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Side-S:短編1 あかいひかり ―― between the past and future


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 別に変なことを尋ねたつもりはない。
「そんなに夕日が好きなのか?」
 ただそう聞いただけだ。なのに、なぜそんなに不思議そうな顔をする? しかも素直に答えないばかりか、質問まで返してくるのだから理解に苦しむ。
「……どうしてそう思うの?」
 聞いているのは俺だ。なぜ答えなければならんのだ。そう思いながらも律儀に返答する俺は、実は人が良いのだろうか。
「夕方になると、いつも空を見上げているだろう?」
 せめて精一杯眉間にしわを寄せてみた。手本はサガだ。奴にできるのなら、俺にだってできるはずだ。
「カノンは、嫌い?」
 潮風にもてあそばれる髪を押さえながら、 は困ったように笑んでいた。
 彼女がこんなに気弱そうな表情を見せるのは珍しい。サガを上回る渋面でも作ってしまったのだろうか。
「まあ、好きではないな」
 そうだ。好きではない。特にこんなよく晴れた後の真っ赤な夕日は。
 最悪だ。
 しかもなんでサガなんか思い出してしまったのだろう。
 ……最悪だ。
 夕日。サガ。海。
「……そう」
  はまた微かに笑んで、顔を背けてしまった。見つめているのは、海か。あかい、空か。
 髪を押さえていた手を離す。ふわりとなびいた薄い色の髪は、沈み行く光を受けて金糸のようだった。
 さらに眉根が寄るのがわかった。これは意図したわけではない。
 夕暮れの海。向けられる背中。金の輝き。
「――やはり嫌いだ」
 断定に変えた。
  は何も言わなかった。歩き出す。波打ち際に沿って、ゆっくりと。
 離れて行く。
 手を伸ばしかけて、やめた。
 ――離れて行く。
 あのときは、手が届かなかった。
 あらん限りに張り上げた声も、実は届いてなどいなかった。
 どんなに呼んでも、二度と振り返ることのなかった背中。

 でも、今は。
「お前はどうなんだ?」
 ――届く。
 ぴたりと立ち止まり、 は振り返る。
「さあ……どうかしら」
 首を傾げて見せた。
「好きではないけれど――でも、嫌いでもないわ」
 また海を見遣る。兄弟がそれぞれの罪に向かって歩み出したあの日とおそろしく似た、輝く海を。
「痛いことや、怖いことを思い出すから、赤い色は好きではないの」
 顔にかかる髪を押さえようと手を上げる。その白い腕は燃え盛る戦場で、あのときは赤く染まっていた。
 つい数日前のことだが、今では途轍もなく悪い夢を見ただけのような気がしていた。
 忘れたいのか。だから、記憶の隅にそうやって追いやろうとしているのか。
 目を逸らす。赤く彩られた を見ていられなかった。
「でも、夕日の色は懐かしいから、嫌いではないわ」
 さくりと砂が鳴って、 が再び歩き出したのを知る。
 カノンも足を踏み出した。数歩遅れで後を追う。
 懐かしい。それはカノンも同じく思う。
 伸ばした手。届かない声。
 ――そんなとき、世界はいつも、あかかった。
「夕焼けが、懐かしいのか?」
「違うわ」
  はくるりと振り返る。後ろ向きに歩く。
「この、色は」
 逆光になっていて、どんな表情をしているのかはわからなかった。
「火星を思い出させるの。私が生まれた場所よ」
 そう言って空を見上げた。左手を差し伸べる。高く。
 吸い寄せられているのか、何かを掴もうとしているのか。判別はつきかねた。
「……帰りたいか?」
 あんな結果になってもなお、そう望むのだろうか。
 自身を否定されたと、そう考えないのだろうか。
 ――お前はもう、必要ない。そう、切り捨てられたのだと。
「どこに?」
 赤い陽光は空の端から徐々に侵食されていく。潮風に夜の匂いが混じり始めた。
「どこって……火星とか、宇宙とか……もとの世界とか」
 一番口に出したくないことだった。言わされた。そんな気分だ。
 カノンの気を知ってか知らずか、わざわざ立ち止まって は言う。
「さあ……どうかしら」
 さっきと同じ言葉をつぶやいて、 はいまだ足掻くように沈み切らない夕日に背を向ける。空を見上げた。
 その視線の先では、もう夜が始まっている。陽の光に邪魔されず、大気の層から透ける宇宙(そら)。
「帰りたくないと言ったら、それは嘘になるわ。でも、帰りたいかと聞かれても、すぐには頷けそうにもないの」
「それは、お前の世界に対してか?」
 ゆっくりとカノンに視線を戻して、 は微笑む。光の加減の所為か、今にも泣き出しそうな表情に見えた。
「火星以外の、全てに対して」
 それは諦観の溜息のようなつぶやきだった。まるでなにかを拒絶するかのように、まぶたが閉じられる。
「では火星ならいいのか? 帰りたいか?」
 厳密な返答を求めれば、瞳が開かれる。ゆるゆると首を振った。
「火星には、帰れないもの」
「何故だ? 懐かしいのではないのか」
 もう一度言葉を変えて尋ねると、 ももう一度首を振って答える。
「帰れないの――火星(あそこ)はもう、私の知っている場所ではないから」
 意外なことにその声はあまりにもきっぱりとしていた。郷愁を感じさせるものでは全くない。
 それでも は、背後の太陽を振り返るのだ。
「……あかい空だったの」
 潮騒に紛れた声はひそやかだった。
「どこまでも続く赤い砂と、錆びたようなにおい。海にも似てるけど、やっぱり違う」
 黙っていたのは、掛けるべき言葉が見つからなかった所為だ。
 だからただ、眺めた。己の罪を回顧せずにはいられない、かつては自分だけの新天地(フロンティア)だと思っていた海を。
「ヒイロ・ユイはマーズテラフォーミングプロジェクト(火星地球化事業)の初期メンバーだったの」
 その名前に、反射的に顔をしかめてしまった。ヒイロ・ユイ―― に自爆を示唆した、 の父親。思えば の口から直接その名を聞いたのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。
「戦争が終わってしばらくしてから、自分で志願したそうよ。それから十年間、事業に尽力した」
 淡々と、 は話す。彼女がヒイロ・ユイに対してどのような感情を持っているのか、推し量ることはできなかった。
「だから私が知っているのは、開拓途上の火星――もう、どこにもないわ」
 カノンに向けられた背は、ひどく小さく見えた。そこに積み重なった歳月は、カノンが生きてきた年数より十近く少なく見えて、実際はその百倍近いのだ。――数千の歳月と、測ることのできない空間を超えた、それは一種の奇跡だ。
 この奇跡の邂逅は、これからも が過ごす時間の中での、ほんの一瞬にすぎないのだろうか。まるですぐに夕闇に取って代わられてしまう、今の夕映えのように。
「もう二度と、あそこに帰ることはできないの」
  が切なくつぶやくその場所は、カノンの識る世界では全く手付かずの、前人未到の空の先。しかし にとって、そこはすでに新天地ですらない。ただ回顧するだけの、追憶の地。
 だが、カノンにとってはやはりフロンティアなのだ。
 さくりさくりと音を立て、小さな背中が遠ざかる。
 ――あかい光の中、遠ざかる。
 手を、伸ばした。
 もう二度と、あんな思いは嫌だったのだ。今ならできるはずだった。
 今度こそ。
 そして向かう先は、きっとあんなふうに罪を塗り重ねなくてもいい場所だろう。
 行きたいと思った。そんな場所なら、行ってみたい。
 ――手が、届く。
 叫ばなくても良かった。去っていく後姿も、見ずに済んだ。
 今度こそ。
 置いていかれたくない。
「カノン?」
 驚き見上げる視線を受け止めて、掴んだ腕を引き寄せた。
「それでも、行くことはできるのだろう?」
 僅かに見開かれた瞳は、太陽の残滓を照り返してすみれ色だ。暮れ行く空と同じ色。
 綺麗だと思う。
 だから同じ色をした空も、邪魔な記憶を取り払った目で見ればきっと綺麗なものに違いない。その遥か先の宇宙(そら)も。きっと。
 新天地(フロンティア)。行ってみたいと思う。――罪は、もう犯さない。
「行けばいい。同じじゃなくても、いいだろう?  がまだ行ったことのない、新しい場所だ」
 更に腕を引いた。倒れこんでくる を、胸で受け止める。
「行きたいと思え。いつか必ず、死ぬ前に一度は行ってみたいと、そう思うんだ。その時には必ず、俺も誘えよ―― 一緒に行くんだ。いいな?」
 びくりと震える身体を両腕で閉じ込めた。きつく。これなら逃げられない。カノンから離れていく姿を見なくて済む。一人で逝こうなどと、もう考えられないようになればいい。
「カノン……」
  の身体から力が抜けた。カノンもあわせて両腕の拘束を少し解く。ことん、と がカノンの胸に頭を預けた。
「ごめんなさい――ありがとう」
 呟く のライトブラウンの髪に鼻先を埋める。ふわりと温かくて、いいにおいがした。
「――行きたくなったか?」
 耳元で問えば、くすりと笑う気配がある。
「……ええ」
 くぐもった声が熱い吐息と共に零れた。
 カノンはそのまま の首筋に唇を滑らせる。くすぐったそうに身を捩じらせる をもう一度きつく抱きしめて、離した。横抱きに抱えあげる。
「では、火星に行く前に聖域に戻るか――潮風はまだ早かったようだな」
「そうみたい。ごめんなさい」
 熱をぶり返した怪我人は、程よくぐったりとして素直だった。
 だから、こんなことだって言う。
「そうね、いつか行ってみたいわ……カノンと一緒に」
 うわ言じゃなければいいがとカノンは思い、まともに を見返すことができない自分に少しばかりうろたえた。
 それでもなんとかちらりと彼女を見れば、バツの悪そうな顔をして大人しく抱えられているだけだった。ならばとカノンは開き直る。なんでもない顔をしていれば大丈夫だ。長らく空けることとなった聖域へ戻る頃には、夜暗もカノンの味方をしてくれる。その間に落ち着くことだってできるだろう。

 潮騒に背を向け、砂浜を擁する岩壁を何度か蹴って上を目指した。登り切ったところで、最後に一度振り返る。夜は頭上まで迫っているが、海はまだ残照で染まっている。心の傷をえぐってやまないはずのその風景に、なぜだか不思議と虫唾が走らない。
 全てを赤く色づけるこの光が、少しだけ嫌いではなくなっていた。
 

あかいひかり END



時系列的には15章と16章の合間の出来事です。
そんな部分の話なのに、これはこのブログに辿り着く前の前、このストーリーをネットにアップし始めた頃に書いた小話だったりします。
ですから通しナンバーが[1]なのです。短編の中でも一番最初に書いた短編です。
それでも内容が内容だけに、15章を完結させないと掲載できない話でした。
なんでこんな部分をそんな昔に書いたのかって、そりゃ『夢小説』を書きたかったからですよ(*´∀`)ドヤ
かれこれ6年ほど前に書いた文章なので、ここに掲載するにあたって手直ししまくりました。
当初思い描いていたキャラ設定が微妙に違ってきてしまっていたことに初めて気づきましたが、概ねブレてはいないようでひと安心しつつもちょっとした拷問作業だったかもしれません。
昔の文章って想像以上に恥ずかしいものですねw
そういえば以前にUPした[Side-G:短編02 赤い光――AC206]とはタイトルを被らせています。
あちらはこのストーリーの存在を踏まえて、GWバージョンを書きたくて書いた話でした。もし宜しければ合わせてそちらもどうぞ(*^ー^)
なにはともあれ、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
2012/05/31


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