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Side-S:14章 Burst into flames 12


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 聖域の最奥。アテナ神殿前の最後の砦・教皇宮の一室。
 錚々たる顔ぶれが揃っていた。
 その表現だけでは物足りないかもしれない。なにしろ、恐らく初めてだったのだ。大げさでもなんでもなく、本当に開闢以来初の出来事だろう。
 アテナの聖域、ポセイドンの海界から、最上の位を持つ者がすべて一堂に会するなどと。
 聖戦の折りであっても、こうはならない。むしろどちらかの誰かが必ず欠ける。まともに勢揃いして顔を合わせることができるのは、現在、両者が敵対していないからこそなのだ。
 ――平和というのは、こういうことなのだ。
 口にこそ出さないが、誰もが感じていた。
 一度は敵対し、別々の戦いの中ではあったが、それぞれ散った。それなのに今は、拳ではなく顔を合わせている。そして共に戦うためにここにいる。
 ――口には出さなくとも、誰もが感じている。
 まるで予定調和であったかのようにまるで違和感のない、この静謐なまでの安寧。その有り難さを。

 だが世界は、やはり平穏とはほど遠い。
 だから彼らは今日、こうしてここに集った。
「急なお呼び立てに、早急に応じて下さってありがとうございます」
 この世界に新たな混乱を招き入れた、元凶の世界からの来訪者が告げる。二界の戦士達の目が、一斉に彼女へと向かう。
「海界の方には、初めてお目にかかる方もいらっしゃいます。――私が、 ・ユイです。初めまして。そして、私がご協力をお願いしている件について多大なご尽力をいただいておりますことを、お集まりいただいた皆様にこの場を借りて改めてお礼申し上げます。……大変なご面倒をおかけしていることへのお詫びも併せて申し上げたく存じます」
 一同の前に出て深々と頭を下げるその女性は、それでもこの事態を引き起こした張本人ではない。咎める言葉も、そうした視線ですら向ける者はこの場にはいない。
 彼女―― ・ユイは、つまりはコンダクターのようなものなのだ。
 この日、初めて彼女を目にした海魔女(セイレーン)の海将軍・ソレントはそんな感想を抱いている。
 演奏されるしかない楽曲を、ただ淡々と、少しでもより良くするためにタクトを振るう。
 演目はすでに決まっていて、それがどのような選曲であるか――たとえば穏やかで安らぎに満ちたものであるか、はたまた刺激に満ち溢れた攻撃的なそれであるか――は、コンダクターには関係がない。
 ただ、指揮次第でそのコンサートの行方は変わる。それだけは確かだ。
 そして、そのコンダクターとともに楽曲を演奏するのは、他でもない自分たちなのだ。よって、自分たち如何でもまた、コンサートの結果は左右される。
 彼自身が今生では戦士である前に音楽家であるからそのようなたとえしか浮かばないのだが、あながち的外れでもないだろうとソレントは自負している。
 だからこそ、コンダクターとの緊密な意思疎通は重要だ。そう思うから、聖域からこの会合についての打診を受けたときに二つ返事で承諾したのだ。
 長く筆頭と目されてきた海龍(シードラゴン)が不在の今、海皇の信頼も篤く事実上の筆頭となっている彼が下した決定は誰にも覆すことができない。その影響力がこの会合を実現させている。神妙な面持ちで件(くだん)の ・ユイの隣にいる元・海龍はそれをわかっているようだった。
 一同が集まりきる前に、カノンはいち早くソレントに声をかけてきたのだ。


『皆に声をかけてくれたのはお前か、セイレーン。礼を言う』
『海界としてどう対処するのが良いか、ただ考えただけのこと。聖域の代表者でも、ましてや最早我らの筆頭でもないあなたにわざわざ礼を言われるようなことではない』
 裏切り者であった過去の彼を、ソレントはいまだ許してはいない。そればかりではなく、現状において唯一、シードラゴン足りうるはずのカノンが前非を悔いた挙句に留まった先が聖域であり、聖闘士という位置を選んだことが、ソレントにはどうしても許せないのだ。
 あからさまに皮肉の混じった受け答えに、怒るでもなくカノンは静かに首を振った。
『――いや。今の俺は ・ユイの協力者という立場でものを言っている。恥を承知で言うが、お前たち海闘士の助力がなければ、かなり厳しい状況なのだ。聖域からの共闘の依頼を受けてくれたことには本当に感謝している。今日も、こんなに急に招聘を申し出たのにはそれなりの理由がある。それに応えてくれたことが素直にありがたいと思う。だから礼を言ったまでのこと。他意はない』
『…………』
 動じないばかりか、そのあまりにも毅然とした態度にソレントは言葉を失った。
 ――やはり、筆頭として彼らの上に立っていただけのことはある。
 悔しいが、そう認めざるを得なかった。ただの私欲で陰謀をめぐらせるだけの小物では、どう謀ろうともあれほど人心を掌握することなどできなかっただろう。
 海界は惜しい人物を失った。ソレントはやはり腹立たしさを感じずにはいられない。
 なぜ彼は聖闘士などであったのか。なぜ彼は裏切り者となったのか。なぜ彼は彼らの元から去っていってしまったのか。――なぜ。
 だがどんなに嘆いても、昔と同じ立場にカノンは戻れはしないのだろうし、海闘士たちもまた受け入れることなどできないだろう。それがどうにも悔しかった。
からかなり難しい話が出ると思う。できれば――できる限り、聞き入れてやってほしい』
 わざわざ事前の根回しに来たのか。カノンの言葉にソレントはわずかに眉をひそめた。それほどまでカノンが肩入れしている、その という人物にかすかな羨望を覚える。
『話を聞いてみないことには、なんとも答えようがない』
 けんもほろろに返してみたが、やはりカノンは気を悪くする様子もなかった。
『まあ、そうだろうな』
 それだけ言って、背を向けてしまったのだ。だからソレントはその背に向かって言ってやった。
『できることならばできる限り協力する。そのつもりで今日もここまで来た。わざわざ念を押さねばならないほど、あなたは我々を信用していないのか?』
 カノンは立ち止まる。しかし振り返りもしなかったので、どんな顔でそれを言ったのか、ソレントにはまったく想像がつかなかった。
『そういうつもりではない。気を悪くしたのならすまなかった。――聞いてやってほしいと思ったのだ。お前たちが拒否しても、 は別に怒りはしないだろう。できるかどうかも怪しい代案を考え、実行するだけだ。俺は、万が一にもそうなるのが嫌なんだ。お前たちがどうとか、そういうことではなく、ただ――』
 成る程。そういうことか。
 ひたむきに言い募るのを真面目に聞いているうちに、なんだかソレントは馬鹿らしくなってしまった。
『余程入れ込んでいるのだな、その という女性に。あなたほどの戦士が……意外だったな』
 揶揄たっぷりに言ってやれば、ようやくカノンは振り返った。
『……そんな風に見えるか?』
 苦虫を噛み潰したかのような表情に、ソレントは溜飲が下がった気がした。
『見える』
 なぜだか、あれほど感じていたわだかまりがわずかながらも薄れたように感じられた。不思議だった。
 ソレントはふっと苦笑をもらす。
『あなたも、ただの人間だったのだな……』
 思わずこぼれた言葉に、自分で納得してしまった。そうだ。とても優れた何か別の存在のように感じていたから、あれほど諦め切れなかったのだ。だが、ただの一人の人間であれば仕方ないと思えるような気がする。
『本当に話を聞いてみなければなんとも答えようがないが、悪いようにはしないだろう。協定もあるし、なによりもはやこの件、異世界だけの話ではなくこの世界の行く末もかかっているのだから』
 真顔で聞いていたカノンは、やがて強い調子の笑みを浮かべた。
『やはり、先に礼は言っておくべきだな』
 そしてソレントは、自らの耳を疑うほどに衝撃的な言葉を聞いた。
 ――感謝する、と。


 そんなやりとりを反芻しているうちに、 ・ユイは本題に入っていた。
「端的に申し上げます。――敵勢力が、あなたがたの介入に気づいた模様です。対抗策と思われる作戦の情報が恐らくは故意に流されています。この件についてお話ししたく、今日皆様にお集まりいただいた次第です」
 言葉が終わると同時に、照明を落とした薄暗い広間の壁に光が点った。暗い壁に紛れて電源が入っていない状態ではわかりにくかったが、巨大な薄型のディスプレイが壁に貼り付けられるように設置されていた。
 また の傍らには、あからさまに神殿然としたこの場にはあまりにもそぐわないスチールの作業台が数基設営されていて、その上や周囲はPCやその周辺機器で固められている。床にはどこから引かれているのか定かではない電源や通信用のケーブルが何本も長く這っていた。
 ――余談ではあるが、これらの機材はアテナこと城戸沙織が提供している。
 まるでブリーフィングルームの様相を呈した教皇宮の一室で、現代戦の兵士ではなく神話の時代からの伝統を受け継ぐ戦士達が実に自然にディスプレイを見つめている。
 そんな様子を、同席しているシオンと童虎は感慨深げに見つめていた。こっそりと耳打ちしたのは童虎からだった。
(こうして見ると、やはり奴らも現代っ子なのだな……。ここにあんな機械が置かれていることに違和感は感じたようだが、機械自体にはなにも感じてはおらんようだ。わしはあれだけで驚いておるのだが……本当に良いのか?)
(アテナがあれらを聖域に持ち込むばかりか、ここに置くとおっしゃったのだ。アテナご自身がそうおっしゃる以上、反対もできなかった。――だがな、使ってみると確かに便利なのだ。まあ、よく考えてみれば忌避する理由もない。別に穢れておるわけでもないしな。……時代の流れには逆らえんということだな……)
 遠い目でぼそぼそとつぶやく二人を置いて、 の説明は続いている。
「この地図に表示された2つのルートをご覧ください。複数の情報が攪乱のために流されているようですが、精査すればこの2ルートに絞る以外にないよう、うまく情報操作してあるようです。つまり私たちをおびき出す目的の罠であろうと断定してもいいわけですが、同時にこれらを使って、大々的な兵力輸送計画が実行されるのもまた本当のようです」
「輸送計画と、我々に対する罠と、どう関係があるのだ?」
「というか、罠なのか大がかりな兵器の輸送なのか、結局はどちらなんだ?」
 まず聖闘士側から、ついで海界側から質問の声が上がったが、示された地図を凝視していたソレントには、その答えがわかってしまった。 が答える前に、口を開いた。
「二本立ての作戦ということだな。ルートを見る限り、確かにそう考えるのが自然だ。紛争が絶えない場所など国際社会において扱いが難しく、国連軍が介入しにくい地点をうまく結んである。これまでもそうだったが、そういう場所を我々は重点的に攻撃してきた。本当に輸送を行うならばそのルートは最適だろうし、また我々を標的にしているというなら、まさに誘っているとしか言えないルートだろう――内陸と、海岸部と。我々の構成を知悉しているのだといわんばかりの場所をこれでもかと選んで。……ずいぶんと甘く見られたものだ」
 腕を組んで地図を見上げながら、ソレントは淡々と指摘する。表示された地図には地形の状態も表示されている。そこから読み取れる事柄は多い。
「その上、あらかじめルートを示して、待ち伏せを臭わせる。そしてその場所の推定は実に簡単だ。そんな襲撃地点に一体何の意味がある? ――あからさますぎる。むしろその裏を読むべきなのではないか? 本当の目的は、また別にあると」
 最後の言葉は だけに向けたものだ。 もソレントを注視して、その言葉に黙って耳を傾けていた。目が合う。
 ずいぶんきっぱりとした瞳だと思った。かつてのシードラゴン――カノンがそうだったような、どこか暗さの籠もったまなざしではない。何か突き放したような――突き抜けたような、そんな印象をソレントは受けた。
 覚悟を決めている。それがどんな種類のものかはわからないが、何かを決めてしまった目だった。
「それも十分考えましたが、それは恐らくないだろうという結論に達しました。――詳細を説明しますか?」
「私が指摘した点については勿論承知していて、吟味した上での結論ということかな」
「はい」
 視線を合わせたまま、ソレントと はしばらくそのまま動かない。
 張り詰めた奇妙な緊張感に、まともな説明もまだされていないためにうまく事態を飲み込めていない面々が顔を見合わせ始めた。
 勿論ソレントと同じように地図を検分し、提供されている情報とすりあわせて、二人のやりとりの意味を納得する者もいる。聖域側で、司会のような役を任されたサガもそのうちの一人だった。
 ざわめき始めた場を治めるべく、声を上げた。
「敵側の兵力輸送とは、すなわちロールアウトした兵器の輸送ということだな。資料に因れば護衛部隊もつかない。つまり、護衛が必要ないということだ。その意味するところはひとつ。この作戦の真意は輸送などではなく、敵勢力の大がかりな戦線展開と解釈するのが正しい。このルートのどこか――セイレーン殿のおっしゃるところの『簡単に推定できる地点』に布陣するから、止めたければ来いという我々へ向けられた宣戦布告に他ならない」
 わざとなのか挑発的な言葉を使ったサガの解説を、黙って の傍に控えていたカノンが引き継ぐ。
「来ないのならば、我々が本拠地と認識している北アフリカの施設にそのまま向かうつもりだろうな。そうなれば敵拠点の守りは更に厚くなり、手出しが更に困難になる。……ま、一石二鳥というわけだ」
「現時点においても、敵拠点の防衛戦力は侮れません。これ以上増強されては、本当に手も足も出せなくなってしまいます」
  がようやく説明に戻った。その と先ほどの睨み合いで何かを理解し合ったのか、ソレントが頷きつつ同調する。
「そうなる前に何が何でも奴らを足止めして欲しいと。そういうわけだな。だが――」
 ソレントは再び に視線を向けた。
「我々がこれを阻止する。それはやぶさかではない――勿論、海界としては、だ」
 遠慮とも挑発とも取れる物言いに、聖域側も黙ってはいない。
「勿論、聖域としても黙って見過ごす謂われはないわけですが」
 それまで寡黙に口を噤んでいたムウがソレントを一瞥した。次いで、 に目を向ける。
「私達が彼らの足止めをしている間、あなたがたはどうするつもりなのですか?」
 ソレントが発するはずだった言葉をムウが奪った。少々鼻白んだ雰囲気のソレントを顧みず、わずかに眉をひそめて更に質そうとする。
 だが がわずかに先んじた。

「敵拠点への攻撃を行います」

 その一言は若干早口で発音されただけで、他にはなんの感情も伺わせるものではなかった。
 気負いも、恐れも。高揚も、緊張も。楽観も悲壮も。――なにもない。おおよそ戦いの前に感じるであろうどんな要素も感じさせない。
 それなのに、その言葉はこの場に居合わせた全員に言い知れぬ戦慄を覚えさせた。
 先ほどのサガの言葉を借りれば、宣戦布告。 は、今まさにそれを行った。
 宣告すべき相手がこれを聞くことがない以上、この言葉はそぐわないかもしれない。だが言い回しが変わったところで、意味するところは変わりはしない。
「――最後の戦争を、始めようってか」
 どこかおかしそうにデスマスクがつぶやいた。好戦的な笑みを浮かべて を見る。だがその目は決して笑ってはいない。
「いいねぇ、実にいい。俺達をダシにした、最高の舞台だ。――当然、勝算はあるんだろうな?」
 ほんのわずかな笑いすら含まれていない目をして、口元だけを笑みの形に歪ませている。ひどく面白そうに、とてつもなく不機嫌に、デスマスクは問いかける。
「戦闘とは、どんなに機械化されても、生身同士のぶつかり合いでなくとも、とても有機的なものです。ある程度の事態は予想していますが、問題はそれを上回る何かが起こるかどうかです」
 挑戦的なデスマスクの態度に眉一つ動かすことのない無感動な返答。それでもわずかに伏せられた瞳が、うやむやにされかけた真意の片鱗を表していた。
「始める前から、結果を予測することができない以上、全力を尽くすことしかお約束できません」
 全力、と。 が口にしたところでカノンの顔がしかめられた。それに気づいた人間はわずかだったが、それでもやはり勝率は低いのだと勘ぐらざるを得ない。
「そんなことで、大丈夫なのか?」
「作戦の成否にはすなわち、この世界の今後がかかっている。そんなあやふやなことでは――」
 否定的な意見が次々に飛び出し、室内はにわかに騒然とし始めた。誰もが似たようなことを口走る。
  はしばらく黙ってそれらの意見に耳を傾けていた。
 大方の意見をまとめれば、輸送計画の阻止自体は賛成多数。しかし による敵拠点への単独攻撃は反対というところだ。
 ほとんど誰もが同じ見解である以上、意見はそう時間がかからないうちに出尽くした。少し静かになったところで、 は反論を試みる。
「輸送計画が本物である以上、基本的には敵拠点に現存している戦力は推定以上ではないでしょう。さらに皆さんが善戦して下されば、増援が出されて、拠点の守りが多少なりとも薄くなる可能性もあります。そうならなくとも、よそからの増援が確実にやって来なくなるということは、作戦を遂行する上で大きなメリットです。むしろこの機会を逃せば、敵拠点の陥落はいっそう難しくなるでしょう」
 反論というよりは説得だった。 の中でこれはすでに確定事項で、覆されるようなことはあってはならないのだ。決して。
  の訴えに、ほとんどの者が沈黙した。早々に納得したか、もしくは内容を吟味している最中かの違いはあっても、半数以上はほぼ説き伏せることができた。
 しかし、やはり一筋縄ではいかない者も存在する。
「だが、一人で――いや、カノンもいるから二人か。どちらにしてもそれだけで、最も攻略が難しそうなところにわざわざ乗り込むなんてナンセンスだ。とても正気の沙汰とは思えない。いくらお前らが打たれ強いといっても、ものには限度というものがあるだろう」
 聖闘士の側からはミロが強い調子で苦言を呈した。海闘士側からはクラーケンのアイザックがつぶやくようにミロに同調する。
「まったくだ。少し時間をずらして、輸送の阻止に成功した戦力とともに乗り込むほうが余程現実的ではないかと……思うのだが……」
 ほとんど独り言のようなつもりだったのだろう。自らの発した言葉で意外なほどの衆目を集めてしまったアイザックは目に見えて動揺した。この場の中では最年少である彼は、思わず聖闘士側に立つ己の師へと縋るような目を向けてしまった。
 その視線を受け止めて、カミュは静かにうなずいて見せた。
「私も同じ意見だ。我々が彼らの目を逸らしている最中に隙を突いて乗り込もうというのはわかる。だがやはり――失礼を承知で言わせてもらうが、あまりにも戦力的に心許ないのではないだろうか。アイザックの言うとおり、我々と合流した上で攻撃を行うほうが良いように思える。それほど重大なタイムラグが発生するとも思えん。それとも、それではいけない理由が何かあるのか?」
 冷静な指摘を受けて、 は虚を衝かれた心地がした。
 そんな風に考えたこともなかった。ただそれが当然だと思っていただけなのだ。決着は、自らの手でつけるべきだと。そもそも の任務だったのだからと。
 ――もしかして意地になっているだけなのだろうか? 
 だがそんな一瞬の逡巡はおくびにも出さず、咄嗟に捻り出した理由を告げる。
「陥落のための目標は複数あります。中でもマスドライバーという、宇宙への船体発射装置とそれに付随する施設の完全破壊は必須です。戦闘は地上戦、空中戦が織り交ぜられるのは必至ですし、残弾も今回は惜しむつもりはありません。そうなると、いくら皆さんが驚異的な戦闘力に回避能力を持っていたとしても、生身である以上、その場にいることには相当の危険が伴います。そのような戦場へ同行するのはそれこそ現実的ではないと私には思えます」
 明確な言葉を紡ぐうちに、 の中でそれは詭弁ではなくなっていった。
 そうだ――別に、意地になっているわけではない。強情に我を貫こうとしているわけでは、多分ない。
「つまり、我々がいると思いっきり暴れられないと、そういうわけだな」
 端的に核心を突いた童虎は、言葉とは裏腹の柔らかな視線を に向けた。
「ようやく、躊躇いを捨てたか」
 どうなることかと心配していたのだがなとつぶやく童虎から、 は恥じ入るように目を逸らす。
「……もう、逃げる場所すらありませんから」
 苦笑して、目を上げる。表情を更に引き締めて、 は居並ぶ全員を見渡した。詭弁から真意へ。話しておかなければならないことがまだある。
「ここまで来てこれを言わないのは卑怯だと思いますから白状します。――現時点での私個人の最終目標は、あくまでそのマスドライバーなんです。あれがあると、この世界から私の世界へ無尽蔵に兵器と兵員が送り込まれてしまいます。私は、とりあえずであっても、それを止めなくてはなりません。それが私の任務です。その後のことは、正直、私一人で抱え込めるものではありません。ですから現時点で考慮する必要性も感じません」
 突然の告白はあまりにも勝手な内容だった。非難を覚悟で口にした。 は暫時口を閉ざして、皆の反応を待つ。だが、 を責める者は現れなかった。 にはそれ以上は無理だと、誰もがそもそも見限っているのかもしれなかったし、この世界は彼ら自身が守るべきものだと考えているからかもしれない。
 理由はわからなかったが、 にはこれ以上言える言葉もない。誰からも面責されないことに安堵した。
「私の背後にあるのは、私の世界なんです。だからもう、逃げません」
 これはずっと思っていたことだ。心からの言葉だった。だから目を逸らさず、言えた。
「私は、逃げません」
 本当は、どんなに戦いたくなかったとしても。
 逆を行く。そう決めたのだから。


Burst into flames 12 / To Be Continued


2011/01/12


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