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Side-S:16章 Promised Reunion 5


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 奇妙な客人がやってくるのに先立って布かれた謹慎令が未だ解かれないまま、聖域は夜を迎えようとしていた。
 修練を重ねて響き渡る声や破砕音が安らかな休息を歓迎するそれへと変わるはずの時間になっても、静寂に包まれたままの聖域はいつも以上に神域の気配が濃厚だ。
 だがその雰囲気をものの見事にぶち壊すものが、今の聖域には存在している。
 ひとつは聖域の要・アテナ神殿を背後に擁する十二宮の次にその偉容を誇示している闘技場に停泊している、白い小型艦。
 そしてもう一つは、アテナ神殿の更に奥に屹立するアテナ神像の背後に隠れるように佇む、白いモビルスーツ。
 少し前まで、そこにはやはりモビルスーツが置かれていたのだ。目立たなかったとはいえ、やはりその姿が見えてしまえば異様としか感じられなかった。そんな光景でも、十ヶ月近くも目にし続ければいい加減慣れるというものだ。
 しかしその姿が突如として消えてから、既に二週間。あるべき光景が戻ったといえばその通りだったのだが、いかんせんその姿の消し方があまりにもよろしくなかった。
 出撃したまま、戻らないなど。
 戦うことを生業とした者達の集う聖域において、それは珍しいことではない。だがその分、身につまされる。
 生死の境目を分ける柵はとても低く、それなのに一度超えてしまえば戻ることは容易ではないのだ。
 そのことを常に感じている彼等だからこそ、戻ることのなかったモビルスーツを思うとき、どうしようもないやるせなさを感じずにはいられなかった。
 アテナ神殿まで立ち入り、件のモビルスーツをしばしば目にしていた者の多くが抱いていたそんな寂寥感はこの日、また唐突に現れたモビルスーツによって補完されることとなった。
 アテナの小宇宙と共に開かれた、神像直下の封印の間。
 そこから大量の砂と共に姿を現したモビルスーツは、消えた以前のものとよく似ていた。カラーリングは少々違うが、頭部の印象などはたいして変わらない。
 それなのに全く違う印象を受けるのは、その背に広がる翼のせいだ。
 以前あった01は、メカニカルに鋭角な翼を持っていた。だが新たに姿を現したモビルスーツの翼は、天使を髣髴とさせるかのようなそれだったのだ。あるいは聖域という場所柄、射手座の黄金聖衣を思い起こす者も多かった。
 いずれにしてもその特徴的な翼は、数千年の歳月をまるで感じさせることなく純白に輝いていた。冬が近づいて幾分弱くなった日差しですら、照り返されて十分に白い。


 ***


「これが……ウイングゼロ」
 感慨深げに はつぶやいた。
 砂の山に隔てられて近づくことはまだできない。しかしその威容は存分に確認できた。過去の記録映像で散々見知ってはいたが、実物を目にするのは初めてだった。
 なにしろそれは、遥かな昔に失われていたと言われていたのだ。 が生まれる前の話だ。
 だから現存していると知って、驚いた。それも異世界に在るなどと、一体誰が想像できるというのだろう。確かにそれでは『失われた』と記録されていることの理由足りえた。
「表層に施しておいたナノスキンは有効だったようだ。詳しく見てみなければわからないが、少なくとも大きな傷は完璧に修復されている」
 ほとんど伝説に近いモビルスーツを呆然と見上げるだけの の隣にやってきたのはヒイロだった。
「機材はとりあえず持っている分だけ、これからデュオが運んで来る。この分だと関節稼動部分も問題ないのではないかと思う。そこよりは内部――特にジェネレーター付近を優先して、検査から始めてくれ」
「了解です」


 淡々と業務通達を行う父娘に、生温い視線が向けられていた。
「まさしくあの親にしてあの子あり、だな。ありゃ……」
 夕日の下に佇む新たなモビルスーツを、しゃがんで煙草をふかしつつ見物していたデスマスクがつぶやいた。
「あれで がもし男だったら、まんまコピーだったんじゃね? まあ顔はともかく、性格とか言動とかさ」
 煙と共に、本人が聞いていたら多少は傷つきそうな言葉を吐き出すデスマスクに、聞きとがめたミロが反論する。
「確かに雰囲気はよく似ているが、やはりそこそこ違うような気がするぞ? どこが、と聞かれると困るが」
「ミロ。それではまったくフォローになっていないぞ」
 冷静にカミュが突っ込み、驚いたことにそれよりも冷静な意見がシャカから飛び出した。
の常日頃の言動から鑑みるに、まったくもって予想通りの男だと思ったが」
「そんな分析ができるほど、おまえは と関わってたか……?」
 胡散臭そうに見上げてきたデスマスクに、シャカは無慈悲に告げた。
「私のことが言えるのかね、デスマスク? 君とて、特に関わってはいなかったと思うが。それよりこのような場所で喫煙はやめたまえ」
「うるせーよ」
 嫌そうにそっぽを向き、デスマスクはそれでも一応咥えていた煙草を地面に落とす。立ち上がり、ほとんどフィルターだけになっていたそれを踏みつけた。
「結局のところさ」
 腕を組んでミロが言う。
と深く関わってたのって、カノンだけなんだよな」
「顔をあわせる頻度だけを言うのなら、教皇とサガもずいぶん接していたようだが」
 カミュの言葉に、後ろからやってきたムウが補足を加えた。
「それと、いろいろ使い走りにされていた貴鬼もですね」
「別に さんから直接小間使いされたわけじゃありませんよ、ムウ様」
 ムウの後を小走りについてきた貴鬼がすかさず口を挟む。なぜか両手いっぱいに何も入っていない大きな袋を抱えていた。ムウが肩に担いでいる袋も、中身は恐らく同じものだろう。
「ムウ、その荷物は――?」
 カミュが疑問を言い切る前に、立ち止まり、荷物を下ろした貴鬼が声を上げた。
「ほんとに さんだ! それから……へえ! あれが さんのお父さん?」
 歓声には、少なくはない羨望の色が混じっている。ムウがひそやかに苦笑を浮かべた。
「思っていたより、あんまり似てないんだね」
「そうでもないぞ。喋り方なんてあんまりそっくりで、うっかり笑ってしまうところだった」
 ついさっきそうでもないと反論していたはずのミロがそんなことを言うので、大人達から笑い声が上がる。
 ひとしきり笑い、デスマスクもまた先ほどとは逆の意見を述べた。
「でもまあ、確かに顔はあんまり似てないよな。てことは、 は母親似か」
「だが、目だけは酷く似た印象を受ける。色が同じという意味ではなくな」
 シャカがそんなことを言うので、周囲の者はぎょっとしたように身を引いた。
「目を閉じててもわかるの?」
 貴鬼だけが無邪気に誰もが気になる部分に突っ込んだ。子供とは、どんな戦士よりも時として最強である。その二心のなさを感じ取ったのだろう。シャカも貴鬼の正直な質問を無下にしたりはしなかった。
「私は別に目が見えぬわけではない。常には閉ざしているだけだ。必要とあらば、しかとこの目でものを見る。ゆえにお前の問いには、目を閉じていてはそんなことまでわかるわけはなかろうと答えておくべきであろうな」
「そ…そうだったのか……」
 どこか納得したようにミロが小さく漏らす横で、デスマスクが新たな煙草を取り出し火をつけた。それを口から外した一瞬、煙に紛れさせてつぶやく。
「……チラ見かよ。ムッツリくせえ」
「別に堂々と見てやっても良いのだがな? デスマスクよ」
 聞こえたらしい。ちっと舌打ちし、横目でシャカを見たデスマスクはそのまま硬直した。真っ青な目が彼をまっすぐに見据えていた。思わず煙草を口から取り落とす。
 まだほとんど吸われていないそれをすかさず踏みつけ、シャカはふんと鼻で笑った。
「ようやく喫煙をやめる気になったか。結構なことだ」
「あ、てめ、火ィつけたばっかだったのに」
 反論しながらもデスマスクはシャカとは一定の距離を保ったまま、それ以上近寄ろうとしない。その様子を見て、カミュがぼそりと感嘆の声を上げる。
「君子危うきに近寄らず、か。デスマスクは思っていたよりも慎重な男なのだな」
「本当の『君子』だったら、そもそもシャカに絡むなんて愚は犯しません。あれは駄目な例の典型です」
 ムウがさりげなく訂正を入れた。なるほど、とカミュは頷く。
「だが虎穴に入らずんば虎児を得ずという言葉もある。デスマスクの距離の取り具合は、ある意味絶妙とも言えないだろうか」
「言われてみれば、確かに」
「ねえねえミロ、ムウ様とカミュ、なんの話をしてるの?」
 くいと貴鬼に裾を引っ張られ、物静かな同僚達のやりとりを傍観していたミロはなんのてらいもなく答えた。
「さあ。なんだろうな――お?」
 折りよく、彼らに背を向けウイングゼロを眺めていた が振り返ったのだ。久しぶりに再会した親子の会話とはとても思えない申し送りが終了したらしい。


 ひらひらと手を振って見せたミロに向けて、 は軽く会釈する。同時にミロの隣に立つ貴鬼に気づいた。ふわりと微笑む。口を開く前に、貴鬼が叫んで駆け出した。
さん!」
 飛びついてきた小さな身体を、 は腰を落として抱きしめる。いつもならその勢いに負けてたたらを踏んでしまいそうになるところだが、今はそうはならなかった。思いのほか力のある腕が、しっかりと を引き寄せて支えている。どちらかというと、 が貴鬼に抱きしめられている格好だった。
 しばし無言で、貴鬼は にしがみつく。まるで の存在を確かめるかのように。やがて顔を上げ、くしゃりと笑みを浮かべて見せた。
さん……おかえりなさい!」
 見上げる目には、うっすらと涙が浮かんでいる。零れ落ちないように、こらえているのだとわかった。 の胸が温かくなる。嬉しい。素直にそう思えた。言葉が自然と口をついて出る。
「ただいま、貴鬼。――ありがとう。心配かけて、ごめんなさい」
「本当に心配したんだぞ。生きていて良かった。戻ってきていたのは知ってたのだが昨日は会えなかったから、こうして元気な姿を見れて嬉しい。おかえり、
 貴鬼に次いで歩み寄ってきたミロが声を掛ける。目元をごしごしと擦る貴鬼の肩を叩いた。立ち上がった を軽く抱擁する。
「ミロ……」
「貴鬼もそうだが、俺達―― を知っている奴等は皆、心配していたんだぞ」
「すみませんでした……」
 改めて言われ、 はしょんぼりと肩を落とす。こんなふうに思ってもらえていたなんて、知らなかった。――嬉しかった。
「ありがとうございます。また皆さんにお会いできて、本当に良かった……」
 たくさん世話になった。面倒も掛けた。命を張らせる協力までしてもらった。それら全てに対して、 は感謝の言葉すら、述べることができなかったかもしれないのだ。
 ――否。かもしれない、ではない。間違いなくそうなるはずだった。それらを全て放り出して、逝くつもりだったのだから。あのときは。
 己の短慮を思い返して、いまさらながら は震えた。本当に馬鹿なことをした。心から思う。
「ありがとう――ごめんなさい。……ありがとう」
 うつむいて声を絞り出した の背を、ヒイロが撫でる。あのときに、爆風で火傷を負った場所だった。ナノマシンのお陰で怪我はほとんど完治しているのに、なぜだか沁みるように痛かった。
 傷の痛みではなく、心が痛いのだということは、勿論わかっている。
 いつの間にか集まってきていた聖闘士たちに向かって頭を下げる。皆、 を責めることなく、笑みを浮かべることで労ってくれていた。


 今度こそ本当に笑顔を浮かべた貴鬼が、 の手をぎゅっと握る。 を見上げ、そして の隣に立ったままのヒイロをまじまじと見つめた。躊躇いがちにではあったが、尋ねる。
「おじさんは さんのお父さん――なんですよね?」
 話しかけられたヒイロは、子供相手であってもやはり表情を変えることはなかった。だが返答はだけは真面目にする。
「そうだ」
 初めはどこか恐る恐るといった様子だった貴鬼だが、きちんと応対されたことで緊張がほぐれたのか、いきなりとんでもないことを口走った。
「あんまり……似てないんだね」
「貴鬼!」
 さすがにムウが慌てて咎める。頭を軽くひっぱたき、二の腕を掴んで から引き離した。ヒイロに向けて貴鬼の頭を下げさせる。
「すみません。弟子が失礼なことを」
「いや」
 ムウの謝罪をヒイロは遮った。
「構わない。事実だ。 は」
 娘に目をやり、断言する。
「母親似だからな」
「お父様!」
 反射的に抗議の声を上げた を、ヒイロは目を細めて見つめた。
「しばらく見ない間に、ますますリリーナに似てきていて、驚いた。――自分の望むものを、まっすぐに見ているときの顔など、そっくり同じだ」
「…………」
 驚くほど穏やかにそう言われてしまい、 は反論ができなくなった。少しばかりむくれて目を逸らす。
 血筋だけでも面倒なのに、さらにこの顔のせいでいらぬ面倒が舞い込んでくる。 がそれを随分昔から快く思っていないことくらい、ヒイロは十分すぎるほどわかっているはずだ。それなのにあえて言うのだから、本当にそう思ったということなのだろう。個人の心からの言葉を否定する権利など、 にはない。
 何がおかしいのか、突然デスマスクが笑い出した。
「なんだよ。それなりに親子っぽいじゃねーか」
  だってまがりなりにも大人である。公衆の面前で、あまり親がどうとかいうことは言われたくはない。
 しかもここには貴鬼もいる。よくは知らないが彼は――そもそも聖域にいる人々は基本的にそういう境遇の者が多いらしいのだが――どうやら親とは縁が薄いようだ。それなのにこんな様子を見せ付けるのは、酷な気がした。せっかく親が健在でいるというのに、ぎくしゃくしているのだからなおさらだ。
 その話題は止めて下さいと言おうとして、結局それはかなわなかった。
「ふむ。アテナの前では、カノンが言い出すまで全くわからなかったからな。言われてもいまいち信じられなかったのだが、今ようやく合点がいった」
 シャカがデスマスクに便乗し、さらにミロまでが乗ってくる。
「ああ。カノンが怒鳴り始めた時には何事かと思っただけだったが、父親とか言い出した時には、悪いが正気を疑ったからな。というか、何を言っているのかと唖然としたぞ」
「……その前に、 と同じ苗字で呼びかけていたではないか。まさか気づかなかったのか……?」
 それこそ唖然とカミュがつぶやいた。ムウがその隣で完全に呆れかえっている。
 さすがに己の迂闊さに気づいたのか、ミロは強引に話題を変えた。ひどくいたたまれない風情を醸し出していた に話を振る。
「………………で、そのカノンはどうした? どこへ行ったのだ?」
「何か羽織るものを持ってきてくれると言っていたのですけど……」
 そう言う はキトンの上に布――カノンのマントだろうか――を纏っただけの、秋の戸外ではいかにも寒そうな格好をしていた。
 ちなみに隣に立つヒイロに至っては、アテナの御前では着ていたはずのジャケットを脱いでしまって今はタンクトップ一枚の姿だ。それなりに気温も低く風も強いこの場所にあってもちっとも寒そうにしていない。この対比のせいで、 がまだ全快していないことを考えると薄着に過ぎることを誰もが失念させられていた。
「俺のも貸そうか?」
 言うなりマントに手を掛けたミロを、 は慌てて制した。
「いえ。どうぞお気遣いなく。大丈夫です」
「カノンの以外はいらないってか?」
 にやにやしながらすかさず茶々を入れたのはデスマスクだった。
「作戦前には何となくぎすぎすした様子だったのに、戻ってきたらえらく親密な雰囲気になってたな? なんかあったのかな?」
「デスマスク!」
 ムウは語気も鋭く遮った。それはさすがに詮索しすぎというものだ。しかも の側にはヒイロがいるのだ。
 勿論デスマスクもわかっていてやっているはずだ。ムウがたしなめただけでは止めないだろうと思いつつ、それでも声を上げずにいられなかった。
 幸いなことにカミュもミロも、さらにはシャカまでが同じように思ったらしい。三者三様、デスマスクに向けて物理的な抑止策を取っていた。
 ――すなわちカミュが凍気でデスマスクの口の動きを止め、ミロが脇腹へリストリクションを打ち込み、シャカが背後から脳天へ向けて鉄拳を振り下ろしていた。
 全力で仕掛けられた攻撃ではない上に、デスマスクも黄金聖闘士である。これでどうにかなるわけはなかったが、少なくとも口を封じることはできたようだ。
 ほっと胸をなで下ろしつつ、ムウは とヒイロを伺い見た。 は突然の惨事に驚いているようだったが、ヒイロはと言えば眉一つ動かす様子もない。無感動な目は、装っているのか。それとも本当に何も思っていないのか。
 デスマスクの余計な一言は、親なら多少は気になるものではないのだろうか。
 しかも先のアテナとの謁見の際のカノンと の様子は、普段一緒にいることの多かった二人を見慣れていたはずのムウでさえ目を瞠るものがあった。久しぶりに再会した娘が、見も知らぬ男とあんな親密な雰囲気を漂わせているというのは、決して面白いものではないだろうとムウは思うのだが。
 凝視にならぬよう、それとなくムウはヒイロを観察する。その視線の先で、ヒイロは黄金に輝く聖衣を纏ったままくだらない口論を繰り広げ始めた聖闘士達をじっとみつめているだけだった。


「彼等は道具も薬品も使わずに、物質の温度を下げたりすることもできるのか……」
 ヒイロがふとつぶやく。
 誰に聞いているわけでもないだろう。ほとんどつぶやきのような言葉だったが、 は答えた。
「ええ。それだけではなく、彼等は武器も何も使わず生身のみで凄まじい破壊力を発揮できるんです。しかも――信じがたいことですが、その拳の速度は音速、人によっては光速にも達します。戦士として、人間として、彼等は究極の高みに到達していると言っても過言ではないと思います。……人であるが故の迷いも間違いも色々とあったようですが、結局はそれを乗り越え、死をも受け入れ、この世界の人々を神という脅威から救ったそうです。――素晴らしい方々です」
 聖闘士達を見遣り、それから遠くを見はるかし、 は一言一言を噛み締めるように言って聞かせる。
 言葉に込められた羨望と信頼。それらにはきっと、希望も込められているのだ。長く続いた聖戦の繰り返しに一段落をつけ、ついには平和を勝ち取った女神アテナと聖闘士達への憧憬が。
 ヒイロは軽く額に手を当てた。表情はやはり変わらないが、それが彼なりの感情の表現なのかもしれない。
「……想像の範疇を超えている。だが、ここならそれも有り得るような気はする。神という不可思議が実際に存在する、この世界でなら」
 ゆっくりと周囲を見回す。光に満ち溢れた大地と空を。眩しいのか目を眇め、それでもヒイロは目を逸らさずにそれらを眺めた。
 やがて視線を へ戻す。彼らの世界のそれと似て非なる、この異世界の光景を愛おしげに眺めて止まない娘に。険しさが目立つ目元が、わずかに緩んだ。
「そんなふうにしていると、やはりおまえはリリーナに似ているな。――大事なものが、見つかったんだろう? お前が、ずっと望んでいたものが」
 先ほどと同じことをまた言われた。 はヒイロを見返す。
 母に似ているという自覚は、勿論ある。だから反発もする。だが目だけは、父に似ているとよく言われてきた。その目が をじっと見据えている。とても穏やかに。なのに鋭く核心だけは突いてくる。
 反感は、もう感じなかった。
 ずっと会っていなかったのに、なぜこんなにも見通されているのだろう。怖いくらいだ。同時にわかってもらえているという安心感もある。素直にうなずくことができた。
「……はい」
「ならばそれを大切にしろ」
 ヒイロは視線を転じる。空を見上げた。
「それさえあれば、人はそこが例え光届かぬ宇宙であっても、戦うことができる」
「はい……!」


Side-S:16章 Promised Reunion 5/ To Be Continued




前回でヒイロ登場は一旦終わりにしようと思っていたのですが、どうしても言わせたい一言があったので無理やり引き伸ばしてしまいました。
よって、ストーリー的には蛇足です。
ですがお陰で、モブとして登場してもらった黄金聖闘士達のくだらないやり取りもダラダラ書けて、個人的にはとても楽しかったりもしました。
詮ない二次小説ですので、ストーリーの運びに無駄が多い部分については目を瞠ってやっていただけるとありがたいです。
……などと言い訳をしているのは次回もこのシーンの続きだからです。あまりにも長かったので分割しました。
というわけで蛇足部分ではありますが、もう少しお付き合いくださいませ。

ちなみにどうしても言わせたかった一言とは、第3次スーパーロボット大戦αに出てきた台詞です。
私はゲームは苦手なので未プレイなのですが、該当部分だけは連れ合いに頼んで見せてもらいましたw
会話の流れ上、少し変更はしましたが、ほぼまるまんまパクらせていただいております。


2012/06/20


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