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Side-S:短編05 May God bless...


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星さえも、凍てつくような夜だった。
吐く息はすぐに空気中で凍りつき、降り注ぐ月光に白く溶ける。

冷たく降り注ぐ月明かりが、かつてそこにあった町の残骸を無常に照らしていた。
何一つ動くもののない瓦礫の中、ただひとつ形をとどめている聖堂が嫌が応にも目につく。
足を向けたのは、別にそこが目立っていたからではない。
遠目にもわかる、白く光を反射するステンドグラスが美しかったからでもない。

呼びに行ったのだ。
何も言わずに入って行ってしまったきり、一向に出てくる気配のない彼女を。

入り口に扉はない。
大きな蝶番が無残に引きちぎられて、煤けていた。
そこに手を掛け、呼ぶ。



答えはない。予想済みだ。だから別に、腹立ちもしない。
ただひとつ、盛大な溜息をついてやった。
これ見よがしに大きく白く育った呼気は、暗い聖堂に吸い込まれて消える。
一緒に中に入った。ことさらに足音を立てて。

気付かないはずもないだろうに、後姿はぴくりとも動かない。
崩れた天井から、白い白い月光が照らしていた。
膝を突き、うなだれて動かない の後ろに立つ。

「何を祈る? ――それとも懺悔か?」

暗い壁に、月明かりを受けてぼんやりと浮かぶ聖像画(イコン)はやはり煤けていて、その様には少なからず心が痛む。
うつむいたままの後ろ頭に言ってやった。

「祈りを捧げるのなら、立ってやれ。それがここの流儀だ」

ようやく顔を上げたと思ったら、含めた揶揄に反応したわけではないと、返ってきた言葉でわかった。
「カノンの信仰はこの神にあるわけではないんでしょう? ……別にこだわらなくても……」

「昔は」
怪訝な眼差しを振り切って、イコンを見つめる。こんなものを懐かしく思うなど、なにやら滑稽な気がした。
「よく来ていた」

「……教会に? カノンが?」
いくらなんでも失礼な聞き返し方に、少しばかりカチンと来た。しかし、反論の余地がないのもまた事実。
「本当に昔の話しだ。聖闘士のこともアテナのことも、何も知らなかったころのことだ。――こんな教会に、よく来ていた」
立ち上がった がイコンに目をやり、微かに首を傾げる。ゆっくりと振り返り、尋ねてきた。

「そして、何を祈っていたの?」

俺は答えなかった。答えられなかったわけではない。
先に質問していたのは、俺なのだ。答えをまだ聞いていない。順序で言うなら、そっちが先だ。

「――お前は?」

聞き返した。
は少しの間、逡巡するように青い瞳を冷たい空気の中に彷徨わせ、やがて観念したかのように天井を仰いだ。
崩れ落ち、白く冷たい月明かりを振りまく天井。
つられて見上げればぽっかりと開いた穴の向こうで、相変わらず氷の欠片のような星が瞬いている。

「知ってる?」

ひそやかな声に目を戻せば、 が俺を見上げていた。
ついで聞こえた言葉は、意外なものだった。

「今日は、クリスマス・イブなの」

の口から、まさかそんな言葉が出てこようとは。
そういった世俗的なことは当然知ってはいても、まるで関心がないのだろうと高を括っていたのだ。
しかもそう言った の表情は、聖誕祭の到来を喜ぶものとはかけ離れていた。
なんとも奇妙な感じだ。
その上、いつもは律儀に受け答えをする が、俺の質問に答えてもいないのだ。
だから、あえて相槌も打たずに次の言葉を待った。

「昔、大きな戦いに、決着がついた日よ」

ああ。そういうことか。

得心がいった。
から受け取った記憶の中でもかなり大きなウエイトを占めている、戦争の記録だ。
彼女自身が体験したことではない。
それでも、世界にとってはとてつもなく大きな意味を持った戦い。
そしてそれに終止符を打った人間が 自身にも縁の深い人物ともなればなおのこと、その意義は深いのだろう。

そんなことをつらつらと考えるうちに、 は俺から視線を外してまた天井の隙間から星を見上げた。目を閉じ、そしてまた開く。
降り注ぐ月光に、吐いた息が凍ってきらきらと輝き、そしてすぐに消える。

「……沢山の人が、亡くなった日」
囁くような声も、光の届かない聖堂の奥に吸い込まれて消えていった。

戦争だったのだから、それは当たり前だろう。
そう言おうとした矢先、先手を取られた。

「そして、その戦争を起こした人物も、この日に命を落としたわ」

そう言って、 はじっと俺を見つめた。
物言いたげな瞳。
だがそこに宿る光には、糾弾も哀れみもない。ただ、縋るように俺を見上げる。
その青い瞳に映る俺は、苦みばしった顔をして――何かを必死でこらえているように見えた。
……なんて情けない。

「すべての罪を自ら作って、それらすべてを背負って、死んでいった」

ああ、知っているさ。
ぽつりぽつりと紡がれる の言葉は、細い針のように俺を確実に突き刺していく。

悟った。
俺は、途轍もなく深い藪をつついてしまったのだ。過去という名の。
そして出てきたのは蛇どころか、ドラゴン――海龍(シードラゴン)だった。

が語る、この聖なる夜に命を落とした大罪人は、確信犯だったのだ。
この世の悪を自ら行い、見せ付けて、それが如何に愚かであるかを示して見せた。
もう誰も二度とそんな事態を起こす気にならないように、あまりにも多くの命を使ってデモンストレーションを行った。
崇高な目的を達成するための、血生臭すぎる手段。
人類すべてに自覚をもたらすための、それは粛清ではなかったか。

かつて”シードラゴン”が行った”神をも欺く大罪”。
その先にシードラゴン――俺が見ていたのは、粛清された地上。そして、正された人類。
似ているように思う。究極的な目的は、多分同じものだったのだ。
だが、しかし。

「彼は、自らの重すぎる罪を理解し、誰よりもその重さを自覚していたそうよ。その証として、戦いで死んでいった人の人数と名前を記憶していた」

とうとうと は続ける。

「そして、最後に彼が10万と10人目の戦死者となって、戦いは終わった」

俺は、違う。
俺は……自分が行ったあの愚挙の結果、一体どのくらいの人間が死んだかなんて、ちっとも知らない。
ましてや彼らの名前など、気にしたことすらなかった。
しかし俺と、そいつとの大きな違いは、多分そんなことではないのだろう。
だからそいつは死に、俺は生き延びた。
世の中ってのは、そんなものだ。

「だからね。祈っていたのでもないし、懺悔していたわけでもないの」

唐突な の言葉に、現実に引き戻された。わけがわからない。
思いがそのまま顔に出てしまっていたのだろう。
が苦笑する。冷たい空気の中で、あまりにも暖かく。

「誰かがそんなことをしてまで守った世界に生まれた私が、まだ戦っているの。――だからせめて、私は誓うわ」

崩れた天井。煤けたイコン。
戦いの痕に、 はひたと目を向ける。

「私も、忘れない」

自分の罪も、そしてそれを犯した理由も。
すべてを受け入れて、それでもまだ生きていくのなら。

「……やはり、祈っていたんじゃないか?」

何もかも背負って、生き続けていくことのできる強さを乞い願う。
それは、途轍もなく一途な祈りだ。
俺もイコンの正面に立った。

「――カノン?」
あっけにとられたように俺を見上げる を尻目に、胸に手を当てる。
「奉じる女神に贖罪はした。しかし俺なんかが祈るのは、さすがに気が引ける」

零下の大気の中で身体は冷え切っていたが、なぜか胸のうちにはぬくもりがある。
そうだ。
こんなふうに、祈っていたのだ。昔。

何をおいても、生き抜いて、守りたいものがある。
そのための強さを求めることはすなわち、守りたいものすべてに幸あれと願うことだ。

「俺も祈ろう。 と共に。――昔、幼い頃に祈りを捧げていたように」
「……いいの?」
躊躇いがちに尋ねてくる に、笑ってやった。
「かまわんさ。今日は聖夜なんだろう? 今は異教徒だが、かつては信者だった。こっちの神も、今日くらいは大目に見てくれるだろう」

Hallelujah!

 

旧サイトにて、やはりクリスマス用小話として用意したものの再掲です。
折角なので手直ししようとも思ったのですが、できるだけ簡潔にというコンセプトを思い出しつつ読みなおしてみたら、手の入れようがありませんでした\(^o^)/
本編の時系列を全く無視してクリスマスイブというシチュエーションを捏造したために、本編に沿っていながらも時期的には絶対にありえない、セルフ二次とでもいうべき内容となっています。
クリスマスな雰囲気だけでも感じていただければ幸いです。
タイトル『May God bless...』の最後にどういう言葉が入るのかは、読まれた方のご想像にお任せします。

ちなみに作成中の仮題は『戦場のメリークリスマス』でしたw

2010/12/22


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