている神聖不可侵の神域――聖域とあっては公開のしようもない。
 聖域にいる間はグラード財団の総帥としての責務からわずかに遠ざかることができるのだが、かわりに女神アテナとしての時間が待っている。表向きは休暇を取っていることになっていても、だからといってリゾート地でのんびり、というようなわけにもいかない。
 とは言え、聖戦はきわめて理想的な形で終了している。神として敬慕され厚遇されることに気後れさえ感じなければ、それほど悪い休暇ではない。
「失礼致します、アテナ」
 突然沙織は微睡みの中から引き戻された。柱の隙間を埋めながら幾重にも張り巡らされた壁のような帳の向こうから、若々しくも落ち着いた張りのある声が掛けられたせいだ。
 沙織がうたた寝してしまっていたのは神殿の最奥にある女神の寝所だった。もっとも、そのように呼ばれてはいるものの沙織の滞在中の私室というわけではない。なぜならここにあるのは剥き出しの石でできた祭壇のような寝台が示すとおり、とても寝起きするのは無理としか思えないような家具を模した石造りの造形物だけだからだ。
 ここは聖戦中においてはアテナの待機所となる。普段はその稀有なる小宇宙を、平和への思いを、聖域――ひいては世界中に広めるべく女神が祈りの為に篭る場所だ。よってアテナ神殿の中でも十二宮の頂にあるアテナ神像と並ぶ重要な神域とされている。
 聖域に滞在している間、沙織は決まった時間をこの寝所で過ごす。今日も現地の時間で早朝に到着し、それから午後を迎え、時間になったのでここへ入って瞑想していたのだ。しかしどうやら日頃の疲れが出たようだ。すっかり眠ってしまっていた。
 とはいえ、まだ日は落ちていない。たいして長い間眠り込んでしまったわけではなさそうだ。連日の激務から開放されるここでならば午睡は許されてしかるべきではないだろうか。それどころかここは『寝所』だ。この地の慣習としては当然の行為とも言える。どうせ他にもシエスタをとっている者も多いはずだ。
 その時間に声がかかった。ということは、余程急な用事でもできたのだろうか。休暇中とはいえ、グラード財団総帥の身分から沙織は逃れられない。重要な件に関してはこちらにも連絡は届くように手配してある。
 もしかしたらあの件か、いやそれともあの交渉がこじれたのかもしれないなどと思えば当然、気が重くなった。
「なにか?」
 倦んだ気配を出さないようにできるだけ気を使ったつもりだったが、あまり成功した気はしなかった。しかしその努力だけは汲んでくれたかのように、帳の前に跪いているとおぼしき男の声が揺らぐことはなかった。
「瞑想をお邪魔致しまして申し訳ございません。双子座のサガでございます。日本よりアテナに急ぎのお届け物がございましたので、お知らせに参った次第。時を争うものかどうか私どもでは判別がつきかねましたので、直にお知らせに上がりました」
「急ぎの届け物?」
 沙織は眉をしかめる。連絡ならともかく、荷を送られるような重要案件などなかったはずだ。だが心当たりがないからこそ確かめなければならない。
「わかりました。少しお待ちなさい。すぐ参ります」
 古めかしいつくりのままの寝所の片隅に置かれた、あまり場に馴染んでいるとはいえない時計に目をやる。もう少し寝ていられるはずだったのに。思わず溜息が漏れた。


 ***


 寝所からは少々遠い私室まで戻るまでもなく、沙織は寝所に程近い教皇の執務室で『急ぎの届け物』を受け取った。
 沙織の手元に届くまでに介した人の手の数を考えれば、無用心に扱ったところで今更なんの問題もあるはずがない。盆に載せてうやうやしく差し出された小さな箱をためらうことなく持ち上げてみれば、ずいぶんと軽い。『水濡厳禁』やら『至急』やら、古めかしい字体のシールが張られていた。
「なにかしら……?」
 差出人の欄には覚えのない会社名が書いてある。ラボラトリという文字が社名に組み込まれているところを見れば研究所だろうか。
「誰がここまで?」
 思わず尋ねてしまった。なぜなら宛名は日本語でしか書かれていないのだ。その上、注意書きも日本語だった。確かサガは先程『急ぎの届け物』と言ってはいなかったか? これでなぜ沙織宛、しかも急ぎのものだとわかったのだろうか。
「別便でアテナが送られましたお手回り品と共に入っていたそうです。日本の辰巳氏に確認しましたところ、アテナのご出発と入れ替わりに届けられたので、お荷物と一緒にお届けしたとのことでした」
 丁寧に説明してくれたところを見れば、辰巳と連絡を取ってくれたのはサガ本人なのだろう。
「そうですか。手間をかけさせましたね、ありがとう」
 礼を述べ、沙織は荷の封を開けにかかった。辰巳が入れたのなら、中身はそう怪しいものではないはずだ。
「ああ、これだったのですね」
 果たして出てきたのは、あのロザリオだった。厳重に梱包材にくるまれている。さらにその下には報告書在中と書かれた大判の封筒も入っていた。察しよくサガがペーパーナイフを差し出してくれる。ありがたく受け取って封を切れば、数ページにわたってなかなかに読みにくい文字が延々と連ねられていた。
「…………」
 何かの記号やら数値やら見たこともないような表などがびっしりと紙面を埋め尽くしている。確かに沙織は知恵の女神でもあるアテナだが、いくらなんでもこれは範疇外だった。
「いかがなさいました? なにか、悪いことでも?」
 真顔で心底心配そうに尋ねてくるサガが少しばかり恨めしい。この書類の意味がさっぱりわからないなどと口に出すのは自尊心が許さない。
「いえ……その……」
 答えに窮したところで、サガの目がロザリオに向けられた。
「これは――ロザリオ? アテナのものなのですか?」
 沙織の窮状を察して、話題を変えてくれたのに違いない。サガのこういう勘の良さはありがたくもあるが苦手でもある。
「いいえ。私のものではありません。それは氷河のものなのです。お母様の形見だそうですよ」
 苦笑しつつ答えれば、サガはああと納得したように頷いた。
「ということは結局、キグナスはアテナに泣きついたというわけですね。在野とはいえ、本職の探偵でも埒が明かなかったとは。キグナスの母親と言うのはそれほど問題のある人物だったと言うことですか……」
 沙織は目をしばたたかせる。随分と詳しく経緯を知っているらしいことに驚きを隠せなかった。
「どうしてサガがそんなことを知っているの?」
 沙織の驚愕に、サガは一言で答えた。
「教皇補佐足る者、聖域にかかわる人間の動向はある程度は把握しておりませんと」
「そ……そうですか……」
 このぶんでは聖闘士だけでなく、沙織の動向とやらも把握されているに違いない。恐るべき情報網である。あまり変なことはしないようにしよう――したくてもできないだろうが――と沙織は心に固く誓う。だがふと見上げたサガの顔つきがなんだか妙だった。
「……サガ?」
「冗談です、アテナ。カミュから聞いたのですよ。キグナスの氷河が探偵に弟子入りしてまで母親の身元を探っていると」
 あの真面目なサガが冗談? それこそ悪い冗談でも聞いたような気がした。訝しみつつ再度見上げれば、胡散臭いほど爽やかな笑顔が目に入る。だがよくよく見れば、どことなくいたずらの成功に喜んでいる子供のような表情にも見えて、それで本当に冗談だったのだと信用できた。沙織も釣られて苦笑する。
「まあ。驚かさないで下さい」
「申し訳ございません。ですが、あまりにも浮かない顔をされていらっしゃいましたのでお心を和らげてみようと愚考したのですが」
 やはりサガは妙なところに気が利く。仕方なく沙織は降参した。
「知っての通り、このロザリオにまつわる事情を調べているのです。でもそちらはなかなか難しそうで。そこでまずはこのロザリオの材質を調べるところから着手しようと考えて、氷河に依頼されてすぐに財団の研究部署に依頼しました。そしてこの報告書が来たのですが、さすがに意味がわからなくて困ってしまったの」
 隠すように見ていた報告書をおずおずと差し出す。丁重な手つきで受け取ったそれを一瞥して、サガも沙織の言に納得したのだろう。眉根を寄せ、小さく唸った。
「成る程。これでは確かに……」
「ねえサガ。誰かこの意味がわかる人材に心当たりはないかしら? できればあまり財団内部ではオープンにしたくない話なのです。もしも打ってつけの人がいるのなら、お願いしたいのだけれど」
 つい懇願口調になってしまったせいだろう。サガが少しばかり驚いたように確認してきた。
「ですがアテナ。キグナスの母親のことなのでしょう? 聖闘士であるキグナスにしてみれば、聖域でもあまり知られたくない話題なのでは?」
 確かにそういう側面はあるかもしれない。だが沙織は要求を翻さなかった。
「言い方が悪かったようですね。今のところ、まだ実情はわからないのではっきりとは言えないのですが、どうやら日本とロシア――いえ、旧ソ連と言うべきでしょうか――の国家間の問題が少なからず介在しているようなのです。ですから知られたくないというより、漏れることを恐れています。実際に先日、氷河が出入りしていた探偵事務所が襲われています。幸いにもそちらは氷河の機転と財団の力で事なきとすることができましたが、次があればただでは済まないでしょう。その点、聖域(ここ)なら襲撃を受ける可能性は低いでしょうし、万一そうなってもなんとかなるでしょう? それに諜報方もいるのなら、情報漏洩の危険性に関しても信頼できます。もう普通の人たちを巻き込みたくはないのです。先日も、もう少しで人命に関わる惨事になる寸前だったそうですし」
 話が進むうちに、サガの眉間の皺が次第に深くなっていった。沙織が言葉を切ったところですぐさま、アテナ、と溜息混じりの声が上がる。
「人命がかかってくるとは、思っていたよりも大ごとではありませんか。国家間の問題などと、そんな大仰なものを未成年のキグナスやアテナだけでどうにかしようとお考えになっていたとおっしゃるのなら、恐れながら苦言を呈させていただきたい。――あまりにも無謀です。なぜもっと早くに事案を我らに下げていただけなかったのですか」
 それなりに言葉を選んでいるようだが、サガにしては厳しい物言いだ。他の者に対しては概ねこの調子であることは知っていたが、沙織にはあまり強い態度はとらないのが常だったのだ。
「いえ……別に私達だけでどうこうだなんて……。それに氷河も私も、まさかこんな大ごとになるなんて思っていなかったのです。それに聖域にも聖戦にも関係のないことです。いくら私がアテナだからと言ってもあまりにも個人的なことなら、簡単に頼めるわけがないでしょう……?」
 少しばかり険しいまなざしにたじろいで、つい言い訳めいたことを口走ってしまった。だがサガは聞く耳を持たなかったようだ。渡してしまった報告書はもう、沙織の手元に戻ってくることはなかった。
「この案件、早速こちらで引き取らせていただきます。よろしいですね?」
 本人にその自覚はないのだろうが、威圧感たっぷりにそう言われて沙織は反射的に頷いてしまう。他人にこんなに強くなにかを言われることには慣れていない。
「ええ……お願いします……」
 しょんぼりと肩を落とす。改めて依頼したところで、唐突にノックの音が響いた。
「誰か?」
 サガが応答したが、扉の向こうから感じられる小宇宙は聖闘士のものではない。果たして女の声が名乗った。
です。シオン様に所用があって参りました」
 サガが沙織を振り返る。今はこの部屋の主であるアテナにどうするか聞いていた。沙織はうなずき、サガに変わって声を上げた。
「どうぞお入りなさい」
 扉の向こうで気配が揺らいだのがわかった。どうやら驚いているらしい。無理もない。
 今朝沙織が聖域にやってきたときには、 のモビルスーツはなかった。すなわち不在だった。そして旅の疲れを癒したかった沙織の願いで、まだアテナ帰還の触れは出されていないのだ。知らなくて当然だ。
 サガがドアを開けに行く。開かれた隙間から姿を現した はやはり、沙織の姿を確認すると少しばかり目を見張った。すぐに頭を下げる。
「女神様。お久しぶりです。戻られていたとは知らず、ご挨拶申し上げずに失礼致しました」
「気になさらないで。まだ帰還を皆には知らせていないの。――お元気そうですね。良かったわ」
「ありがとうございます」
 言葉少なに受け答え、 は沙織の方へと歩み寄ってきた。正確には、シオンの執務机に。
 サガが声をかける。
「教皇に用が? 今、急用でジャミールまで出向かれていらっしゃる。いつお戻りになるかわからんので、良ければ私が代わりに受けるが」
「ありがとうございます。ではこれをお渡し願えますか? 貸して頂いていた書物をお返しに上がったのです」
 古びた羊皮紙で装丁された本を数冊持ち上げてみせ、 ははにかんだように笑った。
「なかなか読み進められなくて、お返しするのにすっかり時間がかかってしまいました」
「わかった。伝えておこう」
 軽く請け負い、手渡された本を受け取った途端、サガが驚く。
「ギリシャ古典ではないか。読めるのか? ギリシャ語はできなかったはずではないのか?」
「古典でしたら、教養といわれて幼い頃から勉強させられましたから。でもやっぱり難しかったです。内容は面白かったですが」
 沙織が座っているシオンの執務机の片隅に、サガは受け取った本を置いた。興味を引かれてちらりと表紙に目をやって、沙織もまた驚く。古典と言っても神話ではなかった。哲学書ですらない。希少金属が云々というタイトルの、どうやらかなり昔にシオンによって纏められたとおぼしき手書きの本だった。面白そうには到底思えないのだが、まあ、人の好みは人の数だけあるということだ。
 サガもまた何か思うところがあったのだろう。では、と軽く会釈をして引き返しかけた を呼び止めた。
は日本語が話せるとカノンから聞いているのだが、読み書きもできるのか?」
「はい」
 唐突な問いを訝しみはしただろうが、足を止めて は遅滞なくはっきりと答える。それを受けて、一瞬だがサガの口角が上がったのを沙織は目撃してしまった。制止する間もなく、サガは先ほど沙織から取り上げた件(くだん)の報告書を に差し出した。
「これは?」
 さすがに戸惑ったように首を傾げた の手にサガは書類をつかませる。今度は にすら口を挟む隙を与えず、性急に説明を始めた。
「少しばかりいわくのあるロザリオを調査しているのだ。それはたった今受け取ったばかりの、そのロザリオの材質に関する報告書なのだが、ちょっと見てはもらえないだろうか? 日本語で書いてあるので、私にはさっぱり意味がわからなくてな。――このような本を読むからには、そういったことには詳しいのだろう?」
 訊かれて はつかまされた書類に目をやる。困ったように小さく溜息をついた。
「詳しいというほど専門ではありません。……ですが、見るだけでしたら」
 消極的な了承の言葉に、サガは穏やかな笑みを浮かべて頷く。無言で椅子を勧めた。


 ***


 紙をめくる音が静かな室内をかき乱す。
 聖域があるべき姿に戻った後、いつからかこの教皇専用の執務室には来客用の椅子が常設されるようになっていた。今はそこで が時折首をかしげたり眉を顰めたりしながら届いたばかりの報告書と格闘している。どうやらよくわからない文言や専門用語が多くて苦戦しているらしい。
 だがその静かな奮闘は突如終わりを告げた。
「どうしてこんなものが……!」
 驚愕の声が椅子を蹴る音と同時に響き渡って、沙織とサガまで驚かせる。
さん?」
「どうしたというのだ、 ?」
 同時に発された二人の質問に は答えなかった。ひどく険しい表情を浮かべている。逆に尋ね返してきた。
「この報告書は、そのロザリオのものなのですね?」
 押し殺した声がかえって の動揺を表している。机上に置かれたままの十字架に注がれる視線に隠しようのない警戒が宿っていた。
「ああ。これのことだが……なにか?」
 無言の剣幕に押されてサガが答えれば、 の目つきがいっそう鋭くなった。
「それはどこで、いつ、手に入れられたものなのですか?」
「それは……」
 重ねられた質問に、サガは早々に口ごもってしまった。沙織はちらりとサガを見上げる。既に聖域への依頼として受け取った懸案である以上、答えるのは自分でなければならないとサガは考えているようだが、沙織が話していないのだから答えようがあるわけがない。
  は黙ってサガの返答を待っている。答えなければこちらの問いにも答えてはもらえまい。ひとつ溜息をつき、沙織はかわりに事情を明かす。
「――8年ほど前にソビエト連邦という国から持ち出されたものです。なにか重要な情報が入っていたらしいのですが、それがなんだったのか、今となってはそれを知る術がほとんどないに等しいのです」
 サガが申し訳なさそうに肩をすくめて沙織を振り返った。だがそんな珍しいサガの様子に目を留めることもなく、そうでしょうねと は相槌を打っただけだった。視線を書類に戻す。
「分解図によると、十字の交差する部分からその下へ向けて空洞がありますね。しかも複雑な機構でなかなか開けられないようになっています。そこになんらかの機密情報の入った記録媒体を入れて運搬されたのでしょう。――ですが、問題はそこではありません」
  が何に驚いたのか。これでは全くわからない。揃って首を傾げた沙織とサガは同時に聞き返した。
「「というと?」」
 珍しいユニゾンだったのだが、これにも がに反応することはなかった。難しい顔を崩さぬまま、口早に結論を告げる。
「これは無重力下でしか生成することができないチタニウムの合金です」
「無重力? ということは、宇宙空間ということか。――用途は?」
 言わんとすることをいち早く察したサガが追求する。 は一瞬ためらい、それでも結局はっきりと答えた。
「主にモビルスーツの装甲材として使用されます」
「確かなのか?」
 驚きのあまり声を失った沙織の代理をするかのようにサガが確認する。 はもう一度書類に目を落とし、頷いた。
「間違いありません。ほぼ同じ合金状態図なら、以前に見たことがあります。それに補足として載せられている記述も、それを裏付けるに足ります。比重の違いすぎる物質同士がかなり均一な状態になっている。どのようにこの物質が生成されたのかは不明である――と、要約すればそういったことが書かれているようです」
 書類を元通りに纏め、 はそれを沙織の目の前に「お返しします」と差し出す。ついでロザリオを指差した。
「手にとって見てみてもよろしいですか?」
「構いません」
 許可を得て、 はロザリオを取り上げる。ためつすがめつ眺め回すことしばし、ふとなにかに気付いたようだった。
「ソビエト連邦というのは……もう存在しない国では? 確か今は――」
 カノンから得た知識はあるようだが、とっさに思い出すのは困難なようだ。サガが助け舟を出す。
「ロシア共和国を初めとした12の国に解体された。事実上の後継国はロシアということになるのだろうな」
「ロシア……」
 つぶやいて、 は首を傾げた。机の上においてある地球儀に目をやる。くるりと回して広大なロシアの領土に指を置いた。難しい顔をしている。それきり黙りこんでしまった。
「ロシアが、どうかしましたか?」
 沙織が促しても、少しの間 は口を閉ざしたままだった。考えを整理しているのかもしれない。だが結局まとまらなかったようだ。ポツリポツリと話し始めた。
「《こちら》に来てからずっと、世界中に散らばる敵組織の拠点を調べては制圧することを繰り返してきました。でもこれだけ広大な領土を持っているにもかかわらず、ロシアにはまだ行ったことがないのです。おかしいと思っていました。そしてこのロザリオはそのロシアから持ち出されたものだといいます。――これは、どういうことなのかしら、と……」
 言いながら、また首を傾げてしまう。サガがそんな の肩を叩いた。
「それがなぜなのか、調べてみる気はないか?」
「サガ?」
 その意図に気付いて、沙織は渋い顔をする。それは先程、聖域でどうにかしてもらえないかとサガに頼んだことではないか。一般人はあまり巻き込みたくはないと言っておいたはずだ。勿論 は一般人とは言いがたいが、それでも沙織は『聖域』に頼んだのだ。まさか初っ端から丸投げされるとは。
 しかし沙織の思いに反して、 はあっさりと頷いてしまった。
「勿論、調べるつもりです」
 きっぱりと言い切り、沙織に向かって頭を下げる。
「疑問解決への糸口をご提示いただきましてありがとうございます」
「いえ……そんなつもりでは……」
 氷河が探偵事務所で調べていた時とは違った意味で、なんだかおかしなことになってしまった。だが沙織の困惑をよそに、 は淡々と話を進めようとする。
「これがロシアから持ち出された経緯など、ご存知でしたら教えていただきたいのですが」
「それは構いませんけど……」
「ありがとうございます。では早速お願いします」
 手帳代わりとおぼしき携帯端末を取り出した を止めることはもう無理のような気がした。諦めの溜息をつき、沙織は と向き合うことにする。
 ここまでくればもう、なるようになるだろう。


Northern Cross 09 / To Be Continued



これまで名前変換なしで、ほぼ純粋な氷河小話だったにもかかわらず、唐突に長編ヒロインを持ってきてしまいました。
名前変換が目的でいらしてくださっていたお客様には、大変お待たせいたしました。
対して、名前変換をお望みでなかったお客様には申し訳ありません。
一応、名前変換モノがメインのサイトですので、こういうこともあります。

いきなりこうした展開を持ってきたということで、ここが物語の起承転結のうちの『転』となります。
『結』は次回。『転・結』はこれまでの展開に比べてえらく短いですw さくっといきます。
というわけで残りあと二話。

残り二話で、次回が『結』なら最後は……?
ここまできたら最後までよろしくお付き合いいただければ幸いです。

2010/10/13


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